第12話 取り調べ
場所は変わってF・E・T・S事務所。
廃魔法通りで身柄を拘束した女学生を連行してきた今、アナハイドたちは彼女の取り調べの真っ最中である。
アナハイドが恫喝気味の言葉を浴びせるのに対して、この女は自分は何も悪くないと言わんばかりにそっぽを向いている。
そんな態度にアナハイドは頭を掻きむしりながら——
「あー。くそ。話が進まねぇ。いい加減に答えてくれよぉ。この薬はどこで仕入れたんだって」
「それを正直に答えるとでも思った? っていうか私の罪って魔法の違法使用と危険物の所持だよね? これ、関係ある?」
「どっからどう見ても危険物だろうが……」
「危険って? これが危険だって法律ないのに? 警官のくせにそんな適当でいいんだぁ」
「こ、この……」
苛立つアナハイドを、ポチータは後ろでパソコン作業をしながら、まあまあと宥める。
「たしかに君の言う通り、まだそれが危険物だって決めつける法律はないね。だけど成分を調べて人体に影響があると知れば、危険物って判断はおいらたちにだって下せるんだよ?」
「ちっ」
学生は舌打ちした先にいた花と目が合う。
目が合った瞬間、ギロリと彼女を睨みつけ——
「私を騙しやがって。私が近づいてきた時、あんたどう思ったわけ? お手柄だって思った? ならよかったね。こんな学生を連れ回して昇進確定って? ばっかみたい」
「あ、そ、その……」
「気圧されんな。ただの半グレの言い訳だ。お前は正しいことをした。その事実だけで十分だろ」
アナハイドに言われ、花は頷くことしかできなかった。
「正論とか……きっしょ」
「きしょくても正しいもんは正しい。間違えたのはお前だ。で? ポチータ、こいつの情報は出たか?」
女学生にそれだけ告げながら、アナハイドは後ろでキーボードを叩いているポチータに顔を向けた。
彼女は今、この女学生の手持ち品、そして顔を魔法学院のデータバンクにある在学生一覧と照会している最中だ。
「待ってねぇ。もう少しで……。ヒット! えー、なになに? 名前はアリーナ・ウドガンズ。へぇ、意外にもこっちの出身なんだね」
「こっちっていうと……地球側か?」
「それ以外のどこがあるんだよ……」
呆れたポチータの冷ややかな視線に、アナハイドは苦笑いを浮かべた。
素性が割れたというのに、アリーナはどうでもよさげな様子であった。
腕を組み、ちらりとこちらを見ては鼻を鳴らす。
「で? 名前が分かったから何? 退学に追いやるつもり?」
「まあ、そうしてやってもいいんだが……」
アナハイドは席から立ち、アリーナの隣まで歩いて肩に手を置いた。
「なに?」
「お前には効果がないみたいだしな。なら、お前も魔法使いの端くれ……。学院で開発したオリジナル魔法の特許を剥奪してやると言ったら? どうする?」
「お、お前!?」
アリーナがここに来て初めて怒りをあらわにした。
花にはなぜこうも怒り出したのか理解できず、ポチータに尋ねた。
「な、なんであの子怒ってるんだべ?」
「あー。花さんはハイネルの事情を知らないんだね。えー……。魔法使いっていうのはね? 独自の魔法を長い年月をかけて開発、改良、そして昇華させる、いわば研究員みたいな側面があるんだ。それは学生である彼女も同じなんだろうね。長い時間をかけて開発した彼女のオリジナル魔法。その特許を剥奪するってことは、これまでの時間を全て台無しにしてやるって言ってるようなものだよ」
「ひ、ひどい……」
「ひどくても正義執行のためには仕方ない。おいらたちは何をやっても許される。たとえ人道に反する行いだったとしても、ね」
そんな花とポチータの話をよそに、アナハイドとアリーナの話は進んでいく。
「で? どうする? 魔法使いさん」
「こ、この……」
「俺はいいんだぞ? お前から特許を剥奪したって。むしろそっちの方が街の連中的にはありがたい話だろうしな。通信教育の習得魔法が一つ増えるだけってもんだ」
