第6話 襲来。鬼人 2
「まったく。店の中でふざけないように」
「はい……面目次第もございません……」
ショッピングモール内の警備室、警備のおっちゃんに怒られながらなんとか許してもらい解放された直哉はトボトボと部屋を出る。
だがこれで終わりなはずがない。
落ち込んで重い顔を上げると目の前にはアイリスと如月の2人が直哉を待っていたと言わんばかりにムッと立っていたのだから。
如月の友達はどうやらショッピング中なようだ。
離れてここにいるということは、直哉に用があって来たということだろう。
でもってアイリスと一緒に居るのは、恐らく身内だと如月に話したのかもしれない。
アイリスは如月について普通の生徒と認識しているはず。
だから如月から「あの変態は誰!」と聞かれたら「残念だけど身内です」的な会話があってもおかしくない。
変態が身内……そう言わせたと思うと直哉はさらに肩を落とす。
「直哉くん、どうしてこんな事をしたんだい。まさか女性用下着を期待なんて変態的願望があったっていうのかな……」
「そんな性癖はない。自分で着けたってなんも楽しかねぇよ……。どうせなら可愛い子に着てもらって脱がしたい——」
ボコッ! 直哉の頭に拳骨が振り下ろされた。
頭を抑えながら直哉は——
「すんません……」
と情けなく謝ることに……。
「まったく。彼女が警備員に誤解だって話してくれなかったら今頃君は警察署の中だったんだよ。ふざけるのも大概にしたまえ」
「はい……」
「まあまあ。高井さんそこまでにしましょう。いきなり私たちが絡んでしまったのも悪かったんですから」
絡んだ? 警備員から解放させるために嘘をついたって事だろうか。
直哉は大人しく如月のこの話に乗っかることにする。
なにせ如月がバチバチと下手くそなウィンク飛ばしてくるのだから。
「そ、そうなんだよ。ほら? この子可愛いだろ? だから俺張り切っちゃって——」
ゲシッ!! 今度は爪先を踵で思いっきり踏みつけられた。
(アイリス……なしてそない怒っとるんどすか?)
「君ってやつは! 今日は僕とのデ、デデ、デートだっていうのに他の女性に求愛行為をするだなんて——」
「きゅ、求愛!?」
如月が顔を熟れたトマトのように真っ赤にさせた。頭のてっぺんから湯気を放さんばかりに。
(なんでお前が驚くねん。俺はお前の嘘に乗っかったんだぞ? 察せよ。察してくれよ! これも嘘! 誰もお前を口説いちゃいねぇよ!)
っと直哉はカシャカシャと激しく素早いウィンクを如月に飛ばし続けること3秒ほど。
照れた如月が直哉の声なき必死の訴えに気づくとハッとして、
「そ、そうなんですよ〜。あはは。高井さんのお兄さんも変わってますね〜」
「変わってるよな〜。つい笑わせたくてパンツを着ちゃうんだもんな〜」
「「あはははは〜」」
2人で笑って誤魔化すが、アイリスの目は恐ろしく冷たいし鋭い。特に直哉に対して。
「まあいいや。如月さん今日はありがとうございます。僕の身内がご迷惑をおかけして」
「いいえいいんですよ」
「では僕たちはこれで——」
アイリスが直哉の手を引いてここから連れ出そうとしたが、
「待って下さい」
と如月は止めた。彼女的には昨日の話を聞きたいのだろう。だがそんな事情を知らないアイリスは——
「なにかな? さっきも言ったけど僕たちは今デートの途中なんだ。如何に先輩であろうと邪魔は許しませんよ」
恐ろしく鋭い目つきで如月に目を向ける。
近寄らば……斬る。
と言わんばかりの殺気に似た何かに直哉はブルリと震え上がる。
(こ、こえぇ〜。アイリス。学校の先輩になんて目を向けるんだよ。え? もしかして友達にもそんな態度取ってないよな? 嫌われてないよな? 俺、なんだか不安になってきちゃったよ?)
