↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/121

第4話 F.E.T.S派遣オペレーター山野花の不幸

「んー! ここが今のイギリス、いや確かイーグレットだべか~」


 イーグレットの首都クトリンデでタクシーを降りた娘は、それに向かって腕を伸ばし背伸びをした。

 背中にはパンパンに荷物を詰め込まれたリュック、そしてリュックと背中の間に挟むように杖が刺さっている。

 旅行者のそれとは明らかに違う風貌。だが田舎者。

 そんな姿の彼女を見て街の人々は一目で笑うのだが、娘はそんな人々の目線など一切気にも留めずに、スマホの画面と睨めっこしながら歩き続けていた。


「えー、事務所事務所……たしか、この辺りにあるはずなんだけど……。なして見つからんの~」


 娘はやがて泣きそうな顔になった。

 異国に単身乗り込むことになったのは、彼女が所属する組織の命令だ。

 彼女の制服の右肩に付けられたワッペン。そこに描かれているのは杖と剣と銃の3つが掲げられた意匠で、『F・E・T・S』所属を表すものだ。


 彼女はこのイーグレットに新たに建設されることになった事務所の派遣員として送り込まれたオペレーターだった。

 元々は日本人であり、今の国籍は大和国民。

 北海道の田舎にある小さな事務所で、こじんまりと働いていたのだが、どうやら異世界トラブルの解決能力の手腕を見込まれてこの地に送り込まれた、らしい。

 らしいというのも、彼女自身そこまでの能力があるとは思っていなかった。


(ただ魔物のおじさんおばさんと近所の人族とのけんかを仲裁し続けてきただけなのになぁ)