アナハイドとポチータ的には正しい行いなのだろう。
花にだって、彼らが正しいことを行っていると思える。
だが、なぜだろう。
彼らの言葉に顔を顰めているアリーナを見て、それが本当に必要な正義なのだろうかと、花は考えてしまったのだ。
だからだろうか、花はアナハイドの言葉を否定するように——
「それは駄目だぁ」
そう言ってしまっていた。
「花? おいおい、なに言ってやがる。駄目だと? こいつは人の人生を台無しにする薬物をばら撒いてたんだぞ?」
「だとしてもだ。せめてなんでこんなことをしたのか聞かないと。もしかしたら何か理由があるかもしれないべ」
「犯罪者になるのに理由なんかない。大体出てくるのは『仕方がなかった、やるしかなかった』、そんな自分勝手な言い訳だけだ。花、お前がもし家族が薬で狂ってしまったら? それでも売人の理由を聞いてやれるか?」
「そ、それは……」
「無理だろ? いいか、悪は悪だ。そこに強弱も大小もないんだよ」
そう言うと、アナハイドは携帯を取り出し、どこかへ連絡を入れようとし始める。
それがどこに掛けられるのか悟ったのだろう。アリーナが——
「やめ——」
手を伸ばして叫んだが、それよりも前に花がアナハイドの腕を掴み——
「悪に大小ないんなら、正義にも大小はないはずだべ」
「なにが言いたい?」
アナハイドは花に今までにないほど冷たい目を向けた。
その瞳にびくっと肩を震わせる花だったが、真っすぐ彼の目を見つめ返す。
「アナハイドさんの正義が大だとして、私の正義は小だ。大小関係ないなら、私の正義だって認めてもらわないと」
「…………ふん」
アナハイドはスマホをポケットに突っ込み、席にドカッと腰を下ろした。
「勝手にしろ。お前の正義がこいつに通用するか見てやる」
「アナハイドさん……」
こっち見んな、と言わんばかりにシッシと手で払われ、花はアリーナと向き合った。
アリーナは今の問答に目を丸くしていたようで、パチパチと目を瞬かせながら花を見てくる。
そんな彼女と目線を合わせるように花は屈んで——
「もしよかったら、話を聞かせてくれないかな?」
「私の話を聞くメリットが、あんのかよ」
「わかんない。でも、聞かないよりはマシだって私は思うんよ。ただ悪を裁くだけなら、悪だって思うやつら全員魔法で倒したらいい話だべ。でもそれが許されていないのは、話を聞く余地もあっていいってことだっぺ。だから私はあんたの話も聞きたい。だから——」
「……はぁ、分かったよ。話してやるよ。でもあんたにだけだ。そこのアホ男と犬っころには聞かせたくない」
そう言われ、アナハイドは——
「な、なに?」
拳を握り、詰め寄ってきた。
が——それを花は腕を広げて止める。
ここは任せてほしい。
そう言うかのように。
「アナハイド。ここは彼女に任せよう」
「ポチータ……。でも」
「いいじゃないか。おいらたちとは違う角度から調査するのも、たまには悪くないだろ? それに今回の任務は共同だ。花さんの実力を見るためにもここは、ね?」
「あーもう。わーったよ。ならこっからは花に任せる」
そう言って、二人はこの部屋から出ていこうとする。
そんな二人に花はぺこりとお辞儀をした。
面倒くさそうにアナハイドたちは手を振って部屋から出ていき、扉がバタンと閉まった。
「これで、いいんだべ?」
「ああ。特別にあんたにだけは話してやる。ムカつくけどな」
花は先ほどまでアナハイドが座っていた席に座り、真っすぐアリーナと向き合った。
「んじゃ、教えてけろ。アリーナさんがこんなことするようになった全部を」
それが真実を元にした話なのかは分からない。
だけど、花は彼女を信じることにした。
自分はアナハイドたちのように徹底した正義を実行することはできない。
たとえこの行いが間違っていたとしても、そうせずにはいられなかったのだから。
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