第17話 田舎者の潜入調査
アナハイドたちに入学の結果を連絡し終えた花は、塔の中にある居室で荷物を下ろしている最中だった。
どうやらこの学院では一人一人に居室が与えられるらしく、新入生である花も例外なく部屋の一室を貸し与えられたわけだ。
荷ほどきをしながら花は辺りを見渡し、誰かがこの部屋を覗いていないか確認すると、一台のパソコンをクローゼットの中に設置する。
F・E・T・S技術部開発の通信連絡装置だ。
電力ではなく異世界産MEを使用して稼働するこの装置は、どんなところであってもF・E・T・S本部と通信可能だ。
ちなみにこの装置の設計・開発者はとある異世界人の狂科学者なのだが、末端オペレーターである花はそんなことを知らない。
ただ上司であるリーンに、学院に潜入するのなら必ずこの装置を設置するようにと言われ、持たされただけだ。
「これで、よし……」
クローゼットにすっぽり収まった装置の前で汗を拭う。
本当にこれが役に立つんだろうか。
ただの通信であれば携帯でもいいはずなのに。
花はそう考えるが、リーンの言うことに間違いはないはず。
何か他に機能があるのではないだろうかと装置をいろんな角度から見渡すが——
「失礼します。山野花さん? いらっしゃいますか?」
「!?」
突然のノックに花はクローゼットをバタンと閉め——
「は、はい! いますだ!」
急いで扉へ向かい、開ける。
扉の向こうにいたのは、先ほど花をこの部屋に案内してくれた女学生。
名をリンツという。
小柄であるがしっかり者。
花よりも堂々とした態度のリンツは、眼鏡をくいっと上げて一言。
「荷ほどきの最中でしたか。ですが、今から塔の主に面会してもらわないといけません。ついてきていただけますね?」
この様子だと拒否権はないのだろう。
花はちらりと部屋の中に目を向ける。
勝手に誰かが入ってアレを見ないだろうか。
そんな不安はあるが、ここでこの人の話を拒否しては悪目立ちしてしまうだろう。
そうなれば調査どころではない。
花はリンツに頷いた。
「は、はい。どこまで行けば?」
「私についてきてもらえば分かりますよ。さ」
そうして花はリンツの案内で、塔の主との面会に向かうことになった。
花の所属する魔技修練塔は、文字通り魔法の技術を鍛える場。
主に身につけた魔法を問題なく扱えるようになるまで、技術を磨く場だ。
だからだろうか。道中、塔の中にある部屋の多くはトレーニングルームだった。
行き交う人々も筋骨隆々。
魔法使いっていうよりは武闘家のような出で立ち。
そんな光景が広がる塔を上り続け、最上階まで辿り着いた。
最上階、赤い絨毯が敷かれた廊下の奥に、この塔の主がいるという。
そんな部屋の前で花はゴクリと息を飲んだ。
「では私はこれで」
「え、リンツさんはついてきてくれないんだべ?」
立ち去ろうとするリンツを呼び止めたが——
「はい、私も予定がありますので。新入生の相手に時間を割いてる暇はこれっぽっちもないんですよ。学費もタダじゃありませんしね」
そう言って階段を降りていってしまった。
一人残された花は扉と向き合う。
塔の主……。
塔だ。
花たちが追っているダークトリニティ——暗黒の三つの塔。
奇しくもこの学院にも三つの塔がある。
それにアリーナが言った話からしても、間違いなく学院はダークトリニティに関わっている。
その塔の一つに花はやって来ている。
恐らく、この扉の向こうにダークトリニティにまつわる者がいる。
「落ち着け私。ただ普通にしてればいいだけだべ」
頬をパンと叩いて、いざ——
「しつれいしまーす!」
扉を開けて中に入った。
開けた先にいたのはなんと、着替え中の女性が一人。姿見の前でキョトンとした顔を花に向けてきていた。
花は緊張のあまり、常識であるノックを忘れてしまったのだ。
「な、なな——」
「あ、あー。こりゃしつれいしました!」
「失礼したのなら出ていきなさい! なんで堂々と見てくるわけ!?」
花はただビシッと立って謝るだけだ。
これは上司であり教官でもあるリーンの指導により癖づいたもの。
謝罪するときは直立姿勢で堂々と声に出す、というものだ。
そんな堂々と裸を見てくる花に、この女性は顔を真っ赤にして——
「早く出て行ってーーー!!!」
そう叫び、花を部屋から叩き出すのだった。
***
「それで、常識知らずの田舎者さん……」
「ごめんなさいって言ってるべ。わざとじゃないんだぁ。そうカリカリしないでくださいよ」
ややあって、しばらく廊下で待たされた花は、中から響いた許可を得て再び入室したのだが、今度は裸ではなく、しっかりと制服に身を包んだ長い三つ編みの女性とテーブルを囲んでいた。
出された紅茶はこの女性が淹れてくれたのだろうか。
花は紅茶と女性を交互に見つめては、恐る恐る一言——
「ここに呼んだ理由って、なんだべか?」
「理由も何も、新入生がこの塔にやって来たんです。歓迎の一つはしてあげないとダメでしょう?」
「歓迎……。そんな理由で私を呼んだべか……」
ホッとした。
だが、そんな仕草を取る花をどうやらこの女性は読み違えたようで——
「そんな理由? せっかくここに呼んであげたっていうのに、そんな理由ですって?」
「あ、あーいや。そうじゃねぇだよ。言葉のあやっちゅうか、あはは、すんません!」
「その頭を下げずに向き合ったまま謝罪するのは、あなたの国の常識なのかしら?」
「い、いえ……。教育の賜物というか、癖というか、そんなもんです」
「どんな家庭環境で生きてきたのよ、あなた……。っとまあ、紹介が遅れたわね。私はこの魔技修練塔の主、エルマタル・フォン・テオドリッタよ。気軽にエル会長と呼びなさい」
フォン、確か異世界の多くで使われている貴族階級を指す名だったはず。
「わかりましたエル会長。にしても会長って?」
「ああ。塔の主っていうのはね、普通の学校で例えると生徒会長みたいなものなの」
「なるほど、だから会長なんだべか。話は分かっただ。ならエル会長。私は山野花、よろしくだ」
「ええ、よろしく花」
自己紹介も終え、花はエルマタルにここへ呼んだ理由を尋ねた。
さっき話した内容が事実であるとしても、まだ理由があるはずだ。
それに辺りに何かないか探す必要もあるし。
花は話を引き延ばしながら、部屋の中を目だけで見渡すのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
もし面白いと思って頂けたら
評価とブックマークをして頂けると励みになります。
よろしくお願いします!




