第30話 本体はどこに
直哉と砕華の話をインカム越しに聞いていたアイリスは考えていた。
直哉に掛けられた洗脳。それはいつ掛けられたものか。
彼の戦闘はアイリスが全てモニターしていた。
彼の戦闘の中で一切敵の攻撃を受けた様子もなく、魔法の類に魅入られた形跡もなかったはずだ。
なのになぜ幻覚を見ていたのだろうか。
そして直哉の見た巨大な大異形とは?
「如月さん。ちょっといいかな」
「なんですか?」
司令部ブリッジで全軍の指揮を執っていた如月を呼びつける。
さすがに自分自身の考察だけで判断するのは危険と考え、この場において一番冷静に戦場を分析している彼女の意見を参考にしたかったのだ。
如月はオペレーター各位に簡単な引き継ぎを行い、こちらへやってくる。
「なにか分かりましたか?」
「いや、まだなにも」
首を振って——
「だからこそ君に聞きたい。この戦況を冷静に見ている君は、直哉君以外におかしな行動をとる人を見たかい?」
洗脳に掛けられた存在が直哉だけとは考えにくい。
直哉のほかにも委員会戦闘部、百鬼夜行部隊、グリデンガルド魔装軍。
その中にも洗脳に掛かった疑いのある人がいるかもしれない。
如月は難しい顔を浮かべながら考え込む。
思い出そうとしているのかもしれない。
「そういえば」
数秒待って如月は口を開いた。
「グリデンガルド魔装軍の中に、いきなりフレンドリーファイアに及ぶ兵が何人かいた気が……」
「本当かい!?」
「い、いや、あくまで気がするってだけで、実際にさっきの話の洗脳に掛けられたとも言い難いんですけど」
「十分だよ」
アイリスは如月に、その洗脳に掛かった疑いのある兵がどの地点にいたか、マップ上に示してもらう。
直哉が最前線の右翼側、そして疑いのある兵が直哉の後方、そして中央。
(右翼側に多い)
これだけの情報で考えられるのは、このホール内一帯に催眠の魔法か何かしらを展開している可能性はないということ。
もし施されていたのなら、全軍が仲間同士争っていてもおかしくはない。
だが結果はそうではない。
そして右翼側に多い点。
おそらく巡回型のスモッグのような類が存在するのかもしれない。
(そういえばシエル執行官、言ってたっけ)
巨大なネクロウィザードが現れる際は、空気が一気に冷え込んだと。
冷気……。ネクロウィザードの洗脳は冷気にカモフラージュしたもの?
(現状考えられるのはそれだけか……。いや、まだ何か見落としているかも)
アイリスは考える。
カリギュラは未知な点が多い生物だ。
未だ人類に解明できていない点が多く残っている。
常識では計り知れない存在なのだ。
常識の範囲で生きている限り、敵を出し抜くことなど不可能だろう。
だからアイリスは頭を捻る。
予想だにしない答えを導き出すために。
***
直哉はシエルの信号を追って、砕華と共にホール内を飛び抜けていた。
「って、お前、仲間は大丈夫なのか?」
「ん? ああ。部隊なら問題ない。あの程度の雑魚なら私が付いてなくとも殲滅してくれるだろうさ」
なんとも頼もしい仲間だこと。
とはいえ、この場に砕華がいてくれるのは心強い。
洗脳に対する耐性も魔法も有しているのはありがたくもある。
「にしてもこのホールってよぉ。広い割にスカスカだよなぁ」
「っていうと?」
周りを見渡す砕華に合わせて、直哉も周りに目を向ける。
暗い空間、底の見えない地上。苔のような緑が生えそろった大地に、骨の山に谷。
ここが死後の世界だと言われれば信じてしまうこと請け合いな光景が広がっている。
ただそれだけ、そこに敵が雑に配置されているだけのホール。
それに敵も大して強いわけではなく、雑魚の寄せ集め。
強いて言えば物量に飲まれて死んでいった仲間の死体が敵に操られる点が厄介だろうか。
「ネクロウィザードが巨大カリギュラじゃなかったってのはお前の話で分かったがよ。だとしたら本体はどこだ? これだけ暴れて対抗手段が洗脳一つってのも考えにくくないか?」
「だな」
もし自分がネクロウィザードだったら、自分の巣に迷い込んだ敵は分断して各個撃破。そして戦力増強を図るだろう。
別にシエル、直哉と個別に洗脳を掛ける必要もないはずだ。
まとめて洗脳すれば……それで。
「そういや雑魚はどうなったんだ?」
直哉は今の戦況が気になって聞いてみた。
リベリオンブラスターで大体の数を消し飛ばしたはず。
もう全軍で戦う必要はないはずだ。
だが返ってきた答えは——
「残念ながら復活さ。直哉が吹き飛ばした雑魚共は、吹き飛ばす前よりも数が増えて、どこも激戦区だな」
「は、はぁ!?」
信じられない。リベリオンブラスターの効果はこの目で確かに確認した。
大地を吹き飛ばし、雑魚共を一掃したあの光景からして、どこから新たな雑魚が湧いてきたというのだろうか。
「文句を言いたいのは分かるが現実だ。敵は今も絶えず湧いて出て、仲間を倒しては戦力に加えている。状況は逼迫してるんだ」
「な、ならどうすれば」
「簡単だ」
砕華は言った。
「親玉をぶっ倒せば終いだ」
***
青い光が一つ。薄暗いホール内の空を駆けていた。
その光に虫のように群がるのはスケルトンとレイス、そして魔法少女の死体の大群。
光を取り込もうとしているのか、その大群はまるで一つの生命体のように、塊にも津波のようにも見える。
青い光はさらに小さな青い光を放って抗っていた。
その光はシエルだ。
リュグリットの放つカリギュラから逃げつつも、反撃の糸口を探している最中だ。
「反撃しようにも、数が多い」
ASという自立型射撃魔法を使ったとしても、結局は有限の魔法。
一つ撃てば一つ消えるこの魔法に対して、向こうのカリギュラは無限に湧いて出てくる。
遥か下方でシエルを見上げているリュグリットに攻撃を与えることができれば状況はひっくり返るかもしれないが、一人ではその余裕もない。
圧倒的な物量に混ざるように繰り出される魔法少女たちの射撃魔法と連携に、苦戦を強いられているからだ。
「でもやるしかない」
シエルはマガジンを交換しつつ、チャージ短縮型砲撃魔法を放つ。
人一人を飲み込める程度の光線が魔法少女たちを焼き払い、肉体を崩壊させていく。
だが、おかわりとばかりに代わりの死体が現れる。
「どうすればこの状況から——」
万事休す。そう思われた時。
「酒気全開。ふっとべや!」
白い煙が辺りに充満した。
その煙の中から巨大な拳が現れる。まるで惑星のような巨大な拳が敵をぶん殴っては瓦解させた。
「間に合ったな」
「シエル、助けに来たぞ」
現れたのは頼れる仲間の直哉と砕華だった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
もし面白いと思って頂けたら
評価とブックマークをして頂けると励みになります。
よろしくお願いします!