 心細い、寂しい。田舎では友人もたくさんいたし、気心の知れた仲間もいた。

 だけどこの地には誰もいない。

 弱る心を昂らせるように、娘はポケットから手作りのお守りを取り出す。

 そこには『花がんば』と刺繍で書かれていた。

 友人たちからの餞別だ。

 向こうでも一人で寂しくならないように、ずっと友達だよと握らされたお守りを見て、花は前を向く。

 山野花。それが彼女の名前である。

 この魔法世界となった旧イギリスの街を歩き続け、横断歩道の先に事務所があると希望を見出した時——

 それは現れた。


「いえぇぇーーーい!!」

「待てゴラァ!!」

「なんだべ!?」


 車道の向こう、街の角から急カーブして走ってくる派手な車の数々。

 その車たちが走り去った後方では爆発が起きたり、車が跳ねて建物に突っ込んだりと、まるでギャング映画のワンシーンのような光景が花の目の前で起こっていたのだ。


「な、ななな、なんだべかーー!!」


 驚きもつかの間、彼女の足元に何かが転がってきた。

 ん? と花が下を向くと、それはまるで小さなパイナップルを濃い緑で染めたような——


「手榴弾!?」


 それが爆弾だと気づくと、花は咄嗟にリュックを盾に構えた。

 轟音、そして衝撃。花に身を焼くような熱風が襲い掛かった。

 足の裏に感覚がない。

 ぎゅっと抱きかかえるカバンから顔を上げると、爆破の衝撃で体が吹き飛ばされていたようだ。

 そしてなんと運が悪いことに花は——


「うべっ!」


 先のカーチェイスを繰り広げていた先頭の車。

 つまり追われている車の車上に落ちてしまったのだ。


「う、うそおおおーーーーー!!」


 遠ざかる目的地。追ってくる謎の派手な車たち。


「なんだべか! なんだべかぁーー!」

「なんだお前?」


 花の嘆きが聞こえたのか、車の中から煙草を吹かす男が窓から顔を出してきた。


「おいおい、これはタクシーじゃないぞお嬢ちゃん。大体これがタクシーに見えるか? どこからどう見ても馬鹿が着飾ったチャリオット——」

「んな事は見れば分かるべ! お、降ろしてけろ! お願いだから下ろしてけろ~」

「降ろせって? そいつは無理だな」

「なんで!?」


 涙ぽろぽろ、鼻水ぐじゅぐじゅの可哀そうな花に、この男は鼻で笑いながら告げた。


「後ろのチンピラどもが停まってくれねぇからだよ」


 ***


「あ、あいつらなんだべ? なしてお兄さんが追われとると?」

「んなこと言われてもなぁ、しいて言えばしゃぶしゃぶパーティーを邪魔したから?」


 花は思った。それってお兄さんが悪いんじゃないかと。

 だけど怖くてとても口に出せなかった。

 花は小心者である。それに今のこの意味不明な状況に頭の理解が追いつくので精一杯でもあった。

 後ろから炎やら水やら雷が飛んでくるが——


「あれって魔法だべか?」

「そうだなぁ。魔法だなー。つっても子供でも使える程度の初級だけどな」


 初級、そのレベルの魔法であっても地面に落ちた途端に爆発し、道路を粉々に砕いている。

 花はゾッとした。

 これが、この国の当たり前なのだろうか。

 魔法と呼ばれる爆発物を街の住民が全員所持しているということなのだろうか。


「あー。お前は観光客だから分かんねぇか。魔法っつうのはな。今なら通信教育受ければ誰だって習得できるありがたい物なんだよ」

「だからってあんな乱暴に使っていいものだべか!? 法律は!? たしかこの国にも警察があるはずだったっぺ!」

「警察?」


 ああ、それなら……と男が手帳を取り出して花に見せてきた。


「俺、警察なんだわ」

「警察がなして追われとるっとーーー!!?」

「だからしゃぶしゃぶパーティーの邪魔を——って、つかまれ!」

「ほえ?」


 瞬間、車が急カーブした。

 どうやら街の突き当たりまで爆走していたらしく、この男はブレーキとハンドルをうまく使い、曲がり切ったようだ。

 花は車体に必死にしがみつき堪えるが、ガタガタ揺れたり、バカみたいな運転で——


「うっぷ」


 吐き気がこみ上げてきた。


「大丈夫か~?」

「大丈夫じゃねぇべ……」

「!? どこか魔法を受けたのか!?」

「い、いや……気持ち悪い」


 告げた瞬間。花の口から虹色に輝く吐瀉物がキラキラと後ろのチンピラたちへ飛び散った。


「ぎゃああああーーーー!! ゲボ吐きやがったぞあいつ!」

「俺たちの愛車になんてもんぶっ掛けやがる! もう許さねぇ! 生かして返すな!」

「おろろろろろろ」

「…………ふぅ」


 呆れたように花を見た男は窓から顔を引っ込めて運転に戻る。

 花はもう泣いていた。吐きながら。


「お母さん、ウチここで上手くやっていける自信ないよ……。帰りたいよぉ。たかちゃん、みっちゃぁん」


 でも、このままでは殺されてしまう。

 死んだら田舎の友達とも、家族とも再会が出来ない。


(それだけは、嫌だべ)


 だから花は涙をぬぐった。

 そして背中にあった杖の電源を入れてチンピラたちへ向ける。


「フェッツには有事の際に攻撃してもいいって規則があったはずだべ……」


 自分の働く組織の就業規則を思い出しながら、杖にマガジンを差し込む。


「でも、その前に……」


 口の周りの吐瀉物を拭き取り、涙を拭って花は車体の上に立った。


「そこの暴漢たちー!」

「なんだ?」

「いきなり立ちやがって、なにするつもりだ?」


 訝しげなチンピラたちに構わず、花は叫ぶように告げる。


「これ以上暴れるようなら容赦しないっぺよ。ウチはF・E・T・S所属のオペレーター。山野花! 話を聞かないようなら実力行使だべ!」

「へっ。やれるもんならやってみやがれ!」

「その名前の響きからして大和の人間だろ? だったら魔法も使えねぇ無能じゃねぇか! そんなお前に何が出来るってんだ?」


 ひゃはははは。

 笑うチンピラたちに花は溜息をついた。

 話を聞いてくれると少し期待したのに、聞いてくれなかったから……。


「お、おい? お前何を——」

「お兄さんは黙って運転してて」


 花は杖を構えた。

 確かに大和には魔法がない。あっても魔物にしか使えない特別な魔法のみだ。

 花は旧日本時代の人間。もちろん魔物ではないのだから魔法は使えない。

 だが、彼らは知らない。今の大和にはマナがある。

 F・E・T・Sがとある異世界と同盟を結んだことで得ることが出来た新技術を。


「AS。発射だべ!」


 花は撃った。白く輝く光弾を。


「なっ!? なんだよあれ!」

「魔法!? あの国の連中は魔法が使えねぇはずじゃ——」


 その光弾が車の一つにぶつかると爆発し、車体が大きくひっくり返った。

 チンピラどもの慌てふためく声、その最中であっても花は杖を向け続けたままだ。

 スンと感情の落ちた瞳。まるでスナイパーのそれだ。

 花の目を見たチンピラは——


「まずいまずい! 一度退くぞ!」

「あいあいボス!」


 車をUターンさせて走り去っていった。

 それを見届けた花は杖を下ろし、息を吐く。


「ふぅ。なんとか終わったべ……」


 自分の乗っていた車も止まり、車内から煙草を吹かした男が出てきた。


「ふぅ。助かったぜ。ありがとなぁ」

「どういたしまして……って、巻き込まれたのはウチなんだし、感謝より謝ってほしいかも」

「乗ってきたのはお前の方だろ? なんで俺が謝らないといけないんだ?」

「好きで乗ったわけじゃないべ……」

「まあいいや。とりまサンキューな。俺はアナハイド。この街の警察だ。といっても、特殊な警察だけど」

「そうだべか。ウチは山野花。今回F・E・T・Sがイーグレットに支部を建てるってことで派遣されたオペレーターだべ」


 よろしく、と互いに手を交わした瞬間。

 花の頬がボコッと膨れ上がった。

 アナハイドは青ざめる花の顔を見て——


「お、おい大丈夫か? 顔が真っ青だぞ? まさか毒を受けたとか?」


 ぶんぶん首を振る花。

 心配するアナハイドは尚も彼女の身を案じようとするが——


「おろろろろろ」

「うぎゃああ!!」


 花はそんなアナハイド目掛けてゲボをぶっ掛けるのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

もし面白いと思って頂けたら

評価とブックマークをして頂けると励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。