第8話 捜査開始?
F・E・T・Sの事務所でアナハイドは花とリーンからダークトリニティについて話を聞いた。
といっても、アナハイドはベルンと署長から聞かされた内容とそう変わりはない。
なにせかの組織についての話なんてものは、みんな噂話程度でしか知らないからだ。
かくいうアナハイドもそう。
ダークトリニティの名は有名だが、一組織にしてはあまりにも手広く商売をしているのだから眉唾な話が多い。
構成員は100人以上とか、異世界人ではなく意志を持ったカリギュラが手を引いてるのではないか、とかだ。
「意志を持ったカリギュラなら存在するっぺよ?」
「…………はい?」
アナハイドが口にしたその話に、花は当たり前のように言った。
意志を持ったカリギュラがこの世に存在するはずがない。
そう思っていたのだが……。
「ネクロウィザード討伐をウチが成し遂げたって話は知ってるべ?」
「ま、まあ……」
その話は有名どころではない。
全世界でその偉業を発信していたのだ。
いくらテレビをあまり見ないアナハイドであっても、ネットニュースぐらいは見る。
そこにもはっきりとネクロウィザード討伐成功とトレンド入りしていたのは記憶に新しい。
「そのネクロウィザードだべな? 意志を持っとったと」
「まじか……。なら今回も関係がないとは断言できないってわけか」
「んだ」
そんな話をしながらアナハイドは今、花を隣に乗せてポチータの向かったとある場所へ移動中であった。
警察署でポチータとは一度別れたのだが、それには理由があった。
あのアナハイドが奪い取った薬だ。
どうやらポチータはその薬を調べるために医療機関に持って行ったらしいが、結果が出たという。
「それで? アナハイドさんはその薬がダークトリニティと関係があるって思ってるんだべか?」
「うーん。どうだろうな。だけどまあ、ホール内物質を加工して作った新薬だ。碌な代物じゃない薬物だから、何かしらの手掛かりはあるだろって思ってな」
ただの勘。
されど今はこの勘以外に情報がない。
どんな些細なことでも徹底的に調べる。
情報が逃げるなら殴ってでも奪い取るまで。
それがアナハイドの所属するイーグレット警察秘匿調査員の仕事だ。
「ポチータには話を通してある。俺たちが着く頃には、あいつが聞いた話をじっくりと聞かせてくれるはずさ。子守歌みたいにな」
「それって、眠くなる話ってことだべか? 駄目だべ? 人様の話はちゃんと聞かねぇと」
「お前がいくら真面目ちゃんでもな? 真面目な話は俺にとってはすべからく子守歌なの。興味ない話は面白くないし、逆につまんない話だったとしても面白おかしく語ってくれるなら最後までしっかり聞くさ。ま、ポチータのセンスに期待だな……っと、着いたぞ」
到着したのはイーグレット国内でも有名な大学病院だ。
元々はイギリス内の最先端医療が受けられる場所であった。
だが今はさらに進化していて異世界医療。
つまり回復魔法を取り入れた新たな医療技術を確立しているらしい。
らしいというのも、まだ世間に公表していない謎技術なのだが……。
そんな大学病院『ペネロペー病院』に足を踏み入れたアナハイドと花。
堂々と前を歩くアナハイドに対して、花はオドオドしていた。
「なにビビってんだよ」
「だ、だってぇ。私、患者じゃないのにさ、こう中を進んじまっていいのかどうか……」
「いいんだよ。調査なんだから」
アナハイドが足を止めた部屋。
そこがポチータのいる場所らしい。
少なくともポチータから返信があったメールにはそう書かれている。
スマホを念のためもう一度確認したアナハイドは、ポケットに突っ込み直して横開きの扉を全開に開く。
「おいーっす。イーグレット警察だ。手~上げな~」
「この馬鹿!」
バシン! と軽快な音がアナハイドの頭から響いた。
叩いたのはポチータであった。
どうやらアナハイドが部屋にやって来た途端、何をしでかすか分かっていたのか待ち伏せしていたらしい。
そんな二人を……。というか、アナハイドがいきなり叩かれた現場を目撃した花は「あ、あわわ」と、大和とは違うイーグレットの国民性に度肝を抜かれていた。
「まったくこの馬鹿は……。どーもすみませんね。おいらの同僚が馬鹿言って……」
「ははは。いいよいいよ。君の話で、これから来る人がなかなかに面白い人だとは予想していたから」
謝り倒すポチータに答えたのは医者だろうか。
見ようによっては研究員のようにも見える。
「いってぇな……」とアナハイドが顔を上げると、彼がまず目にしたのは顕微鏡だ。そして次に、彼が回収した薬のポッチ。
「ここは……研究室かなんかか?」
「そうだよ。まったく、君がいきなり馬鹿言うから困るじゃないか……って、後ろの彼女は……?」
ようやくポチータがアナハイドの後ろに控えていた花に気づく。
花は緊張した様子で頭を下げて名乗った。
「花さん。あぁ。これから一緒に行動するF・E・T・Sのオペレーターさんだね」
「は、はいだぁ。不束者ですが、どうかよろしくお願いしますだぁ」
「不束者だなんて……。それは結婚するときとかに言う言葉であって、今使うものじゃないと思うよ?」
「ほえ!? は、はわわ——」
顔を紅潮させて口をパクパクさせる花。
そんな彼女にアナハイドは——
「俺と結婚するんだもんなー」
と、ふざけ半分で言うと——
「んな事しないべーー!!」
ドバシーン!! と首の骨が折れるほどの激しいびんたがアナハイドの頬に炸裂。
まるで漫画のように吹き飛ばされ、研究室内の物が散らばる。
「んもうっ! アナハイドさんってば、私が田舎者だからって言っていいことと悪いことがあるべ。それに結婚するつもりなら、もう少しお互いに距離を近づけてから——」
「あ、あのー。花さん? アナハイドだけど、君が殴り飛ばしたせいでもう聞こえてないんじゃないかなぁ……」
「ほえ、って! なあああーーーー! 私、またやっちまったべか!?」
研究室の奥に尻だけ上げて体がだらんとしているアナハイド。
彼の周りには研究員が心配そうにバイタルを測定したり、脈を測ったりしている。
表情から察するに命に別状はないようだ。
だが、花はそんなことよりも自分がこれから行動を共にする仲間を殴り飛ばしたことに慌てて——
「アナハイドさん! 死んじゃだめだぁ!」
「ちょ、ちょっとお嬢さん! なにを!? そんなに叩いたら本当に死んじゃいますよ!? って、頬がもうこんなに腫れて——」
「アナハイドさん! アナハイドさぁぁん!!!」
「だ、誰かー!! この子を止めてくれぇ! このままじゃ本当に死んじまうよ!」
研究員が一斉に、アナハイドの頬を往復ビンタする花を羽交い締めにして止めた。
それでも頬を叩き続けようとする花は錯乱している様子。
そんな光景を離れた場所から見ていたポチータは小さくつぶやいた。
「こんな人たちで、本当に大丈夫かな……」
そんな一抹の不安がポチータの胃を痛めつけるのだった。
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