第5話 襲来。鬼人 1
どうやら今は期末試験期間中ってことでアイリスの学校は午前で終わるみたいだった。
アイリスにとって学校のテストなんて物はゲームしながらでも簡単にこなせるらしく、普通の学生なら阿鼻叫喚してる期間のところを、こうして直哉と外出できるだけの余裕があるというわけだ。
そんな天才美少女マッドサイエンティストのアイリスはいつ買ったのか夏物のワンピース姿で直哉を街の繁華街へと連れ出したわけだが。
そんな直哉は今、分水嶺に立たされている。
繁華街にある大型ショッピングモールの一画にある服屋でだ。両手に服を持ったアイリスが悩ましそうに直哉に聞いてくる。
「直哉くん? どっちが良いかな?」
問1。アイリスが持つ右の水色の服と左の黒の服。どちらも夏用だが、どっちが良いでしょうか。
かなり迷う。
水色の服は白髪のアイリスと相性ばっちしではある。
だが黒の服も捨てがたい。
子供っぽいアイリスが着るとなると一気に大人な雰囲気になるだろう。
「むむむ」
「そ、そんなに悩まなくても……」
「悩むさ! 可愛い俺の子の為だ! そうこれは最終決戦前のあの日に負けず劣らずの重大さだ!」
「誰が俺の子かなっ!?」
クルーエルとの決戦前の仲間たちと夜通し未来について語り合った決意の日にこの感覚は似ている。
つまりこれはただの服選びなんかではない。
アイリスがこの先どう言った女性に成長するかという大事な転換期な訳であるからして――
「大袈裟過ぎるよ……直哉くん」
っと服を両方元の場所に直そうとするアイリス。
(待て! 待て待て!)
「待てい!」
ガシッとアイリスの手を掴んで直すのを止める。
「ひゃ!?」と珍しく女の子っぽい声を出したアイリスの顔は真っ赤だった。いきなり触って怒ったのかもしれない。年頃の女の子はデリケートだとテレビでも言っていた。
直哉はすぐにアイリスの手を離して――
「ご、ごめん! 痛かったか?」
「あ……い、いや痛くはないよ。ただ……その、いきなりで……驚いただけさ」
(なんだ、嫌で声を出したわけじゃなかったのか)
っと安心して息を吐く。そしてアイリスが直そうとした服を二つとも取ってアイリスに渡した。
「選べないなら二つ買っちまおうぜ」
「え、良いのかい? でもお金が――」
「俺が働いてるのはお前のためだ。お前が欲しいならなんでも買ってやるって昨日言ったろ?」
男に二言はないのだ。それがたとえオス型のロボットだとしても。
「ほれ、他にも欲しいものがあったらじゃんじゃん持ってこい! どうせ時間はまだまだあるんだ。なんだったらこの店の服全部買い尽くしたっていいぞ〜!」
「はは。何を馬鹿言ってるんだい。そんなにお金ないだろ〜」
と言ってアイリスは笑って店の奥へ駆け出した。
「じゃあ他にも見てくるよ! 時間はあるんだろ? だったらこの店で一番可愛い着こなしができる組み合わせを発明しようじゃないか! 直哉くんファッションショーだ付き合いたまえ〜」
「いいぞ〜」
っとアイリスを見送る。
なんて無邪気な奴だろうか。まあ健全で喜ばしいのだが。
だがアイリスお年頃だ。服ばかりで下着を買わないというのはどうもいかんと思う。
ここは男が喜ぶ下着というものを教えてやるべきじゃないだろうか……。いやそうするべきだろう。
ってなわけで直哉は服のコーナーから女性用下着コーナーへ。
男1人このコーナーに立って思う。
あぁ恥ずかしいな。変態だって思われないかなっと。
でもそれは人間だったらの話だ。
(今の俺はロボット! 無機物! つまり羞恥心ってものがないのだ!)
だからこうして熱心に下着を物色していても、周りに白い目を向けられても、定員が警備に連絡を取っていても気にせずにいられるってわけだ。
(って定員さん!? 通報だけはマジでやめてね?)
白のストライプおぱんつ。それとも大人らしくこのアダルティーなおぱんてぃーの方が良いだろうか、と悩んでいると――
「でさ〜。今日のテストマジでヤバいかもなんだよね」
「え〜。まじ? 確かに今回の山先のテストいやらしかったよね〜。如月さんはどうだった?」
「私は、まあそれほどかな」
如月? という名前にバッと店の入り口に顔を向けるとそこにはアイリスと同じ学校の制服に身を包んだ女子たちがこちらに歩いてくるのが見えた。
その中にはまさかまさかの昨日の夜に遭遇した如月までいる。
(ま、まずい。まずいぞ!? 昨日俺を魔物と勘違いして殺しにきたような子なんだ。こんな所で見つかったら何されるか分かったもんじゃない!)
それに今はアイリスと外出中だ。
彼女は今日をかなり楽しみにしていた。
こんなことで台無しにされたら、たまったもんじゃない。
だが神は残酷。如月達はあろうことか直哉のいる下着コーナーへまっすぐ向かってくる。
「いや〜。最近彼氏ができてさ。この際勝負下着ってやつを買おうかなって」
(くそぉ!!! 若いんだから彼氏なんて作るんじゃありません! 大体勝負下着なんてものはまだ早い年頃でしょうが!)
どうする。どうしよう。どうしたらいい?
後は女性客が通路を塞いでる。前からは如月達が迫る。
そして手には女性用の下着……。
ここで取るべき行動は……答えは……アンサーは。
そうして直哉が弾き出した完璧でパーフェクトな答えはこれだった。
ビョーン。
スポッ!
頭に一着のぱんつを被り。
もう一つのぱんつをアーチェリー選手の胸当てのように身につけた。
(これならどこからどう見てもランジェリーショップのアマゾネスだ。ついでにハンガーをとって……ほら弓みたいだ!)
「へ、へんたい……」
「ち、違うんです! 私はこのランジェリー森林を古くから守護する妖精アマゾネス!」
通報しようと内線用受話器に手を伸ばした店員に名乗るが――
「たいへん! 大変いかがわしい変態が、変な姿で危ないんです! すぐに来てください!!」
「ちょっ! ちょっと店員さーん!?」
無理だった。
慌てて直哉は定員の方へ急いで駆け出した。
(このままじゃ警察のお世話になってしまう! それだけはまずい! なぜだどうしてこうなった!? 俺の判断に狂いはなかったはずなのにどうして!)
「変態。悪、即、斬!!」
ドカッと後頭部にマネキンの頭がぶつけられた。そして盛大に転がる。
見上げると、そこには避けるべきだった相手如月の姿が。
「あ、あなたは……」
(しまったぁぁー。今の衝撃でおぱんつが頭から取れてるぉぉー!?)
「直哉く〜んって……これは」
修羅場だった。まさかのアイリスのご帰還。
問2。目の前に自分を殺そうとした女の子がいます。そして遠くには身内のアイリスが。
そして今の直哉は女性用下着を頭と胸に装備したランジェリーアマゾネスです。この後どうなるでしょうか?
「答えはまた次回!」
「「「「黙れこのへんたぁぁぁーーい!!」」」」
ドゴォォォン!!!
(ですよねぇぇぇーーー!!?)
それはそれは盛大に蹴られた。プロサッカー選手のように、この場にいる全員に全力で。
直哉の答えは次回まで待ってくれなかったみたいだった。
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