第14話 ダークトリニティは魔法学院にあり!
アリーナを牢屋へ移した今、アナハイドは魔法学院の現状について花とポチータと話し合っていた。
「アリーナの話が事実なら、魔法学院そのものがダークトリニティってことだが……。そんなことありえるか?」
魔法学院は異世界ハイネルから転移してきた由緒正しい魔法使いたちによる魔法教育機関だ。
ファンタジーアース側からすれば信頼するのも難しい機関だが、政府の事前調査により安全性と教育の信頼を勝ち取ったれっきとした学校だ。
「うーん。ありえないよね。それが事実だとしたら、あの学院の卒業生たちは皆ダークトリニティに加担していたことになるし」
「でも、アリーナさんが嘘ついてるようには思えなかったべ? それにあの場で嘘ついたとしてどうなるっぺ? どのみち拘束された彼女がそんな嘘ついても、罪が軽くなるわけでも重くなるわけでもないのに」
それもそうだ。
アリーナの拘束理由は無断の魔法使用と危険物の所持。
危険物の所持に関して言えば、まだ法律で禁止されていない疑いのある物であり、罪には問われない可能性が高い。
だとすれば、花に語って見せたあの話は別に話す必要がなかったはずだ。
だが、話した。
それに——
「なにも俺はあいつを疑ってるわけじゃない。最後に見せたあの言葉は、間違いなく本音だろうしな」
普通に魔法に打ち込みたい。
異世界側からすれば何を言ってるのやら、的な言葉だが、ファンタジーアース側からすれば魔法を学べる夢みたいな場所だ。
大金を叩いてでも学び舎の門を叩く人たちが後を絶たないほどに、魔法というのはやはり全人類にとっての憧れだ。
それに便利でもある。
かつては銃が支配していた社会だったのに、今では銃なんかよりも魔法の方が使い勝手も良いし、手も塞がらない。
一般人から犯罪者に至るまで、銃よりも魔法に手を出す時代なのだ。
それに威力は各自で調整もできるのだし。
「んで? ポチータ。魔法学院についての情報は見つかったか?」
アナハイドはパソコンで魔法学院について各サイト、SNSの書き込みを調べているポチータに聞いたが、ポチータは首を横に振った。
「いいや。どこにもないね。どこも煌びやかな学びやライフを謳歌してる書き込みだらけ。いっそ愚痴とかいじめの情報が出回ってくれてた方が信用できるんだけど……」
「どういう意味だべ?」
「奇麗すぎるんだよ。普通、学校って言ったら教師の陰口とかいじめの有無とか、実際の学校内の情報がSNSとか裏サイトに書き込まれるんだ。だけど、この魔法学院にはその一切がない。あるのは『今日のランチはとても素晴らしいハイネル料理でしたー』って学院側の書き込みと、優等生の呆れたような讃美歌だけ」
「讃美歌……だべか。それは確かに奇麗すぎるっぺ」
「だろ~。だからこうなると、ネットで調査するって線は期待できそうにないね」
肩をすくめるポチータに、アナハイドはむぅ、と少し考えた。
そんなアナハイドに花は首を傾げ——
「アナハイドさん? どうしたべか? うんこ?」
「うんこじゃない。ちょっと難しいこと考えてただけだ。ネットの書き込みが奇麗ごとだらけなら、この問題は確実に学校側も加担してるんだろうな。学生を完全に支配、もしくは管理してるか……。洗脳の類を施してるかのどれかだ……」
「せ、洗脳……。ほえぇ~。私の知らない異世界魔法がこの世にたくさんあるんだべなぁ」
感心したような花にアナハイドは——
「なに言ってんだ。洗脳魔法って言えば、お前さんの機関で半年前に戦ったネクロウィザード。あいつも使ってたって言うじゃないか。知らないのか?」
「そ、そうなんだべか!? い、いやぁ、私は末端のオペレーターだから、エリートの報告書に目を通す機会がほとんどなくてぇ」
「ネットを見ろ、ネットを……。あの時の戦闘の報告は全世界に公表されてんだよ。ほれ」
そう言ってアナハイドが見せたスマホの画面を、花は「ほんとうだ」と見つめる。
だが今はそんなことよりも、とアナハイドはスマホをポケットに片づけ——
「どうするか……。こうなりゃ直接乗り込むのが早いが……」
「おいらたちは警官とはいえ、正体が秘匿された存在だ。警官って名乗って乗り込むこともできないし、なにより警官として乗り込んだとしても大した成果は得られないだろうね」
「だな」
前もって見に行きますって言われて、やましいことを放置する馬鹿な学院ではないだろう。
それだったらネットの書き込みを全て統制できていないはずなのだし。
で、あればだ——
「学生に扮して中に入り込むのがベストだが——」
「おいらは駄目だね。獣人は魔法が使えないんだ。何のために入学したのか、まず疑われてしまうよ」
「俺は歳を取り過ぎで目立ちすぎる……。ってことは」
アナハイドとポチータの視線が一点に集まる。
その先にいたのは花だ。
「え、えっ? 私だべか!?」と二人をあわあわと見渡しているが——
「お前しかいないな。俺より若いし」
「20代だよ!?」
「おいらと違って魔法に適性があるし」
「お薬で使えるようになった魔法だべよ!?」
「「なによりその田舎者っぽい雰囲気が良い」」
「それってただの悪口じゃないべか!? ひどい!」
だとしても、この雰囲気が何よりも良いのだ。
アリーナだって花のこのほんわかとした雰囲気に寄って来たのだし。
向こうもよもや花が学院内を調査に来た存在だとは思うまい。
「で、でもでも私はただのオペレーターで、警察みたいな仕事は何もできないっぺよ? できることって言えば、異世界人とファンタジーアース人の喧嘩の仲裁とかぐらいで……」
「「むしろそれぐらいがちょうどいい」」
「だ、だべぇ~……」
話はまとまった。
花を魔法学院に送り込むとして、今度の問題は入学資金だ。
入学試験はないにしても金は必要だ。
イーグレット警察から金を借り受けるわけにはいかない。
そんなことすれば、魔法学院側に調べられた時点で即調査失敗だ。
だとすれば……。
「花、お前の機関って、異世界がらみの問題のためなら何でもしてくれるんだよな?」
「う、うんだ。F・E・T・Sは異世界問題からカリギュラ討伐って、異世界絡みの問題は全部受け持つようにしてるっぺ……。それが?」
「ふふ~ん。そこで、お願いだ」
アナハイドは怪しい笑顔を花に向ける。
ポチータも尻尾を振りながらニコニコと花に歩み寄ってくる。
そんな二人に花は嫌な予感がしたようで、じりっと後ずさるが——。
「お前の上司に掛け合って、金の融通してくれない?」
「だ、だべぇ~……。そう言うと思ったっぺよぉ……」
そんな花の情けない声が事務所内に響くのだった。
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