第8話 襲来。鬼人 4
如月を追って倒壊して傾いていくビルに辿り着いたはいいが、どこに居るのだろうか。
キョロキョロと倒壊するビルの前で直哉は顔を動かして——見つけた。
如月はどういう仕掛けか空を飛んで崩れて傾くビルを薙刀を横に倒すように構えてブツブツと何か呟いている。
「如月ちゃん!」
直哉は浮遊の効果が付与された体で空に浮かび上がる。
「なっ、どうしてあなたが空を!? それよりなんで私の名前を——」
「どうしてってそりゃショッピングモールで君の友達がそう呼んでたから——ってそれよりも君は何をしてるんだ! 早く逃げないと」
「それは出来ません! このビルが崩れれば下の人たちに被害が出てしまいます。なので私は魔法でなんとか——」
魔法、魔法って言ったのか? こうして空を飛んでるのも今の日本の科学パワーってわけじゃなくマジカルパワーだというのだろうか。どうだとすれば機関はとんでもない組織なのではないか?
如月は直哉が空を飛んでいることに驚いていたようだがすぐに魔法に集中し直した。
「あなたこそ早く逃げてください。魔物でないならあなたも私たち機関の庇護対象です」
「て、言ってもなぁ」
ビル崩れているし、魔法も間に合わなそうだし……。もしかすると話しかけてるから邪魔してしまったのかもしれない。
「このまま黙って見過ごすこともできないんだよな。俺ってば平和をこよなく愛する小市民なもんでね」
と言ってる間もなくビルの傾きが早くなった。話してる暇はなさそうだったもんで、直哉は倒れてくるビルに突撃して持ち上げようと力を加える。
「な、なんて力——」
倒れるビルを押していく直哉に如月は目を丸くした。
そんな彼女に振り返らず直哉は力一杯ビルを押し続ける。
「ふん!! ぬおおおーーーー!!」
傾いたビルがどんどん元の位置に戻っていく。
直哉からすればこの程度、手提げカバンに入った教科書程度の重さだ。
「っと、これで倒れる心配はないか」
ズシンと地響きを鳴らしてビルを立てた。そーっと手を離しても倒れる様子はない。
「おーい如月ちゃん。これでいいか〜」
「え、あ、はい。……え? 魔法も使わずに、解決……え?」
如月はこの状況にどうやら混乱してるみたいだ。
魔法が使える彼女であっても直哉のようなロボットの存在は相当レアみたいだ。
そんな如月の元へ降りていく時だ。
「ほほう。よもや機関のエージェントにこれほどの力の持ち主がいたとはな」
女の声……如月のではない大人で、艶のある声がビルの屋上から聞こえた。
直哉はすぐに顔をそっちに向けた。
この状況で、今の発言を吐ける奴なんてのは友好的な存在じゃないのは常識。
「誰だ!」
そこに立っていたのは古風な着物……だろうか? 胸元は大きく露出していて晒しで巻かれた胸。筋肉質な腕、
そして長い金髪に額には赤くて長い角の女性。
まるでファンタジー世界から飛び出した鬼とか言われたら高言う感じかもしれないってビジュアルしている。
そいつはどこからか取り出した酒瓶を大きく煽ってグビグビと飲みだした。
「そ、そんな……あれは、いやありえない……」
「如月ちゃん?」
動揺する如月。彼女の顔は恐ろしい化け物を見るかのように屋上の女性を見ては顔が真っ青になっていた。
「あ、あなたは、あなたの魔力は……そんな、うっ——」
突如如月が嘔吐してしまった。
地上にいる奴は知らずに彼女のゲロを頭から被ることに——ってそんな事はどうでもいいだろう。
急いで直哉は如月の背中を摩る。
「お、おい大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます。あなたは平気なんですか?」
「平気ってなにが?」
「あ、あれの魔力です……あんな膨大な量の魔力に当てられながらなんで平然としてられるんですか……」
と言われても。直哉には魔力なんてものは見えないし感じもしないからどう返していいかわからない。
如月の背中を摩り続けていると「もう大丈夫」と如月は直哉の手を離した。
「それより、逃げてください。あれはS級……あの角からして恐らく……鬼人です……」
「鬼人?」
まんまだ。あれをどこからどう見ても鬼、もしくはオーガとしか言いようがない。
でなければコスプレ大好きガタイのいい外国の姉ちゃんだろうか。
「上位の魔物……恐らく……それよりも上の。このままではあなたもあの鬼人に魂食べられてしまいます」
「ふーん」
直哉にはどこからどう見ても鬼のコスプレした飲んだくれにしか見えないが。
「早く逃げて。私が時間を稼ぎます。次期にエージェントの応援も駆けつけるでしょうし……それまで私が——」
直哉を押し退けて如月は薙刀を構えた。
戦う……つもりなのだろうか。
「1人で戦うってのか? そのS級の魔物と」
「そうです! 私は機関のエージェント……日本を護る力ある存在ですので」
なんて苦しそうな顔をしてるんだと直哉は思った。
足は震えて薙刀の鋒もブレている。怖いんだろう……。逃げ出したいんだろう。
でもそれをエージェントって責任が許さないんだろうか。
それが直哉からしてみれば、なんだか気になって、許せなくて、どうしようもない感情で頭が埋め尽くされてしまう。
如月はアイリスの1つ上の上級生。まだ中学2年生だ。
そんな子が日本を護る? そんな子を1人残して逃げる?
「だから逃げろってか?」
「はい……これは私の仕事ですので」
子供に護られる大人ってどうだ。
情けないだろ。
直哉には機関だとか魔物だとかまだよく分かってないが、こんな怯えてる子が勝てもしない敵に立ち向かおうとしてるのが許せなかった。
だから——
「ごめん。その話は聞けない」
「な、なんで!?」
「俺バカだからさ。君の話も魔物もよく分からないけど、これだけはしっかりと理解してる」
拳を握る。力を貯める。この子が苦しまないように……。怪我させないように。その力がここにはあるのだから。
「君みたいな女の子が1人で怖い思いしてるのをほっといちゃいけないってさ!」
如月が何か言おうとする前に直哉はビルの屋上目掛けて飛んだ。
きっとあのまま話しても如月は直哉を止めるだろうと考えたから。
だから直哉は動いた。責任も何も無いけど。
目の前の女の子を守ることぐらいは出来る。
直哉は力あるヒューマノイドで、アイリスが作った最高傑作なのだから。
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