第15話 若作りと魔法の学舎
リーンからの許可は下りた。
F・E・T・S本部から行動資金を送金されたことで、花を魔法学院に入学させることが可能になった。
そんな今、一般人を装うアナハイドとポチータは、大和の学生服(セーラー服)を着た花を魔法学院まで送り届けたのだが——
「さすがに無理があったか……」
「うーん。20代とはいえ、さすがに学生の頃の制服は若作りが過ぎたかなぁ」
「ひどいべ! あんたらが私を無理やり入学させようって決めたくせに!」
サイズがパツパツの制服姿を、花は頑張って隠そうとしていた。
10代の頃から少し太ったのかもしれない。
だとしても、ここは頑張ってもらうしかないと、アナハイドとポチータは息を合わせたように花をおだてまくる。
そんな二人の言葉に花は——
「そ、そうだべかぁ~? 私まだ学生に見えるだべかぁ~。でへへ……」
(ちょろい……)
(ちょろすぎるよ、花さん……)
簡単に信じ切ってしまい、逆に二人はこの純粋な20代女性のことが本気で心配になってきてしまう。
そんなこんなで辿り着いた魔法学院——正式には『ハイネリアン魔法学院』。
イーグレット首都南部の全てを敷地とする、この城のような校舎は3つの砦で構成されていた。
1の塔——魔導研究塔
2の塔——魔技修練塔
3の塔——呪怨開発塔
生徒たちはこれら3つの塔のうち1つに所属し、10年間、塔ごとに決められたカリキュラムを受講するらしい。
配置される塔は学院側が決めるようで、アナハイドとポチータは、花がどこに所属させられるか一切知らされていないようだった。
「まあそんな問題、こっち側の科学技術で突破するだけだがな」
アナハイドは耳をつついた。
そこには超小型の通信機が取り付けられている。
装着者にしか聞こえない音声で通信可能な、イーグレット警察渾身の捜査アイテムだ。
「だども、大丈夫だべかなぁ。私の魔法は異世界の物だし……」
「大丈夫だろ。魔法は魔法だしな」
「うんうん。それに花さんの適性は教師が判断するから、都合よく解釈してくれるだろうしね。問題は君の正体がバレないことだ」
「そ、それは、たぶん、だいじょうぶ……」
とても大丈夫とは思えない仕草でガッツポーズを取って見せる花。
「私だってF・E・T・Sのオペレーターだべ。こんぐらいのことやってやるべさ」
「いいね。その調子だ。まあ、なんかあったらすぐ連絡してくれ」
アナハイドは胸を叩いて——
「こいつがすぐに駆け付けるからな」
ポチータの背中を叩いた。
「うんうん、そう、おいらが——って、なんでおいらなんだよ!」
「え!? だめか?」
「言っただろ! おいらは魔法が使えない獣人だって! そんなおいらが学院の中に入ってみてよ。すぐにつまみ出されるか、学院中が警戒態勢に入るかのどっちかだよ! ここは君が駆け付けるって言うところだろっ!」
地団太を踏んで怒り出したポチータを見て、花はクスリと笑ってしまう。
そんな花をアナハイドとポチータは見て、安心したように息を吐く。
「ようやく緊張が取れたようだな」
「あ……。もしかして私のために?」
「いいや。アナハイドは面倒くさがりだからね。今のは正直な言葉だよ、きっと。でも、なにかあったら本当にすぐ駆け付けるからね。おいらたちは外から花さんのサポートと調査を進めておくからさ」
「うん、頼んだべ」
花は振り返る。
そこには自分の背丈の倍以上はある門が構えられていた。
ここを潜れば後戻りはできない。
なにせ全寮制だし。
震える腕を掴みながら、花は歩み出した。
門はそんな花を出迎えるように、独りでに開かれる。
道は真っすぐ一本。
両側には湖のように水が広がっている。
アナハイドはそんな道を行く花を見送り——
「ダークトリニティ、ね」
校舎を見上げるのだった。
奥にある城の本校舎。
それを北、西、東の3方向から囲む3つの塔。
「よくよく見たら、ここほど名を表してる場所はなかったね」
「ああ。まさか学生が組織に噛んでるなんて思いもしなかったからな」
異世界というのは未知ばかりだ。
少年少女が戦争に駆り出される世界もあれば、ポチータのような獣と人間の混合種が多くを占める世界もあるという。
ファンタジーアース出身の人間からしてみれば、学校そのものが悪の組織であるなんて考えもしなかった。
まさに盲点……。
「まずは、報告だな」
「だね。で? そこからは?」
ポチータの質問に、アナハイドは煙草に火を付けながら答える。
「まあ、いつもどおりだな。言うだろ? 大いなる力を持つ者には責任が伴うって」
「君の場合、責任は伴わないけどね……」
呆れたように笑うポチータに、アナハイドは「それもそうだな」と笑って返した。
そんな二人は学院を後にする。
***
ハイネリアン魔法学院、その本校舎である城に足を踏み入れた花は、その光景に圧倒されていた。
箒やモップが独りでに動いて掃除をしていたり、学生や教師が魔法で大きな荷物を浮かせて運んでいたりと、旧時代の映画で見た魔法学院そのものだったのだから。
(これは確かに胸が躍るべ……。アリーナさんがここで魔法に打ち込みたいって言った気持ちも、よーくわかるなぁ)
魔法については、ただ仕事上必要なものとして習得した花であるが、そんな彼女であってもこのような光景を目の当たりにすれば、ちょっと真面目に魔法を習ってみても面白いかもしれないと考え始めていた。
そんな見物客の花を出迎えるように、一本の箒が彼女の目の前に停まった。
まるで、これに乗れとでも言うように……。
「乗って、いいんだべか?」
周りを見渡すも、誰もこっちを見ていない。
外からの人間に興味がないのかもしれない。
でも、もしかしたら——
(私がどんな人間か測ってるんかもなぁ……)
学院であると同時に悪の組織である。
そんな場所に外から一人のこのこやってくるのだから、警戒されていたとしてもおかしくはない。
だとしても、花には選択肢はなかった。
彼女は深呼吸を一つして、箒に跨る。
箒は浮かび上がり、ゆっくりと花をどこかへ連れて行ってくれたのだった。
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