第9話 襲来。鬼人 5
「よお美人さん」
「お? お前さんはさっきの力持ちじゃないか」
ビルの屋上、酒を飲む鬼人? に直哉は声を掛けてみたが、近くによで見ると彼女の存在が異質だと肌で理解した。
魔力ってものは分からないけど、如月が吐いたのはきっとこのプレッシャーの所為だろう。
もしかするとこれが魔力ってものかもしれない。
そんな鬼人が空になった酒瓶を放り投げて口を大胆に拭い直哉に目を向ける。
「私の魔力に充てられても反応が無いとは……。お前、強いな」
反応が無いのは多分人間じゃないからかもしれませんよ。とは答えてやらない。
直哉は拳の本音を鳴らすように中の鉄をゴキっと鳴らした。
「期待させて悪いが、俺魔力なんて知らんのだわ。だから魔力で強さを測ってるんだとしたらごめんな? その代わり魔導力なら分かるぞ?」
「まどう……力?」
って正直に答えてやった。
直哉の力は鬼人の期待に添えないかもしれないから。
この異質なうレッシャーを放つ彼女が弱いはずがない。そんな彼女からすれば直哉の存在など雑魚に等しい可能性だってあるから。
それでも退く気はさらさら無いから戦うのだが。
「ははっ。おもしろい冗談を吐かしよる。ならさっきお前が見せた力はなんだ。魔力で補強した肉体の力でないとしたら素の身体能力であれか? そんなの私たち鬼以上の存在じゃないか」
「そんなそんな。で、その鬼のお前はここで何してんの? 桃太郎への復讐とか? もう何百年も前の話ですよ〜……ってあれは作り話か」
「くかか。桃太郎は知らんが、私を倒しにきた人間なら何人も居たぞ。全て返り討ちにしたけどな」
どうやら桃太郎的な英雄は昔の日本には居なかったらしい。
「ふむ……私の目的を知らんという事は、本当にお前は機関のエージェントではないらしいな」
機関のエージェントなら知ってるんですか。とは聞かない。なんせ聞こうと思ったら彼女が話し始めたのだから。
「私たち鬼は飯を喰らいに来たんだ。腹が減ったら飯を食う。生物として当たり前の本能だろ?」
「あー。なるほど」
要はこのビルを倒して下の人たちを一気に殺して魂を食おうってつもりなのかもしれない。
「そういうことだから邪魔しないでほしい」
話し合いではどうしようできない敵ってわけだ。
牛が人間に「食べないで! 話し合おう」つって聞くかって話だ。聞くわけがない。生物なのだから。食物連鎖というものは残酷だ。
「それじゃあ。全力で抗わせて貰いますわ」
「そうこなくてはな! 久々に良い喧嘩ができそうで胸が高鳴ってきたぞ」
さて、と直哉は息を整える。
緊張してしまうのはこの世界に帰ってきて久々の戦闘だからだろう。
魔力がどうとか言っているのだから魔法の類は扱うんだろう。
リーデリッヒでは魔導力って燃料で戦う奴らばっかだったから何気に初めての超常との闘いだ。
(気合いを入れろ。俺……)
「なら、いくぞ!」
鬼人の姿が消えた。
いや本当に消えたわけではない。
ただ速く、人間のワールドレコードなんかよりも何百倍も速く動いただけだ。
瞬間ドスン! っと俺の腕に拳が叩きつけられる。
見えていた。見えていたからこそ受け止めることが直哉にはできた。
「私の動きが見えるか!」
「見えるって、まあそれなりに速いぐらいだな」
一瞬姿を見失ったのは、この日本で平和な時間を過ごしすぎた弊害だろう。だが今のでそんな腑抜けたボケは消し飛んだ。
仕返しとばかりに直哉は拳を振るう。
空気を裂く程の一撃が鬼人の頬に突き刺さる。が——
(こいつ、わざと受けやがったな!)
