第5話 嘘は何故かすぐバレる
「んで? お嬢ちゃんはなんでこの国に?」
アナハイドは助手席に座る花に問いかけた。
というのも、この魔法国家となったイーグレットに旅行者など珍しいからだ。
別に皆無というわけではないが、先ほどの騒動からも分かる通り、まだ魔法使用に関する法整備が整っていないのが原因だ。
なにせ簡単に習得できるせいでどんな人間も武装し、喧嘩が勃発すれば魔法を問答無用でぶっぱなす無法地帯なのだから当然だろう。
「ニュース見たことないべか? ほらフェッツの事務所がこの国にも出来るって」
「フェッツ? あー。あの異世界関係のなんやかんやを解決する組織、だっけ?」
「そう、そのフェッツだ。ウチはそこのオペレーターなんだべ」
「ほほー」
人は見かけによらないものだとアナハイドは花を見つつ思った。
見た目からしてまだ20代になったばかりだろうか。
おっとりとした雰囲気に、少し田舎臭い髪。
それであってもこの制服を着こなしてる辺り、働き始めてそこそこの使用感。
「フェッツだからあんなえげつない攻撃できんだなぁ。俺感激したわ」
「え、えげつないって……。ウチやりすぎだべ?」
やり過ぎたか? といったようにあわあわとし始めた花。
先ほど見せた魔法でチンピラの車を破壊した人物と同じとは思えない。
怒らせると手に負えないタイプなのだろう。
そんな他愛のない話を繰り広げつつ、巻き込んだお詫びだとアナハイドは花を元々向かう目的だった場所へ送り届けることにした。
平和になった街は先ほどの喧騒が夢だったかのように静かで、平和そのものに満ちていた。
こうしてみれば異国情緒のある街なのだが——
プルルルル——
「ん?」
その時だ。
アナハイドのスマホに電話が掛かってきたのは。
「通話アプリじゃない電話……。なんか嫌な予感……」
スマホを取り出して画面を見ると警察本部と表示されている。
アナハイドはしばらくその画面を眺めて、後ろの座席に放り投げた。
「出なくていいんだべ?」
「いい、いい。どうせろくでもない話だろうしな。それよりも事件解決に貢献してくれた可愛いお嬢ちゃんを送り届ける方が優先だろ」
「か、可愛いだなんて、そんな……」
照れたのか、もじもじとし始める花だったが、ふと彼女が車窓に目を移すと——
「ここだべ」
「おっと」
車を止めると、右側の歩道。そこに新たな建物が建てられていた。
新築らしい綺麗な白が眩しいそこには『F・E・T・S』とある。
「これが、例の……」
アナハイドが窓からその建物を眺めていると、ばたんと車の扉が閉められた。
そちらに目を向けると一礼する花の姿が——
「送ってくれてありがとうだべ」
「いいさ。助けてくれたのは俺の方だしな。んじゃ、新天地での仕事、がんばれよ」
「うん。ウチばっちりがんばるっぺよ。アナハイドさんも頑張ってな」
「あいよー」
手を振り、アナハイドはこのクソダサい車を再発進させた。
バックミラーに目をやると、いつまでも花が手を振ってきているのが見える。
そんな姿に少しほっこりしていると、また電話が掛かってきた。
どうせ同じところからだろう。めんどくさいなぁ。出るの嫌だなぁ。
そう考えて無視し続けていたが、長い。コールが。非常に長い。
出るまで切らんぞ。そういった意志を感じる。もしくは、とっとと出ろクソ野郎。
そんな文句すら感じさせた。
ため息をつきつつ車を路肩に止めてスマホを回収。やはり画面には警察本部と表示されている。
「………………はぁ。しゃあない。出るか」
意を決して電話に出る。
『こんの! 大バカ者があああああーー!!』
出た途端、とんでもない声量が耳の穴を突き抜けた。
脳まで震えるほどの怒号で花に癒された心が一気に冷めていく。
「ぶ、ぶぶぶ部長!? なんなんすかいきなり! 耳がイカれちゃいますでしょうが」
