第45話 対カリギュラ決戦兵器
『ご苦労だったね、如月君』
「いえ、これも皆さんの協力あってのことです」
ホール対策委員会本部のとある一室。
この場は如月しか知らない隠された部屋である。如月の目の前には巨大なモニターが浮かび上がり、そこには老人が一人、手を組んでいる。
対策委員長カールスラント・ラグナ。
元機関の局長にして委員会の最高権力者だ。
『謙遜しなくていい。今回の任務は委員会の行う事業が世界にとって有益なものだと知らしめるための大事な足がかりだったんだ。失敗したら大和の援助も解消、委員会は解散してただろうね』
「またまた、委員長、ご冗談が上手ですね」
如月は知っていた。
この男がそんな程度で止まる存在ではないことを。
金がないなら作る。作れないなら奪う。
世界を、人類を救うためにはどのような手段も問わないような男なのだ。
数ある手段の中でも最も穏便に済む方法を選ぶだけまだ善人だが、見る角度が違えば悪人と言える。
少なくとも如月にとっては善人、そうであることに違いはないのだが。
『はっはっは。だが結果、我々は勝った。世界は今や委員会の存在を認めつつある。旧イギリスの魔法大国イーグレット。旧ロシア——ウルジオス。その他の異世界も注目してるようだぞ? すごいだろう』
「えぇ、まあそうですね。注目されること自体は嬉しいですが」
その分仕事も増える。それに今後はテラ級カリギュラの討伐任務も増えることだろう。
そうなると職員の命が危険に晒されることも増える。
如月にとっては中々頭と胃の痛い話だ。
「ですが委員長? 最初に答えた通り、この成功は地獄からの渡航者、そしてアイリス主任と彼女の作り上げた人型決戦兵器の活躍あってこそです」
『異世界人……。たしかその主任は同じ異世界の犯罪者を追っているのだったか』
「ええ、この地球の常識を破壊したS級テロリスト。ドクタークルーエル」
『そうだ、そうだ。そんな名前だったな』
「クルーエルの手掛かりは?」
委員会は異世界に関する問題を解決する機関だ。
その中には勿論、この世界を滅茶苦茶に変えた狂科学者を捕らえる使命も含まれている。
クルーエルが何を企んでこの世界をこのようなファンタジーに変えたのか。
そして変えただけで姿を晦ましているが、次の狙いは?
頭のキレる犯罪者ほど恐ろしい物はない。
このカールスラントもクルーエルの行方を職員達に追わせているのだが、結果は——
『残念ながら0だ』
「そう、ですか」
となると、アイリスと直哉の身柄が自由になるまで、まだ日は遠いと如月はうつむき嘆息する。
『だが』
カールスラントの言葉に如月は顔を上げた。
『だが、今回の成功を受けて各国に委員会の事務所を置かせてもらう手はずは整った。これでこれまで以上にクルーエルを追いやすくなったし、なにより! 新たな戦力も増えたじゃないか』
「ですねぇ」
シエル達、元グリデンガルド魔装兵のスカウト。
そして世界中に委員会の対策事務所を置くことが決定された。
その事実は、これまでの大和所属の一組織という肩書から大きく飛躍し、国際機関に名を連ねるということになる。
これからはより多くの資金が入り、より職員の数も増えていくことだろう。
数は力、金も力だ。
如月は長い機関生活の中でそれをよく知っていた。
「これから、始まるのですね」
『そうだ。これからこの地球。いや、ファンタジーアースは大きく歴史を動かしていくことになる。となると、委員会の名前ももうちっとマシなものを考えないといかんな』
「全職員でコンテストでも開いてみます?」
『お、いいね。そうしよう。それがいい。如月君、早速だが手配を急ぎたまえ。これは委員長命令だよ』
冗談で言ったのに……。と如月は何とも言えない顔になる。
この委員長、底が見えない恐ろしい人なのに、こういうところでは面白い人に成り下がるのだ。
まあ、そこが如月達善人を引き付けるカリスマなのだろうが——
