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第16話 塔分け

 花が連れて来られたのは、まるで裁判所の法廷と劇場を組み合わせたような部屋だった。

 目の前の高い壇上には、花を見下ろすように3人の教師が座っていた。

 上層からは教師もしくは学生だろうか、少女少年たちが花を興味深そうに見下ろしている。

 そんな中、壇上の真ん中に座る一人の女が花に声をかけた。


「新入生ですか。この時期に珍しい。あと3か月待てば新学期だというのに」

「え、えへへ。魔法を学べるって聞いて居ても立ってもいられなくって、つい来てしまっただよ」

「ふむ……。なるほど。まあいいでしょう」


 その女はとてもきつい性格をしていそうだと花は思った。

 声のくぐもった感じ、そして目つきの鋭さ。

 アッシュブロンドの長い髪は、彼女の冷酷さを象徴しているかのようにさえ思えた。


「校長、よろしいのですか?」


 隣にいた男性教員がその女に小声で告げる。

(校長先生だか……。確かに風格はあるべなぁ)


「構いませんよ。ここは学び舎なのですから、魔法の門を叩く者がどのような田舎者であれ受け入れるまでです」


 田舎者、そう告げて花を一瞥する校長。

 そんな校長の言葉を受け、両側に座っていた男性教師が席を立ち、杖を振った。

 何かの魔法だろうか。花の頭上から水晶が一つ降りてきて、目の前で止まった。

 花はこれから何が始まるのかと首を傾げる。


「さっそくあなたの所属する塔を決めましょう。その水晶に手を翳しなさい」

「これに、だべ?」

「…………」


 花の質問に校長は答えない。

 どうやら必要以上の言葉は発してくれないらしい。

 花はきゅっと胸の前で手を握り、水晶に手を翳した。

 すると、水晶はだんだんと輝き……。

 淡い桃色へと変化した。


「魔法の適性あり。いや? 不思議な反応ですね。適性があるのなら赤に輝くはず。でも薄い。技術もあるが歪……これは」


 校長がなにやら水晶の輝きから推察しているようだが、花はなんだか気が気ではなかった。

(これで私の素性がバレるってことないだべか……)


 桃色の輝きを眺めて答えが出たのか、花の目の前から水晶がふわりと天井へ浮き上がっていく。

 訝しむ校長たちの姿にゴクリと唾を飲んでいると——


「決まりました。あなたの所属は魔技修練塔です」

「魔技修練塔だべ?」

「魔法の適性がある者、もしくは魔法を修めている者が戦闘用に技を鍛える場です。あなたは魔法を既に身につけている様子。なのでこの場所が良いでしょう」


 魔法を修めている。

 つまり今の水晶で花の体内にあるマナを感じ取ったということ。

(魔法学院の技術、侮れないべ……)


「以上、入学手続きは終わりとする。さあ、所属する塔へ向かいなさい。そこで案内役の生徒があなたを待っているはずです」


 仕事が終わったとばかりに、校長が席を立ち、この場から立ち去ろうとするのを——


「ま、待ってほしいだ!」


 花は止めた。

 周りの人々はそんな花を、まるで恐れ知らずの馬鹿だとでもいうような目で見てくる。


「なにか?」

「あ、その。えーっと」


 止めておいて何も考えていなかった。

 この学院の校長なのだ。ダークトリニティのボスである可能性が高い。

 ならば何かそれらしい証言をさせるべきじゃないか?

 そう思ったが、今聞くべきではなかったかもしれないと花は後悔し始める。

 だが、止まってくれたのなら——


「そ、そのぉ。魔法を学びに来る生徒さんたちのことを、校長先生はどう思ってるだべか?」


 何を馬鹿なことを聞いたのだろう。

 もっと聞くべきことがあったはずだ。

 なんだかもったいないような、こんなことなら聞くべきじゃなかった。

 校長の隣に立つ教師が花に——


「くだらない。そのような質問に校長が——」

「待ちなさい」


 そう言って校長に止められた。


「校長?」

「生徒についてですか。どの学生も凡人。ですが……ふっ」


 笑った。

 堅物そうな校長が、笑ったような気がした。


「魔法に懸命に打ち込む姿は素晴らしい。皆が知恵を高め合い、競い、技術を高める。たとえ異世界の人間だとしても、学ぶに値する存在だと言っておきましょうか」


 それだけ告げて、校長は教師を引き連れ、この場から立ち去っていった。

 花は深く一礼して見送る。

(今の言葉は、いや、あの一瞬見せた笑顔は真実、だべ? 悪の組織のトップが学生のことを思うことなんてあるだ? もしかしたら校長は何も知らない?)

 とはいえ、まだ答えを出すのは早計か。

 とりあえず花は指示通りこの部屋を出て、目的の塔へと向かうことにした。

 向かうと言っても、部屋を出たそばからまた箒が出迎えてくれたから、ただ乗って案内されるだけだったが……。


 ***


 さて、である。

 アナハイドはポチータと共にハイネリアン魔法学院の周辺を探索しているのだが、まあ湖の外周には何もないのである。

 警備もいないところを見るに、湖の外側は警戒する必要がないと考えているのか、雑草をかき分け堂々と歩くアナハイドたちを誰も捕まえに来ないのだ。


「こうなると、俺たちからできる調査はお手上げなんだが……。どうしたものかねぇ」

「とりあえずは花さんの通信待ち、かな? 順調に入学手続きが済んだなら所属する塔を決めてくれるはず。それ次第でおいらたちの行動方針も決まるしね」

「だな。まあのんびり待つとしますかぁ……ん?」


 歩き出した時だった。

 アナハイドはこの辺りに漂う違和感に目を顰めた。

 ポチータは足を止めたアナハイドを振り返り、首を傾げた。


「どうしたんだい?」

「少しだが、異様な気配を感じた気がして……」

「異様な気配? おいらにはさっぱりだねぇ」

「魔力由来の気配だからな。獣人であるお前には感じ取れないだろうさ。つっても、かなり小さい違和感だから普通じゃ気づかんレベルだけど……」


 そう言いながら、アナハイドは草木をかき分け、その違和感を感じた場所を見つけた。

 そこにあったのは、獣のようでいて人間のような体躯をした化け物の死骸。

 それを切り刻んだようなものが転がっていた。


「こ、これは……」

「ほお、こいつは——」


 ポチータとアナハイドは初めて見るが、恐らくは異世界の生物、もしくはカリギュラだろう。

 異世界にはファンタジーアース側とは異なる生物が多く生息すると聞くが、このような異質な生き物がいるとは聞いたことがない。


「もしカリギュラだとして、だ。なんでここに死骸があると思う?」

「そりゃ、魔法の実験かなにかに使ったとしか……」

「違う違う。もっと根本の話。なんで、ホールの中にしかいない化け物がここにいるのかって話だよ」

「あっ……」

「気づいたか?」


 そう、こんな化け物がここにいる理由は一つ。


「この近くに、ホールがある。それも国に公表してない、な」

「つまり学院内にホールが!?」

「まあ、推測だけどな」


 そうだとすれば、この任務は思っていた以上に厄介なものになるかもしれない。

 ただ悪の組織を壊滅させるだけなら、まだ楽だったのに。

 そう考えていると、二人のインカムにお待ちかねの花からの連絡が入るのだった。

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