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ファンタジーアース〜変わってしまった地球の片隅で〜  作者: ギトギトアブラーン
第2章 異世界と混ざり合う地球、そして魔法少女
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第31話 思い違いそして正体

 魔法少女の屍たちの中、奥に隠れるように佇むローブ姿の異形が1体。

 直哉は目を拭い、これが催眠による光景か、それとも現実か疑っていた。


「砕華、俺また幻覚見てるとかじゃないよな」

「大丈夫だ。私にもしっかり見えてるぜ」


 砕華の言葉を受けて安堵の息を吐く。

 催眠から逃れるすべを持ってる彼女が言うのなら問題ないだろう。

 だとすればあれが、本物のネクロウィザードということだろうか。

 シエルはすぐに直哉たちの元へやって来ては肩を並べて敵と向き合う。

 そんな彼女に直哉は——


「食われて死んだかと思ったぞ」

「私もそう思ったのですが、どうやら幻を見せられていたようです」

「砕華」

「おう」


 幻を見せられていた。そう言ったシエルにもまだ催眠が付与されているかもしれない。

 砕華に頼みシエルの状態を見てもらうが、砕華は大丈夫だと首を横に振った。


「シエルに催眠は掛かっちゃいねぇ。もともとの力で解放されたのか、敵の催眠が弱かったのかは分からんけどな」

「どっちにしろ今が大丈夫なら問題ないってこったろ」

「そういうこった」


 ならいい。今は、とりあえず。

 直哉たちは敵を、ネクロウィザードを睨む。

 相手が如何に魔法少女の死体を操ろうともこの2人であれば、アイリスの作ってくれた装備があればもう負けはしないだろう。

 だが向こうは笑っている。深く被ったローブの下、その顔は分からないが薄ら笑いがくすくす聞こえるのだ。


「形勢逆転と言いたいのでしょうか?」

「なにがおかしい」

「いえいえ、まさかたった3人で勝てると本当に思っているのなら滑稽だなと思ったまでですよ」

「この!」


 直哉と砕華が同時に飛び込む。

 魔法少女たちがローブ姿のネクロウィザードを守ろうと立ち塞がるが、シエルが射撃魔法で蹴散らし道を開けた。

 崩れ落ちる屍の肉片を避けつつ直哉と砕華は拳を放った。

 直撃。だが不思議と感触はない。まるでカーテンを殴ったような……。


「無駄ですよ」

「リュグリット!」


 シエルが射撃魔法の連射でローブ姿の異形を撃ち貫く。

 だが直哉と砕華が殴った時同様に全く堪えていない様子。

 いや、違う。

 直哉は見た。

 奴がシエルの魔法を受けて、水面に石を投げ入れた時と同じような波紋を体表に広げたのを。


「まさか幻!?」

「おいおい嘘だろ!」

「ですが、なるほど。納得です」

「「なにか分かるのか!?」」


 三者三様。皆違った反応を見せる。

 直哉は疑い、砕華は驚愕、シエルは納得といった表情を浮かべている。

 直哉と砕華にシエルは告げた。


「奴から生き物としての存在感が感じられないんです。なんていうか、映像のような、ホログラムのような」


 実体がない。そうシエルは言った。

 なるほど、確かにそうかもしれない。

 殴った時に空を切るような手応え、そして奴自身が攻撃してこないのも。

 実体がないから。そう言われれば納得だ。


「んじゃ本体はどこだ!」

「それをまじめに教えるとでも?」

「そうだよな!」


 分かり切った問いを直哉はぶつけ、まあ予想通りの答えが返ってきた。

 礼は拳で返す。十分だ。

 もう言葉を交わす必要もない。

 聞いたとしても無駄に惑わされるだけ。

 直哉の攻撃に砕華とシエルは頷き合い、実際に今この場にいる敵、魔法少女たちの屍を蹴散らしていく。

 まさかりで切り裂いては豪快に蹴散らす砕華。

 射撃魔法で風穴を死体にあけ続けるシエル。

 これほどまでに心強い味方はいないだろう。

 そして直哉は全力を乗せた拳で巻き起こした風圧で多くの屍を吹き飛ばす。


「無駄ですよ。どれだけ足掻こうとも私の僕が尽きることは無い」


 蹴散らした傍から追加の魔法少女。

 いったい過去にどれだけの魔法少女を殺してきたのだろうか。

 だが、それでも直哉は体を動かす。

 砕華はまさかりを振るう。

 シエルはマナを解き放つ。

 それでもリュグリットの笑みが消えることは無い。

 むしろ増すばかり。そして奴が高笑いをし始める。


「無駄だって言っているでしょう!」


 空から巨大な髑髏が降ってくる。

 シエルを食ったあの骸骨だ。


「砕華!」

「わかってるさ。解っ!」


 パァン!

