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第7話 着任報告

『ようやく着いたようね。でも予定よりも1時間21分遅刻よ? なにかトラブルでもあった?』

「い、いやぁ。まさかこっちに来てすぐに不良たちに追いかけ回されたんですぅ、いきなりこんなことになるとは……思わなかったべなぁ」


 F・E・T・Sイーグレット支部。

 まだ新築の事務所で、花は通信機越しに上司である魔法少女へ着任報告を行っていた。

 画面に映っている上司は赤髪の10代かそのあたりの少女に見えるが、歳は花より圧倒的に上だ。


「そんなこったで遅れてすんませんだ。リーンさん」

『そういうことなら仕方ないわね。次は気を付けること、いい?』

「はい〜」

 

 リーン。異世界アルデバランのグリデンガルドという国の元魔装軍所属の魔法使いだ。

 元、というのも数か月前にあったネクロウィザード討伐作戦で、なにやらグリデンガルドとすれ違いがあったようで、何人かの魔法使いがF・E・T・Sに転職している。

 リーンもそんな転職魔法使いの一人だ。


『まあ花のことだから怪我はしないでしょうけどね。なにせ私が育てた子たちの中でも飛び切り優秀な魔法使いなわけだし』

「ゆ、優秀!? いやいやいや! 私はそこまでの実力は、ないっぺよぉ」

『はい、謙遜しない。あなたがそんなだと、あなたより下の成績を取った子たちが浮かばれないでしょ。胸を張りなさい、胸を』

「そ、そげなこと言われても……」


 できる上司からの激励を受けたとしても、花の気分が晴れることはない。

 しょんぼりと俯きながら、もごもごと呟くのみだ。

 そんな彼女の姿を見て、リーンは軽く息を吐いて話を切り出す。


『まあいいわ。とりあえず着任してすぐだけど、あなたに早速取り組んでほしい案件があるの』

「も、もう仕事だべか?」


 大和では着任から一週間程度は見習いとして働き、現地の環境に慣れるところから始めると花は言われていた。

 にもかかわらず、仕事。

 花はなにかあるのではないかと目を泳がせた。


『そう、仕事。あなたが大和を発ってからの話なんだけど、そっちの国の議員から依頼が入ったの』

「依頼……。しかも議員さんからだべか? 少しきな臭いべ」


 この国は今、異世界の常識と地球の常識が入り乱れ、法律が機能していない混乱状態にあると花は知っている。

 そんな国の議員からの依頼。

 絶対に厳しい案件だろうと、花は息を呑んだ。


『その依頼というのが、イーグレットで暗躍する闇組織『ダークトリニティ』の調査よ』

「なんだべか、それ」

『ダークトリニティ。彼、彼女たちはイーグレットの無法状態を利用してホール内物質を持ち出したり、異世界ハイネルにアース産の物資を横流ししたりと、挙げだしたら指が足りないくらい手広く悪事を働いているみたい』

「それが私のやる案件と何の関係が?」

 

 花は聞いたが、答えはもう見えていた。

 だが、聞かずにはいられなかった。

 もしかしたら間違いだということもある。

 花以外のオペレーターが取り組むべきものであって、間違って采配された可能性だって捨てきれないのだ。

 だから聞いたのだが——


『わかってるでしょ? あなたにはこのダークトリニティの調査、そして壊滅に取り組んでもらう』

「え、えぇ!? 私がですか!?」

『そうよ。F・E・T・Sは異世界にまつわる問題をすべて解決する義務がある。これは組織理念だって理解してるわよね』

「う、うん……」


 そんなことは就職した初日の研修で何度も何度も聞かされた。

 それほど大事な理念であり、F・E・T・Sが取り組むべき仕事だ。

 もはや間違いではなかった。

 

「そ、その、さすがに私一人じゃ難しいっぺよ? 他にもオペレーターが派遣されたりとかするんですか?」

『オペレーターの派遣はないわね』

「なら私一人で?」


 画面の向こうのリーンは首を振って否定した。

 なら誰か来るのか?

 そう花が首を傾げた時——


「ちゃーっす! イーグレット警察から出張に来やした。アナハイドでぇーす」


 奥の方から男の無駄に元気な声が響いてきた。

 花がそちらに顔を向けると、画面に映るリーンが話す。


『来たわね。そう、その声の主。つまりイーグレット警察の派遣員と協力してってこと』

 

 リーンが話し続ける間に扉が開いた。

 扉の向こうには金髪で三白眼の男がいて、「おっ?」と花を見てくる。


「嬢ちゃん、また会ったな」

「アナハイド、さん」

『なに? 知り合い?』


 リーンが花とアナハイドを交互に見て、そう言った。


「そうそう、俺たち一緒にチンピラから逃げたマブなんすよー…………って、この子誰?」


 花と肩を組み、アナハイドがリーンに満面の笑みで答える。

 だが、アナハイドはリーンがあまりにも子供の姿だったため、小声で花に聞いた。


「リーン教官。私の上司であり、師匠だべ」

「師匠だぁ!? こんなガキがかぁ?」

「しー! しー!! アナハイドさん。リーンさんは見た目通りの年齢じゃないっぺ! 失礼だべ!」

「?」


 首を傾げるアナハイド。

 そんな彼に顔面蒼白になって説明する花。

 そんな二人を見て笑ったリーンは、アナハイドに声をかける。


『ガキって言ってくれるわね』

「あん? ガキはガキじゃねぇか」

「アナハイドさん!」


 花が止めるが、聞かないアナハイド。

 

『見た目だけならね。でも、残念ながら今日からあなたの上司は私だから、言葉には気を付けることね』

「言葉には気を付けろって……。おいおい、職業体験学習で俺の上司をやろうってか? どんな体験学習だよ。どうせならコンビニバイトとかにしとけよな」


 はっはっはと笑い、周りに目を向けたアナハイド。

 そこにいたのは花だけではない。

 他に作業していたオペレーターたちも、呆れたといった様子で彼を見ては、すぐに視線を作業に戻す。

 そんな光景に冷や汗が流れ始めたアナハイドは、恐る恐る画面に映る少女に聞いた。


「マジ?」

『残念ながら……マジよ』


 瞬間、アナハイドは地べたに頭を擦りつけるが如く、土下座をし始めた。


「生意気な口きいてすみませんでしたー! お願いだから給料のカットだけは勘弁してくだせぇー!」


 そんな情けない声が部屋の中にこだまするのだった。

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