第19話 白い箱
花からの報告連絡を受け、アナハイドたちは一度街へ戻り、ハイネリアン魔法学院と取引している存在について洗い出すことになった。
というのも花から聞いた謎の白い箱の存在。
それがどこから仕入れられた物で、何を素材に作り上げられたかを調べるためだ。
だが、調査を始めて半日、めぼしい情報は得られず、アナハイドとポチータは近場にあった喫茶店で一度休憩を取ることにした。
「魔法学院ってさぁ、なんでここまで閉鎖的なんだよ~。今時ここまで中が分かんないってことある~?」
「俺の知る限りじゃ無いな。つってもあの学院は異世界のだし、俺たちの知ってる常識を当てはめるのも無理があるが」
「おいらだって異世界人だよ? それでもあれは異常だって」
長く過ごしたこともあり、ポチータが異世界人だということを忘れてしまっていた。
まあ犬耳に尻尾が生えているのだから、よくよく見れば異世界人らしい異世界人なのだが。
「それで、白い箱もそうだけどあの庭に落ちてた化け物の死骸。あれについても謎のままだけど、どうしよっか」
カリギュラかもしれない化け物の死骸。
一応死骸には触れずにそのまま置いてきた。
なにせ意図的にその場に放置している可能性すらあったのだ。
触らぬ神に何とやらだ。
だが今の時代、死骸を回収できずともカメラで写真を撮るって技術がある。
アナハイドは死骸の写真をスマホに収め、今一度ポチータと眺め合うことにしたのだが——
「まあおいら達だけで見てもこれが異世界の魔物か、カリギュラかどっちか断定できないよね」
「ここにホールがあるとしてもハイネルに住む魔物の可能性だってあるわけだしな。だがハイネルの事情は国に情報規制されてるから、どんな生き物が生息してるかも不明だし、どうしようもない」
自分たちの今の手札ではこれ以上の調査は不可能だ。
そう、自分たちの手札だけなら。
「こうなったら協力者に頼むとすっかね」
「だね。花さんだけに頼らなくてもいいはずだし」
そうしてアナハイドはスマホでとある場所に連絡を入れることにした。
協力者、つまりF・E・T・Sだ。
異世界の専門家であるかの機関であれば、この死骸について何か分かることがあるかもしれない。
『はい、もしもし~? こちらF・E・T・S本部だけど』
電話に出たのは妙に若い女だ。
仕事の電話だというのに妙に軽い、どこかポチータのような雰囲気を彷彿とさせるが——
「あー、俺はイーグレット警察のアナハイドって者なんだが。今イーグレット警察とおたく協力体制取ってるだろ? その件で、ちょこっと相談事があってだな」
『ふむふむ。相談ね~。おっけー。といっても僕はちょっと専門外だから担当の部署につなぐね。にしてもなんでこう、人がいないときに限って連絡が回ってくるかなぁ。せっかく直哉君が作ってくれたオムレツが冷めちゃうじゃないか……』
明らかに電話相手に聞こえちゃまずいことをこの女は言ったが、アナハイドは気にしない。
寛大な心の持ち主なのだ。
この程度のマナーの悪さであればいくらでも耐えられるというもの……。
『あー。もしもーし! 僕のとこに外件を回さないでほしいんだけど~? え? 事務仕事も外件担当の内だって? 僕は技術部! 事務所じゃないよ! 事務所はどうしたかって? みんな仕事に出払ってるよっ! もうっ! いいかな? これは君たちの案件だからそっちで対応よろしく! 僕は今仕事で忙しいんだから! じゃあね!』
オムレツ食べてるのでは? というか電話を保留し忘れてるのか?
この女はF・E・T・Sの職員で問題ないのだろうか。
これなら自分にも仕事が務まりそうだなとアナハイドは考えてしまう。
それほどこの電話の向こうの女の職務態度が異常なのだから。
『もしもーし。担当と話つけたからそっちで話してもらえるかな。今から回線をつなぐからよろしく~』
「あ、ああ。頼む……」
そして女の声は消え、代わりにオルゴールBGMが流れ始めた。
しばらくして電話に出たのは男の職員。
先ほどの女と違って礼儀正しい対応をしてくれた。
アナハイドはハイネリアン魔法学院で見つけた謎の生物の死骸について報告すると、写真を送信してほしいと言われた。
当然すぐに送り付け、その返信を待つのだが——
『解析までに時間がかかるかもしれません。なので折り返しこちらから連絡いたしますので』
「了解だ。それで頼む」
そうして通話を終えた。
協力体制を取ってるだけあって会話はスムーズに流れたと思う。
「で、どうだった?」
スマホを片付けるとポチータがコーヒーを飲みながら尋ねてきた。
そんな彼女にアナハイドは——
「向こうにもお前みたいなアホっぽい女がいるなぁって……」
「誰が! アホっぽいだって!?」
テーブルの下でアナハイドはポチータから足蹴りを受けた。
さすが獣人だけあってかなりの威力だ。
脛が、めちゃくちゃ痛かった。
「痛ぇな。調べてくれるってさ!」
「だったら最初からそう言ってよ! いちいち余計なんだよ君は!」
「悪かったって。そんで、これからだけど、俺たちは花の言った白い箱についてフォーカスした調査をしようと思う」
「ふぅん。おっけー。なら全力で調べますか」
アナハイドたちは席を立った。
謎の死骸については一旦F・E・T・Sに任せるとして、これからは白い箱についてだ。
確か花の話では、必要なカリキュラムだとして支給されてると言っていたはず。
学院のほとんどの時間を自習に費やすあの場では不思議なことだ。
それにそのようなカリキュラムが花の所属する魔技修練塔だけにあるとは思えない。
他の二つにも何かしらのカリキュラムがあるはず。
そう考え、アナハイドはとある場所へ向かうのだった。
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