だが、そんなアイリスに如月は一歩も引かず——
「時間は取らせません。少しお兄さんに話があるだけなんで」
「ふぅん……それは僕が聞いても大丈夫なやつかな?」
アイリスと如月。両者の視線が交差する。
間に挟まれた直哉は『これが修羅場ってやつですかい……おっかねぇ……』と2人を目で追っていた。
「いえ……できれば席を外して欲しいかなと……」
「なら断るよ。僕は浮気を絶対に許さないんだ。例え身内であってもね。今は僕との時間を過ごしてるんだ。直哉くんに用があるなら事前にアポイントメントを取っておくようにしてください。では失敬」
なんて逞しいのだろうか。
アイリスは先輩であり学内でも有名人の如月に毅然とそう言い放って直哉をこの場から連れ出した。
直哉は引きづられながら振り返った。目に映る如月は直哉の方をじっと見ていた。
なんとなくだが直哉はこのまま何事もなく終わる気がしなかった。
当然だ漫画とかでよくある。こういう展開の時は大抵後で接触してくる、面倒な方向で……だ。
***
そんなことがあって、アイリスの機嫌は最悪だった。
まあ嘘とはいえアイリスをほっぽって他の女の子に声を掛けたって事になってるんだから。
直哉だってそんな不誠実な事はしたくないし許せない。
でも流れでこうなったんだから仕方ない、と心の内言い訳してみるが、そんな声なき謝罪でアイリスの機嫌は治るはずがない。
そんな不機嫌アイリスが先を歩くショッピングモール。
その後ろでビクビクしながら直哉はついて歩く。まるで親から説教を食らった後の子供だ。
「な、なぁアイリス?」
「浮気者に聞く口はないよ。ふん」
取りつく島もないってこういう事を言うんだなと直哉は人生で初めて経験した。
「ごめんって」
「何に対してかな? 君のなんの行いで、何を思って、どう言った結論を出して謝罪しているのか分からないな」
(め、めんどくさい……。なまじ頭が良いから言葉の鋭さが死神の鎌の如し、それに天才Dr.らしい理詰め的な発言に俺、参っちゃうよ)
「さっきの如月ちゃんに声を掛けて迷惑をかけた事にだよ」
「ふぅん」
拒絶されない辺り、話して良いってことだろうか。
そう考えた直哉は正直な気持ちで話し始める。
「本当にごめんな。今日お前がすっごく楽しみにしてくれてたってのにさ、他の女の子に声かけちゃって……」
「ほんとだよ、どれだけ楽しみにしてたか、君は分かっているのかな」
ぷいっと頬を膨らませて直哉から顔を逸らすアイリス。
(そうだよなぁ。何ヶ月かぶりの外出だもんな。それに服の買い物なんて滅多にしないからかなり楽しみにしてただろうし、お前ももう年頃の女の子だもんな)
「ごめん……」
何度目の謝罪だろうか……直哉はまた告げる。
アイリスはなんだか寂しげに——
「君は僕とのデートを楽しみにしてくれてなかったのかな……」
そう呟いた。
「そんなことはないって。俺だってお前と外出できる事は楽しみだったって」
直哉は即答する。
なにせ異世界で苦楽を共にして命を預けあった仲なのだ。そんなアイリスと、この日本で平和に日常を送れるなんて楽しみって言葉じゃ表現できないほどだ。
そんな直哉の素直な気持ちを伝えられたアイリスはほんの少し……直哉にも気づけるかどうかと言う程の小さな笑顔で——
「ふ、ふぅん……。そうかい——そうなんだ。君も……僕とのデートを……ぶつぶつ」
なにやらモゴモゴと呟くアイリス。
そんな彼女はニコッと直哉に振り返って、
「なら許してあげようじゃないか! その代わり、今から一つ僕の言う事を聞いてもらうよ」
「な、なんなりと!」
どうやらお許しは貰えたらしい。
できる事ならなんだってすると、お前の為ならと直哉は頷いた。
「今後一生他の女性と口を聞くのをやめるこ——」
「ごめんそりゃ無理だ」
「なんでかなぁぁーーー!!!」
それはそうだろう。普通に生きてて女性と口を聞けないなんて縛りがキツすぎるのだから。
(まったく、こいつは一体俺をどうしたいのかね)
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