第41話 決着
春風、委員会作戦司令室。メインモニターに映るネクロウィザードの変化に、如月をはじめとするオペレーター各位は気づいた。
当然、この場に同席していたアイリスも動揺した。
あの蜘蛛のような球体状の体が、まるで中に空気をこれでもかというほど送り込まれたかのように、一気に膨れ上がったのだ。
アイリスはそれを見て確信した。
シエルだ。シエルが奴の体内で攻撃したのだと。
「如月さん! 今だよ!」
「わかりました!」
頷いた如月はオペレーターへ通達する。
対魔砲を撃てと。
そして春風から、もう何発目か分からない対魔砲が放たれ、モニターが白一色に染まり上がるのだった。
***
「んだありゃ!?」
リュグリットと戦闘を繰り広げていた直哉にも、その光景は目に入った。
なにせすぐ傍で飛んでいるのだから当たり前である。
ネクロウィザードの体が、倍以上に一気に膨れ上がったのだ。
そして目の前のリュグリットも——
「うっぷ、お、おえぇ……」
口を押さえて、胃液のような透明な液体を口から吐き出している。
明らかな異変。まるで食べ物に当たったかのような……そんな様子だ。
『直哉くん。聞こえるかい!』
「なんだアイリス!」
唐突な通信。
アイリスの慌てたような声に、すぐに返事を返す。
『今から対魔砲が着弾する。君はなんとかしてネクロウィザードの口をもう一度開けてくれたまえ』
「今からって……いつ!?」
『10秒後だ!』
振り返ると、光が徐々に迫ってくるのが見えた。
対魔砲……。委員会の持つ決戦兵器の一つ。
口を開けろと言われても……どうすればいいんだと直哉はアイリスに尋ねたかったが。
(聞いてる時間もねぇよな!)
だから直哉はすぐにネクロウィザードの体目掛けて上空へと上がった。
リュグリットは追いかけようとしてこない。
吐き気に堪えるのに精いっぱいといった様子だ。
であれば——
(問題なく口をぶち開けてやることができらぁ!)
「だらっしゃあああああーーーー!」
もはや手を抜く必要はないだろう。
そう考えた直哉は、ネクロウィザードのギョロリとした巨大な目玉目掛けて、全力でぶん殴ってやった。
ぐちゅりとした感触。そして、めり込む拳。
まるで空気の抜けたボールを殴りつけたかのように、ネクロウィザードの体が大きく凹んだ。
そして、開く。
奴の……すべてを飲み込まんとする大口が。
「そ、そういうことか、おぇ……させ、るがぁぁぁ!!」
遥か下方。リュグリットが迫りくる対魔砲に気づき、咆哮を上げた。
口から吐瀉物を撒き散らしながら迫ってくる。そんなリュグリットに直哉は目を向けた。
吐きながらなおも迫りくる異形の姿は、さすがに不気味が過ぎる。
「お前たちの狙いはわかった。私の内部から破壊しようというのだろう! だが、そうはさせない!」
必死な様子。
直哉は、この作戦でネクロウィザード討伐の成功が確定したと確信した。
だから、彼はリュグリットへと向かっていく。
邪魔はさせない。
これで世界から脅威が一つ去るのだから。
シエルたち魔法少女が苦しまずに済むのだから。
「邪魔すんなよバケモン!」
シエルは自分には趣味がないと言っていた。
それは今までの人生を戦争に捧げ、自分のことを顧みなかったからだろう。
「もう、これ以上俺たちの人生を邪魔すんなよ!」
魔法少女たちの戦闘技術、練度は卓越していた。
いや、卓越しすぎていた。
子供の姿なのに、中身は大人。
つまり始まりは子供の状態で、長い年月を戦いの歴史に身を置き続けていたということ。
「うがああああああーーー!!」
迫りくるリュグリットに、直哉は拳を握る。
構える。
そして装備を稼働させる。
(俺は、世界を終わらせちまった最低の兵器だ)
クルーエルの悪事を止めきれず、地球と異世界の次元の均衡を崩してしまった。
そのせいで自分だけじゃない。アイリス、そして砕華も、この終わりの見えないカリギュラとの戦いに身を投じることになった。
(そんな俺でも、いや俺だから出来ることがあるとすれば——)
そうだ。
それは自分にしかできないこと。
異世界で死んで兵器として生まれ変わった己にしか出来ない、破壊の力。
「この世界の最終兵器としてテメェらまとめてぶちのめしてやらぁーーー!!」
「どけどけどけぇ! 私は王になるんだ! 王になってそれで、それで——」
互いの拳が交錯する。
直哉の頬を掠めたのは、誰かの腕だったのだろう。
だがその腕は、なぜか直哉の胸から軌道がそれたのだ。
まるで、取り込まれた人間がリュグリットに操られることに抵抗したように……。
「ぶっ!?」
代わりに直哉の拳が、リュグリットの頬に深く突き刺さる。
ミシミシと音が鳴るのは骨の音。
燃えるような熱を放つのは、稼働させたアイリスとクリシュが持たせてくれた装備。
勢いが増す。まるでジェットエンジンを搭載したかのような勢いで、拳がリュグリットの顔面を押し込んでいく。
「王に、私は……王に!!」
「食っちゃ寝する王なんざ……王じゃねぇよ!! このクソ野郎がぁーー!」
ばつん! と。
リュグリットの首が吹き飛んだ。
そして同時——
頭上のネクロウィザードの口の中に対魔砲が入り——
ボコボコとネクロウィザードの体が一気に膨張した。
肉体の隙間から光が漏れ出る。
まるで剣を突き刺したかのように、黒い肉体から光が漏れ出ている。
「こんな……こんなぁ……」
リュグリットの絶叫。
そしてネクロウィザードが——
爆発して、粉々に吹き飛んだ。
砕け散った体からは無数の腕が海へと落ちて……消えていく。
風に揺られて落ちていく腕が、直哉には別れを告げるように振られているように見えた。
気のせいかもしれない。
だが、そう見えたのだ。
「やった、やったんだよな」
『うん。初のテラ級討伐だったけど……』
妙な達成感。
兵器として生まれ変わって以来、長らく感じることのなかった高揚感に、直哉はぎゅっと身を縮めて——
『ネクロウィザード討伐成功だよ』
「おっしゃああああああーーーー!」
両手を空高く突き上げ、盛大に声を上げたのだった。
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