なぜ気付いたかといえば理由は簡単、ニヤリと笑って目を向けてきたからだ。
「これがお前の全力か?」
「まさかジャブだよジャブ」
「小手調べでこれほどの力か……クク、カカ! 面白い! 興が乗ったわ!」
鬼人は直哉の腕を掴んで木の枝を空に投げるように宙に放り投げた。
だが空を飛べる直哉はグッと力を込めて宙で堪える。
そう……グッと堪えたのだ。平気である直哉が——
(なんつう力だよ)
「クカカカ!! 私の名前は大山砕華! お前の名は!!」
「は?」
「名だ、名を名乗れ。私たち鬼は相手を認めたとき名前を晒しあうのだ。お前は私の名を聞くに相応しい強者! 是非ともお前の名を聞きたい!」
敵ではあるものの綺麗どころの女性に気に入られるのはなんだか嬉しいと照れてしまう。
だが敵だから倒さなきゃいけない。そう思いつつも直哉は名乗る。
「俺の名前は高井直哉だ」
できるだけ、直哉史上最高で、可能な限りに、カッコつけて名乗った。
(惚れるなよ?)
「高井直哉か……クカカ! いいぞ、死合おう! 互いの魂が溶けるまでッ!!」
嫌な意味では惚れられたかもしれないな。
砕華が迫る。ゴリゴリマッチョな腕でドスンドスン殴ってくる潔い肉弾戦。
魔法を使わないのは舐めてるから……って訳ではなさそうだ。
「カカッ! ここまで本気で打ち合えるなんて何百年ぶりか!」
「何百年って……お前そのとき日本に居たのかよ」
「そうだ、あの時は京の都にいたな」
(京の都……鬼……ってまさか)
「なあお前、昔に酒呑童子とかって呼ばれてたりしないよな」
「おー。懐かしいなぁ。大江山で喧嘩を楽しんでた頃、人間どもが私をそう呼んでたことを思い出したぞ」
まさかまさかの伝説の妖怪だった。
それよりも魔物と妖怪って繋がりがあったのか?
そうなると機関ってのは昔から存在するのか?
今考えるべきではない情報量に頭が混乱する。
そんな混乱する直哉に砕華の拳が腹をぶち破り、穴を開けた。砕華はカカッと笑って勝ちを確信したようだが——
「残念。俺は不死身なんだ」
「なに!?」
再生した腹が砕華の腕を拘束する。
不死身……厳密に言えば魔導力が尽きない限り死ぬことはない体ってだけ。
魔導力は飯を食えば蓄えられる分便利なリーデリッヒのエネルギーだ。
(原理? 分かる訳ねぇだろ? 知りたい奴はアイリスに聞いて時半年にわたる講義を聞いてみな? 脳が宇宙になるぞ)
そんなことを考えながら砕華の顔面を滅多打ちにする。
血を吐きながら笑って砕華は腹から拳を抜いて殴り返してくる。
拳をぶつけて直哉は冷や汗(水)が吹き出しそうな悪寒が背筋に走った。
正直言って頭がおかしいと思う。
クルーエルの作った最強のイリーガルウェポンでも直哉の拳で破壊出来るというのに、それを余裕で受け切る彼女のタフさは理解できない。
どこからそんな体力が湧いているのだろうか。
「どうした? 顔に焦りが滲み出ているぞ?」
「焦り? 違うね。トイレに行き忘れてさ、このまま長引いたらしょんべんチビっちまいそうで困ってるだけだ」
「クカカッ!! 冗談も面白いときた! お前が鬼であったならば良い盃が交わせたというのに!」
「一応俺はまだ未成年だよッ!!」
互いの拳が激突する。
空気が震えるってこういうことなんだなってぐらいに空間が振動している。
(はぁ、面倒だ。俺だって戦いたかねぇよ。こいつと平和に過ごせるってなら迷いなくその道を選ぶんだが……。人間を喰うってなるとなぁ……)
直哉は諦めない。目の前の鬼が人間を喰らうというのなら、人間のそばに立つヒューマノイドとして絶対にそれを許すわけにはいかないのだから。
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