(世界が大きく動き出す、ね)
手元の資料。
そこには委員会が目指すこれからの計画について書き記されていた。
『全時空統一計画』と。
***
2ヶ月後——
時間が過ぎるのはあっという間だと直哉は思う。
目覚めてからゲルルンギラスを撃退し、ネクロウィザードを討伐するなど、兵器らしい活躍を重ねた彼は今、国連異質調査機関『F・E・T・S』、通称フェッツの戦闘オペレーターとして各世界を飛び回っている。
飛び回ると言っても、仕事はそう大層なものではなく。
異世界から迷い込んだ魔物の討伐、もしくは保護。
または異世界からこんにちはしてきた人間とファーストコンタクトを図り、フェッツへ同行してもらうといった犬のおまわりさん的な仕事ばかりだ。
「なぁアイリス、俺たちこのままでいいのか~?」
『ん~? どういうことかなぁ?』
インカム越しに気だるげなアイリスの声が聞こえた。
その中にパリポリと菓子を喰ってる音まで聞こえてくるもんだから、直哉は少し不機嫌になる。
なにせ今、彼がいる場所は砂漠。水すら手に入らない、新たに地球上に現れた新大陸に足を踏み入れたのだから。
「いや、クルーエルだよ。探すんじゃないのか?」
この世界を滅茶苦茶にした罪は、クルーエルを見つけることで解消されるはずだ。
だというのに、このだらだらアイリスは——
『まあゆっくりでいいんじゃないかなぁ』
と言いやがるのだ。
『僕たち個人がどうこう動いて見つけられるわけもなし、それにフェッツも奴の動向を追ってくれてるんだ。僕たちは朗報を寝て待つだけだよ』
(寝て待ってるのはお前だけだけどな……)
直哉はこの道なき道、目に映る進路が砂一色に染まった景色を見ながら悪態をつく。
「まあ、お前がそれでいいならいいけどさ……」
直哉は兵器だ。寿命もないただの機械。
機械は人にいいように使われてこそだ。
主人であるアイリスがゆっくりでいい。そう言うのだから反抗する理由もない。
それよりも今は——
「んで? 目的のテラ級はどこにいるんだ?」
『んー、この先ドンツキを右に行ったところかな?』
「ドンツキって突き当たりなんかねぇだろ! この砂漠によぉ!」
恐らくドラマか何かで覚えた関西弁。
そして直哉が怒鳴ったように、突き当たりなんか砂漠にあるはずがない。
こんな開けた空間に壁など一つもないのだから。
だがアイリスはそれでも言う。
『あるよー。君を中心に展開したソナーでは確かに突き当たりを右に——』
「その突き当たりってのは、どれぐらい先にある?」
真面目に、聞き返す。
『んー。200mぐらい?』
砂漠、そして見えない突き当たり。
答えは一つ。
(あぁ。クソくらえ異世界。なんでこう常識外れなもんばっか目の前で起こるのさ)
肩をガックシと落とした直哉。
もう面倒だ。そう呟き、荷物を下ろした。
するとアイリスが慌てたように——
『ちょ、ちょちょちょ! ちょい! 一体君は何するつもり——』
「テラ級カリギュラをぶっ倒すんだろ? だったら——」
拳を握る。
すると腕が稼働し、光が内側から漏れ出す。
まるで大砲にエネルギーをチャージしたかのように。
「この砂漠ごとカリギュラをぶっ倒しゃいいだけだろっ!」
『ば、ばかー! この異世界はまだ保護区だよ! 君の馬鹿力なんかで殴れば荒れ地に——』
「んなもん、知るかっ!」
光を纏った拳をアイリスの告げた方角目掛けてブチかました。
すると何かにヒットしたのか、透明な空間に波紋が広がり、中から超巨大な芋虫が姿を現した。
「みっけ。んじゃ、さっさと仕事を終わらせて家に帰るとしますかね!」
高井直哉。フェッツ所属S級エージェント。
またの名を『イリーガルウェポン』。
彼は対カリギュラ決戦兵器として世界に名を轟かせるまでに至っていたのだった。
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