第20話 地道な捜査は続く
アナハイドたちがやって来たのはイーグレット配送センター。
湾岸区にあるこの施設は、海路、空路で異国、異世界から輸入された物資を一度ここに集めて管理、検査してから国内の商業施設に配送する。
そんな場所ならハイネリアン魔法学院で花が見たと言われる白い箱の正体が分かるはず。
そう考えたわけだ。
そんな施設で、アナハイドたちは職員たちにハイネリアン魔法学院に配送されている物資の記録データを見せてほしいと警察手帳を見せて協力を仰いだ。
ここで拒否されるのならここもダークトリニティの魔の手に堕ちていると思ったのだが、協力してくれる辺りからして問題はないようだ。
「魔法の杖、魔法の杖、キャンバス2000ってこれ大丈夫か? 昔の映画で出てた箒だろ?」
「箒は箒でも掃除用の箒だね。まあ問題ないんじゃない? にしても白い箱ないねぇ」
パソコン画面の上に流れていく文字の羅列を見ながらアナハイドたちは深い溜息を吐いた。
かれこれ何時間この画面と睨めっこしているのだろう。
白い箱どころか、知らない物資の文字すら見えない。
出てくるのは全て在学生のための杖や箒がほとんどだ。
「異世界の物資は絶対ここを通るはずだろ? なんで無い」
「裏ルート、とか? まあそれはないか」
ポチータは頬杖をつきながら言った。
「この国のホールはハイネルと繋がる攻略されたホールただ一つだけだしね」
「それにあそこは国の管轄だしな。向こう側はハイネル管轄だが、ファンタジーアース側を通るなら国の許可が必要だ。裏ルートなんざあり得ない」
「だとしたら? やっぱ学院内にホールがあるとか、かなぁ?」
「それは、あるかもな」
現在F・E・T・Sに調べてもらってる謎の化け物の死骸。
それがカリギュラだと判明すれば学院内に未知のホールが出現している可能性が高い。
ホールの中は両世界にとって宝が眠る世界だ。
未知のMEであるエーテル鉱石。
食糧問題を解決するであろう無限に分裂する牛型カリギュラ。
そして幻覚作用のある薬草は医療機関によって新薬の開発に。
危険な場所であると同時に魅力的な場所でもあるわけだ。
アナハイド的には油田を掘り当てたようなものに近いのだろうと考える。
そんな事をぼーっと考えていた時だった。
画面に流れる文字の中に一つだけ見覚えのない物資が混ざっていることに気づいた。
そこには『秘匿物資X』と書かれている。
「なんだこりゃ」
「ん? 何か見つけたの?」
「こいつだ、この秘匿物資Xってやつ」
アナハイドのパソコンを覗き込むポチータ。
犬耳がぴょこぴょこ跳ねてアナハイドの鼻をくすぐる。
くしゃみが出そうだったのでアナハイドはポチータの耳を押さえ付けながら——
「なんで表記がXなんだ? ここにある物資は全部正式名称で表示されるはずだろ?」
「そのはず、なんだけどね。……って耳が痛いよ」
怒ったポチータだが、アナハイドは無視して耳をギュッと押さえつける。
くすぐったいのだ。
文句があるならその耳を折りたたんでほしいものだ。
そんなポチータを無視して秘匿物資Xについて調べていると、ハイネリアン魔法学院に流している数が毎日500もある。
毎日、こんな謎物資が送られている。
箒や魔法の杖でさえ一日100前後だというのに……。
「あやしいね」
「だな」
そうとなれば、と二人は部屋を出て手ごろな職員に尋ねることにした。
「なあ、ハイネリアン魔法学院に流してる秘匿物資Xってのはなんだ?」
「秘匿物資? ああ。あのハイネルから輸入された物資のことだね」
「中身は何かな? 教えてくれるとありがたいんだけど」
ポチータの質問に職員は、さあ? と肩をすくめる。
「僕らにも分からないんだよ。なんでもハイネル政府からの指示らしくてね」
「「ハイネル政府ぅ?」」
アナハイドとポチータの声がハモった。
「おいおい、いくら向こうの言い分でもここじゃ全部中身は晒すって決まりだろ? 中を見たことないのかよ」
「ないね。異世界からの輸入のほとんどは確認できるんだけどハイネルのだけはそれが許されないんだ。まあ古い魔法国家らしいからね。隠したい魔法技術とかあるんじゃないかな? これもそのうちの一つだと思うよ」
「んな適当な……」
「適当でも政府の言い分は絶対だよ。僕らはただの物流センターだからね。異世界まるまる敵に回す訳にはいかないのさ。もういいかい?」
「あ、ああ。時間を取らせて悪かったな」
職員は忙しいのだろう。
話を終えるとそそくさとアナハイドたちから立ち去って行った。
廊下に残されたアナハイドとポチータの二人は互いに目を合わせる。
手掛かりは見つかった。
だが相手は異世界ハイネル政府による条件によって隠されてしまっている。
明らかに怪しいのだが、迂闊に手が出せない。
事実上の同盟国ではあるのだが、異世界側の法律とこちら側の法律の折り合いがついていないのだ。
警察としての調査権限にしたってそれはこちら側の都合。
向こうにとっては意味のない権限だ。
(そんな状態で無理やり物資の中身を確認してみろ。最悪両国の仲が悪くなって黎明期みたいにギスギス状態に逆戻りだ)
「どうする? このまま花さんの情報を待つ?」
「…………いや」
だからと言ってこのまま何もせずにじっと待ち続けるアナハイドではない。
彼にとって怖いのは給料の出ない仕事であって、異世界の政府なんぞ恐るるに足らずだ。
「こうなりゃ実力行使だ。ハイネル大使館に強硬突撃するぞ」
「やっぱり……。君ならそう言うと思ったよ」
強硬突撃と言っても、正面切って殴り込みというわけではない。
アナハイドたちは秘匿調査員、いわばスパイ活動を主とする警察官だ。
そのため、彼らには警察署に所属する事実はなく、いざ立場を問われればトカゲの尻尾のように切り捨てられる存在でもある。
逆に言えば、成果さえ出せば何をしても良いのだ。
「そうと決まればおいらは一度戻って君のサポートに徹する必要があるね」
「おう。俺はこのまま大使館に向かうとするわ」
二人は、コツンと拳を合わせた。
「なら30分後に作戦開始だ。くれぐれも見つからないようにね」
「誰に向かって言ってる。俺はイーグレット一のかくれんぼ名人だって有名な——」
「はいはいしょうもない嘘乙。さっさと仕事に取り掛かるよ」
「あっ! ちょい! 嘘なんかついてねぇよ! 本当だって、この間も町内のかくれんぼ大会で優勝して——」
「はいはーい。それはすごいですね~」
アナハイドは話を無視するポチータを追いかけて配送センターの施設から出るのだった。
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