『イカれてんのはお前の頭だろうが! いったい何考えてやがる! いくら俺たちが事件解決のためならどんなことをしてもいいって言っても限度があるだろうがぁ!』
またまたキーンと耳の穴に部長の叫びが突き抜ける。
もう電話を切ろうかな。そう思ったが切った場合、後がすごく面倒だ。
とりあえず、なんとかこの場をやり過ごそうとアナハイドは頭をフル回転させるのだが——
「いったい何の話ですか部長? 俺はただ任務遂行した帰りで——」
『その帰りの道中、お前、ゴロツキとやりあったろ』
ぎくりとアナハイドの心臓が跳ねた。
「な、なななな、何のことでしょうか。俺はただ歩いて家に帰ってる途中なんですけど」
『惚けるなアナハイド。警官がゴロツキとやり合ってたって市民からの通報が何件も来てる。街の被害を考えない警官なんてお前しかおらんのだから、嘘言わんでもいい』
「し、心外ですよ。俺が? この街を誰よりも大事に思ってる俺が? そんなバカな」
『ほーう。お前はそうやってまだ惚けようとするつもりか』
「惚けてなんかいませんって。だって俺今家に着いたところですし」
アナハイドは急ぎ、車の中にある曲を適当に再生してここが家であることを演出しようとした。だが、流れた曲はなんてことだろうか。ヘヴィメタルだ。
『お前の家ではいつもそんな趣味の悪い曲が流れてるのか?』
「そ、そうなんっすよ。いやー、この重低音? 鼓膜を突き破るような大音量がたまらんのですわ」
はっはっは。曲で自分の声が掻き消えそうだが、それに負けない程にアナハイドは笑ってやった。
部長もおかしくなったのか、電話の向こうから笑い声が聞こえる。
それとバタバタとプロペラが回転するような音も——
「部長? 部長は今どこに?」
『俺か? どこだと思う?』
「署じゃないんですか?」
『当てたら飯をおごってやろう』
「マジっすか!? そうっすねぇ。空とか!…………!!?」
自分で言って気づく。
空、空だ。
そしてアナハイドの答えに、部長は電話の向こうで大きく笑っている。
『正解だ。それで? お前の家というのは道路の真ん中にあったのか、アナハイド』
「!!?」
急ぎ窓から顔を出して空を見上げる。
そこにはあった。
はるか上空を飛んでいるヘリコプターが。
(まさか、あそこに部長が?…………まあ居るんだろうなぁ、あぁ、詰んだなぁ)
「ぶ、部長。当たったんですから飯をおごってくれるって約束は……」
汗だらだら、心臓バクバク。
それでもアナハイドは口を動かし続けた。
なにせ次に飛んでくる言葉、というか怒号を聞きたくなかったから——
『誰が貴様に飯を奢るか! その前に街の修繕費をお前の給料から全部天引きしておいてやるからなぁ!』
「そ、そんな酷い!」
本当に酷い話だとアナハイドは思う。
なにせ自分はただ喫茶店を出ただけなのにチンピラに囲まれて否応なく逃走したというのに、奴らが勝手に自爆したり街を破壊しただけだというのに。
アナハイドは必死に部長に訴え続けた。自分は無実だと。
だが部長は全く応じてくれない。
だが——
『どうにかしてほしいか?』
「どうにかしてくれるんですか!?」
その言葉は、いつもアナハイドを怒鳴る部長からは珍しいものだった。
当然アナハイドはその言葉にすがるような希望を抱くが——
『どうにかするためにもお前には新しい任務をやって貰わにゃならん』
「何でも言ってください! このままじゃ借金でお飯食べられないんですぅ」
『ならお前には、他国の異世界対策機関のオペレーターと協力して、とある事件の捜査をしてもらおうか』
「へ? それって……」
『よろこべ、アナハイド……。お前に3か月間の出張を命じる。もちろんタダ働きでだ』
「タダ……タダ!? ちょっ! そ、そんなぁーーーー!!」
そんなアナハイドの嘆きが、平和を取り戻した街に大きく轟いた。
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