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ここ数日、時間が合わず田島さんに会えていなかった。
だから気がつかなかった。メイクで隠しきれないほどやつれた顔。薄ら隈が見える。
病室のベッドに横たわった田島さんを見つめる。
「どうして、こんなになるまで……」
「ん……あれ、尾白さん? ここどこですか?」
ぼんやりと目を開けた田島さんに思わず抱きつく。
「え!? どうしたんですか」
「なんで、こんなことに? こんなにやつれて……どうして言ってくれなかったんですか」
つい、責め立てるように言葉が走った。
「頼りなかったですか?」
我ながら弱々しい声だった。
「違います! そんなことないです、絶対に!」
勢いよく否定されて、わずかに安堵する。
「ただ、相談相手がいることになれてなくて……。ごめんなさい」
「こちらこそ、責めるようなことを言ってしまって申し訳ありませんでした。これからは何でも話してください。何でもいいんです。どんな些細なことでも聞きたいんです」
落ち込む田島さんに言葉を掛ける。
「今回は、なぜこんなことに?」
先ほどより柔らかい口調で問いかけた。
「眠れなくなっちゃって。尾白さんに血を吸ってもらったときは眠れるんですけど」
「血を飲まれないと、眠れない……? ここ数日会えていなかったから、一睡もしていないということですか?」
「はい……」
なんということだ。田島さんがここまで苦しんでいることに気づけなかった自分が情けない。
つまり、私が血を吸わないと田島さんは眠ることができないということだ。
あの夜、私に田島さんの血が必要だったように、今、田島さんには私が必要だということだ。
「毎晩、会いに行きます。毎晩血を吸います。貧血が心配なので少量ずつ」
「尾白さんの負担が大きすぎます」
「これくらいのことは負担に入りません。もう倒れて欲しくないので、どうかそうさせてください」
道に倒れる田島さんを見て、肝が冷えた。また失うかも知れないと思った。あんな思いは金輪際ごめんである。
「じゃあ、よろしくお願いします」
点滴が終わり、病院をあとにする。
「このまま田島さんの家に寄って血を吸います」
「お願いします」
何度目かの田島さんの部屋。
「あ、そうだ。これ」
手渡されたのは鍵。
「うちの合鍵です。持っていてもらえますか」
信頼を手渡されたようで、胸がいっぱいになった。
「ありがとうございます。今度、うちの合鍵も渡しますね」
ソファに座って手首から血を摂取する。
これから毎日吸うことを考えて、いつもより抑えめに。
「これくらいにしましょう。どうですか、眠くなりましたか?」
田島さんの様子を窺う。
「はい。すこしふわふわしてきました」
「では、ベッドに横になってください。このまま眠ってください」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
田島さんはすっと眠りについた。
毎晩田島さんの血を飲んでは寝かしつける日々が続いている。
幸せではある。ただ、少量ずつとはいえ毎日血を頂戴するのはやはり、健康に害があるのではないかと思う。人間のパートナーとの吸血は基本的に1~2週間に1回である。
血を飲まずに眠ってもらう方法はないものか。
ここしばらくは、そんなことを考えていた。
「尾白さん?」
田島さんの部屋で考え込んでしまい、声を掛けられる。
「あぁ、すみません。少し考え事をしていました」
「大丈夫ですか? お疲れなのでは。今日は泊まっていきますか?」
他意はない、本当にただ心配からくる言葉だとわかってはいるけれど、ドキリとする。
「……では、お言葉に甘えて泊まらせてもらいます」
幸い、明日は休みである。
そろそろ、と思いつつも経験がないという田島さんのペースに合わせたいとも思う。
「今日はベッドで血を頂いてもいいですか」
「そ、うですね」
田島さんの目が泳ぐ。きっと今になって自分の発言が意味することに気づいたのだろう。
耳を赤くしている姿が可愛くて仕方ない。
ベッドに上がる。
すると。
「ふわ……」
くわ、とあくびを一つ洩らした。
「もしかして、眠くなりましたか?」
「そういえば……尾白さんが隣にいると思うと、なんだか安心してちょっと眠くなってきました」
不意打ちの言葉に嬉しくなる。
そうか。私は田島さんの安心になれているのか。
「では、今日はこのまま眠ってみましょうか」
ベッドに横になって、まどろんでいる田島さんと他愛もない話をする。
だんだんと、返事が遅くなり話がかみ合わなくなる。そんな姿さえも可愛く思える。
「おやすみなさい」
とうとう眠りについた田島さんに言葉を落とす。
血を飲みたいと思うより、愛おしいと思える感情があるのか。
健やかな寝顔を見て思った。
額にそっとキスを落とす。
――目が覚めたら。
「ここにさせてくださいね」
親指でそっと唇に触れた。