 砕華が手を打った目が覚めるような音により、骸骨は忽然と姿を消す。

 幻、催眠だ。


「ほぉ。それが魔法か」


 感心するように顎をしゃくるリュグリット。

 むかつくが奴に攻撃は届かない。

 こうして奴の僕と戦い続けること数分。

 このままではジリ貧だろう。


「本体を倒さないと」

「だがどこにいる。この広い空間の中を探せってか?」

「現実的じゃあない。なにか手段があれば——」

『みんな朗報だよ!』


 悩んでいたところにアイリスの明るい声がインカムから響いた。


『君たちの戦闘から目の前にいるネクロウィザード、リュグリットのエーテルデータを解析、そしてその波形が本体と繋がっているのを見つけたよ』

「ナイスアイリス! さすが俺の娘!」

『娘じゃないよっ!』


 直哉のボケにアイリスは強く反論する。

 シエルと砕華の冷めた視線。

 まるで『今ふざけてる場合か?』とでも言いたげな顔に、直哉は『すんません』と頭を下げた。

 インカムの向こうでこほんと咳払いするアイリス。


『おふざけは置いておいて……。解析の結果だけど驚かないでくれよ?』


 何をいまさら驚くことがあろうか。直哉は鼻で笑いつつ屍をまた1体蹴り飛ばす。


「もったいぶんなよ天才科学者。で、何が分かったってんだよ!」


 砕華がまさかりを投げてはブーメランのように手元に戻す。

 今の一度の投擲で屍が大量に砕け散った。


『それがね、どうやら本体はすぐそこ、君たち、いや全軍の目の前にいるんだ』

「「「はぁ?」」」


 これには流石に3人同時に声を上げた。

 目の前にいる? しかも全軍の……。


「アイリス主任。それはさすがに……。目の前に居るのならやはり超巨大な——」

『そうだね。超巨大であることには違いないよ』

「おいおいそんなでかいならこっから見えてもおかしくないだろ」


 空を見渡す砕華。だが当然敵の姿はない。それらしき異常も見当たらない。

 直哉だってこの場にはいないと断言できる。

 アイリスは間違っている。珍しい間違いもあるもんだとがっかりしたが——


『ちゃんといるよ』

『高井主任の言う通りです』

「如月ちゃん!?」


 間違いなどないとでも言いたげな自信満々なアイリスの言葉に続いたのは、ホール対策委員会司令官の如月だった。


『そもそもネクロウィザードが生物の形をしてるといった先入観が間違いだったんです』

「どういうことだ?」

『高井主任の話を聞いて今こちらでもホールを解析してみたのですが、このホール、ほかの世界に存在する異世界と繋がるゲートとは性質が全く別物です』


 カリギュラは人類にとって、異世界にとっても未知の生物だ。

 誰がかの存在を解き明かしたといえよう。

 未だ何一つとして明らかになっていない異形なのだ。

 ならば我々人類にとって予想をはるかに超えた存在であってもおかしくない。

 その当たり前の一点を直哉を含む皆が忘れていた。


 グリデンガルド魔装軍の以前の交戦記録から、ネクロウィザードは巨大な大異形だと思い込まされていた。

 映像にも残っていたが、それもきっとネクロウィザードの異能の力だろう。

 催眠に似たバグをカメラに植え付け、後に戦う者へ間違った情報を与えていた。

 そう、それが意味する答えをアイリスが告げる——


『ネクロウィザード、いやホール擬態型巨大カリギュラは最初からどちらの世界にも現れていたんだよ』

「ホール擬態型カリギュラ……っておいおい」

「それってアイリス主任、何かの冗談ですよね」

「いや、アイリスはこういうまじめな時にふざけるような子じゃない」


 だが信じられるか? それが意味することはつまり——


「アイリス、なら俺たちが居るこのホールの中は……」


 察しがついた。目標がホールに擬態しているのなら、その中に足を踏み入れた自分たちが居るこの場所は——


『お察しの通り、ネクロウィザードの胃袋の中だよ』

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