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「おはようございます」

「おっ、はよう、ございます」

 どういうことだ。尾白さんと同じベッドで寝て……!?

「一応、私は帰ろうとしましたからね。引き留めたのは田島さんの方ですよ。あと、添い寝しただけで指一本触れてないので、安心してください」

 尾白さんは少し疲れた顔でそう言った。

「ごめんなさい……!」

「いえ、可愛かったからいいです」

「かわ……!?」

「えぇ。自重するのに精神力持って行かれましたが、幸せなので問題ないです」

 朝からキャパオーバーである。糖度が高すぎる。

「さて、今日も仕事ですよね? そろそろお暇します」

 ベッドから出てぐいっと伸びをした。

「あ、はい! あの、いろいろとありがとうございました」

「今日は呼び止めてくれないんですか?」

「! からかわないでください……!」

「ははっ。ではまた、あとで」

 そう言って尾白さんは帰っていった。

「びっくりしたぁ。朝からあの綺麗な顔を拝むのは心臓が止まるかと思った」

 心臓がまだバクバクしているが、仕事の準備をしなくては。


「おはようございます」

「田島さん、例の彼はなんて? 連絡先教えてくれるって?」

 女性社員たちに囲まれる。

「すみません、断って欲しいと言われてしまいました」

「何よ、本当に役に立たないわね」

 グチグチと文句を言いながら去って行く。

――突っ込まれなくてよかった!

 何しろ嘘がつけない田島である。

「田島、おはよう」

「藤岡さん、おはようございます」

 そうだ。

 藤岡さんには報告しなければ。

 きっとまた傷つけてしまう。

 でもこれは、逃げてはいけないことだとわかっている。

 昼休み、いつもの如く優香さんとランチである。

 優香さんにも報告しよう。

「優香さん、あの……尾白さんと付き合うことになりました」

「え! あの気になる彼? おめでとう!」

 優香さんは少女のように喜んでくれた。

「いつから?」

「つい昨日から……」

「あの奥手な響子が告白したのよね。よく頑張ったわね」

 姉のような存在である優香から褒められると、なんだか誇らしく思えてくる。

「お幸せにね」

「はい。これからもいろいろ相談させてください」

「任せなさい」

 そう言って優香さんはお茶目に笑った。


 午後の仕事も終わらせ、定時。いよいよである。

 ビルを出たところで藤岡さんの背中に声を掛ける。

「藤岡さん」

「田島、どうした?」

「お話、いいですか?}

 私の言葉に、藤岡さんは何か察したようだった。

「……わかった。そこのカフェに入ろうか」

 カフェで向かい合って座る。

 しばらくの沈黙。アイスティーの氷がカランと音を立てる。

「尾白さんと、付き合うことになりました」

 意を決して口を開いた。

「覚悟はしてたんだけどなぁ。そうかぁ、完全敗北かぁ」

 藤岡さんは悲しそうに笑った。

「うん。わかった。約束通り田島のことはちゃんと諦めるよ」

「……はい」

 謝るのはなんだか違う気がして、言葉が見つからなかった。

「そんな顔しないで。田島は何も悪くないんだから」

 藤岡さんは大人だな、と思う。私はこんな時でさえ自分のことしか考えられないというのに、私に気を配ってくれるなんて。

「俺を振ったからには幸せになれよ」

「はい」

 やはりうまい言葉は見当たらなくて。言葉少なになってしまう。

「田島が幸せでいてくれたら俺はそれでいいから。さ、そろそろ帰ろうか。あまり長らく田島と二人きりでいるのも尾白さんに悪いしね」

 先ほどまでの空気をかき消すように、藤岡さんは明るい声で切り出した。

「じゃあ、また明日」

 カフェの前で解散した。

 

 夜。

 眠れない。薬を飲んだというのに、全く眠くならない。

 時刻は早朝5時。

 これはもう、起き続けるしかない。

「一睡もできなかった……」

 6時。いつもの起床時間にベッドから出る。

 もちろん体の疲れはとれていない。むしろ疲れている。

 だるさを抱えたまま出勤することになった。

「おはようございます」

「田島、顔色悪いけど大丈夫か」

 藤岡さんが私の顔を見るなり声を掛けてきた。

「大丈夫です。ちょっと寝不足で」

「そっか。あまり無理するなよ」

 仕事の効率は多少下がったものの、ミスすることなく終えられた。

 尾白さんとのメッセージのやりとりを終え、ベッドに入る。

 昨日一睡もしていないから、さぞかし眠れることだろうと思っていたのだが。

「なんで。眠れない」

 睡魔は一切やってこない。

「二徹は流石にきついんだけどな」

 そうはいっても眠れず、結局朝を迎えてしまった。

 これが4日続いた頃、流石におかしいと疑い始めた。

 仕事も小さなミスが出始めている。

「田島、ふらついてる。今日はもう早退したらどうだ?」

 藤岡さんにそう言われる始末。

「いえ、大丈夫です。この案件、片付けてから帰ります」

 体調が悪くても納期は待ってくれない。

 睡眠不足でギリギリの体を引きずって、帰り道。目の前が霞む。突然の浮遊感に頭が追いつかない。あれ、と思っていると体に衝撃が走った。地面に倒れ込んだのだ。

「まって。ここでねむるとか、ないでしょ」

 必死に体を起こそうとするものの、体は動かない。意識も遠のいていく。

「田島さん!?」

 尾白さんの声が聞こえた気がした。


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