第13話 魔法学院
魔法学院というものはとにかく金が掛かる。
というのも学院は普通の学校とは全く異なる存在であり、教育機関というより、どちらかというと研究機関に近い扱いだとアリーナが言った。
学費が通常の2.3倍は掛かるということもあり、退学者が続出するのが魔法学院を卒業まで在学できない一つの理由に当たるらしい。
そしてもう一つが魔法の開発、研究だ。
一番下の下級生である緑刺繍では、異世界ハイネルから派遣された魔法教員による基礎魔術学を履修するわけだが、一学年上がって青刺繍になると独学と研究の世界に放り込まれる。
つまりは基礎は教えたから、あとは自力で魔法を組み上げろ、というのがこの学院の方針だとか。
単位を取るにも新たな魔法の有無が関わり、試験は新開発した魔法の性能で合否が分かれると。
金は掛かるし、知恵も卓越したレベルで必須。
これは確かに長く在学できないわけだと、話を聞いた花はゲンナリした。
花が修めた魔法は異世界アルデバランの物。
マナタイトと呼ばれる鉱石を液状化させたものを体内に投与すれば、自然と身につくマナにより発現する力がこのアルデバラン製の魔法だ。
あとは杖とコスチュームを調整すれば簡単に魔法使いになれる。
デメリットとして体の成長は止まるのだが、ファンタジーアース側に輸出されたマナタイト原液は改良され、肉体の成長を止めないものとなっていた。
花はそんな改良版を投与した新種の魔法使いなわけだが……。
「世の中はそんなしちめんどくさい魔法も存在すんだべなぁ……」
「あんたの魔法の方がおかしくて、こっちの魔法がデフォルトだっつーの。漫画とか小説読んだことないのか?」
「あはは、これっぽっちも……」
花は田舎出身であるが、良いところの出でもある。
箱入り娘ともいうが、花は幼少の頃よりずっと勉強を両親から強要されて育ったせいで娯楽に疎かった。
だから初めて知った魔法はアルデバラン製の物であり、こっちが本来世の中に知れ渡っている魔法だとばかり思っていたのだ。
「んで、話を戻すと……。アリーナさんはなんでこないな事を? 赤刺繍ってことはそれなりにお金は持ってて、頭も良いってことだべな?」
「まあね。でも、それだけじゃないのが、今の学院なんだよ」
「? どういうことだっぺか?」
アリーナは何かを諦めたように息を吐いた。
花にはそれがなんの溜息かは分からないが——
「もう、全部話しちゃっていいか……」
どうやら今からする話の覚悟が決まった様子らしい。
アリーナは部屋の周りに目を向けつつ、花に顔を寄せてきた。
「魔法学院にはね、いるんだよ」
「なにが?」
「悪い魔法使いたちが」
「そ、それは——」
花は思わず眉を寄せた。
魔法を学び、研究し、開発する研究機関に?
それはあの怪しい薬を売ることを良しとする魔法使いの事だろうか?
「ここだけの話にしてよ? この話が外に漏れたら私の命だって無事じゃすまないはずだし」
「喋らない喋らない。ぜったい喋らないっぺよ」
「ふぅん……」
アリーナは疑いの目を向けつつ——
「そうだといいんだけど」
と頬杖をついた。
「な、なら。あの薬の出どころは——」
「お察しの通り魔法学院だよ。私はただ上の言いなりで粉を売り飛ばす下っ端。でも多いみたいよ? 私みたいなお金に困った在学生に売り子をさせる人」
その話が事実なら、魔法学院自体が悪の温床ということになる。
花がこの国に来る前に調べた表の情報によれば、魔法学院は異世界ハイネル側の所有機関であるらしく、ファンタジーアース側の法は一切受け付けない。
(だから、私が派遣されたのかもしれねぇっぺ……)
F・E・T・Sがこのイーグレットに事務所を構えるきっかけになったのは、イーグレット政府による一声が大きかったらしい。
理由は明かされなかったが……。
恐らくこういう問題が多いのかもしれない。
異世界側の機関がファンタジーアース側を食い物にしようとしてる悪事が沢山……。
「どうした? ぼーっとして」
「ほえ?」
少し考えすぎていたらしい。
花はアリーナの言葉にびくりと体を跳ねて変な声を漏らした。
「まあ考えさせられる問題だよな。私だって、まさかあの夢にまで見た魔法学院の実際がこんなだって思わなかったし……」
「本当は……やりたくなかったってこと?」
「あたりまえだろ。誰が好き好んでこんな怪しい売人やったりするかよ」
怒り出したアリーナに花は身を縮めるも——
「でも、金が必要なんだ……。それに一人で魔法の開発するのだって限界がある。私みたいな一般人が魔法を作るには、上級生や教師の協力が必要だ。だから……」
なんて汚い話だろうか。
アリーナは根はそこまで悪い人ではないのかもしれない。
ただ純粋に魔法使いを夢見て、憧れの魔法学院に入学しただけ。
本来なら真面目に学び、魔法を身に着け、将来はファンタジーアースとハイネルを繋ぐ魔法使いになるはずだったのに。
それを……。そんな夢見る学生を食い物にしてる魔法学院。
いや、ダークトリニティが。
「ゆるせねぇっぺ」
そう言葉に出してしまっていた。
花は席を立ってアリーナの手を握る。
突然握られたアリーナは目をパチクリさせていた。
「話は分かっただ。だけどもう大丈夫。私はF・E・T・Sのオペレーターだべ。異世界とファンタジーアースの相互問題を解決するためにこの国に飛ばされてきたんだべ」
「警官じゃないとは思ってたけど……。まさかF・E・T・Sだったなんて」
「知ってるんけ?」
「まあ、ね。あれだろ? F・E・T・Sお抱えの人間兵器がテラ級カリギュラをワンパンしたとかって。要はめちゃつよ集団じゃないか」
「あー。それは……。ちょーっと私とは違う部類の人たちだべかなぁ」
「はい? 同じじゃないの?」
全く違う。
F・E・T・Sの人間兵器と言えば高井直哉のことだろう。
彼は異世界人であり、大和国民でもある高井アイリスが作り上げた最強兵器だ。
それに高井と言えば砕華教導官もいる。
F・E・T・S戦闘部は彼ら高井ファミリーを主軸に動くエリート部隊であって、花の所属する現地派遣オペレーターは下の下の下。
下っ端職員に過ぎない。
でも、そんな事、目の前の少女に話したところで不安にさせてしまうだけだろう。
だから花は——
「向こうは戦闘のプロだけんど。私の部署は調査特化。そう、今回の問題にうってつけの部署出身だべ」
嘘をついてしまった。
正確には若干の嘘、であるが。
だが、花のそんな嘘をアリーナは信じたようで——
「まじ!? なら頼むよ。あの学院を何とかしてくれ。もうこんな事しないで普通に魔法に打ち込みたいんだよ」
「あ、あはは。ま、まかせてけろ~」
言ってしまった……。
そう後悔しつつ、花は扉の方へ目を向ける。
その扉は完全には閉まっておらず、少し開いたまま維持されていた。
まるでこちらの話を盗み聞きしているかのような、気づかれないほどの隙間……。
実のところ花は、その向こうにいる本職の二人に目を向けていたのだった。
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