第24話 突入開始
ネクロウィザードの支配するホールの中へ輸送機で乗り込んだ直哉の手足には、アイリスとクリシュから貰った新たな装備が装着されていた。
使い方は簡単で、5年前、直哉が無意識で行っていた飛行を限定的に使えるようになった、といったところだろうか。
だったら元から自分の体に不幸機能をつけていればいいだけと思ったのだが、話はそう簡単ではないらしく、またそれを説明されるだけの時間もなかった。
とまあ、そんな便利な装備を眺めていると、窓の外を見ていた一人の魔物が声を上げた。
「外見てください! 魔法使いたちが!」
言われるままに直哉たちは小さな窓に顔を近づけ、外に目をやる。
どんよりとした空は雲のようなもので覆われていて、日の光がないこの世界は暗く、先がよく見えないが、魔法少女たちが隊列を組んで色とりどりのマナ光で軌道を描きながら先を飛び去っていくのが見えた。
陸地はあるようだが、ブリーフィングで聞かされた話の中には、大地と思っていた場所がネクロウィザードの体だったというものもある。
あそこにある大地はそうじゃないと信じたい。
なにせこれが体であったのなら、ネクロウィザードの体は巨大なんて言葉では言い表せないほど大きなものになる。
(想像もしたくねぇよ。そんなバケモン)
だがこの世界は、直哉たち人類の想像をはるかに超えた存在で蔓延っている。
委員会はそんな化け物と対峙する仕事を請け負っているのだから、これからもどんどんそんな化け物と出会うのだろうと考えると、重いため息が自然と吐き出された。
『コンタクト! 突入部隊チューリップが交戦開始。敵は事前の情報通りスケルトンとレイスの混成部隊。その数5000!』
無線機から仲間の声が入ってくる。
チューリップ。花に関する部隊は全てグリデンガルド魔装軍のものだ。
ちなみに直哉たち魔物の部隊名は魔王、獺祭、山田錦に澪。
どれも酒にちなんだ名前ばかりだ。
『よーし聞いたなお前ら。魔装軍の奴らが真っ先におっぱじめたが、数が数だ』
砕華の声が無線越しに響く。
『暇な時間なんて絶対ねぇから安心しな。それに雑魚は大した問題じゃねぇ。問題なのは魔装軍の死体連中だ』
そう、問題はその死体連中だ。
スケルトンは骨の体の都合上、魔物の怪力で簡単に砕けるし、レイスに至っては魔物の魔法で簡単に吹き飛ばせるレベル。
ただし魔装軍の死体。つまり、かつて生きていた魔法少女たちの死体は別だ。
彼女たちは生前のように射撃魔法も使えば、統率の取れた編隊飛行も行ってくる。
魔物たちにとってはこちらの方が脅威なのだ。
『まあ模擬戦と合同訓練を何回もやってきたお前たちだ。そう簡単にくたばるようなことはないだろうけどな』
がっはっはと笑う砕華だが、確かにこれまで委員会戦闘部門の魔物たちは何日もシエルたち魔法少女と戦い、訓練を重ね、連携攻撃の対策や弱点を学んできた。
自国の秘密戦略のはずなのにもかかわらず、シエルがレクチャーしてくれたのは本当にありがたい話だ。
もちろん直哉もそのレクチャーを受けてはいるが——
(俺の目的はネクロウィザードの討伐。雑魚はみんなに任せるしかない)
『通信!』
また魔物の通信が入ってくる。先ほどと違い、少し動揺が混ざったような声音。
『チューリップ全滅! 続くリリー、ダンデライオンが交戦開始。いずれも苦戦を強いられている模様! 直ちに委員会部隊も作戦開始せよと如月司令より通達あり!』
「まじかよ。チューリップつったらシエル執行官の次に強ぇ部隊じゃなかったか?」
「ああ、それがたったの数分で全滅って……こりゃどうなってやがる」
周りの魔物たちも動揺し始めた。
なにせ合同訓練した仲だ。彼女たちの実力を知っている者も少なくはないのだろう。
だが、そんな情報で暗くなる彼らではないようで。
「敵討ちと行きますかね!」
「んだな! ってかここで食い止めねぇと後がしんどいしな」
「おいパイロット、ハッチを開きな! 俺たちも出るぜ」
気合十分といった面持ちで皆がハッチの傍に立った。
直哉だってこんなことで怯えたりなんかしない。
そんな人間らしい感情はリーデリッヒに転移した時に置いてきた。
今の自分は兵器だ。皆を守るために作り替えられた存在だと自らを鼓舞する。
『よーし少し早いが、お前ら作戦開始だ! 幸運を祈るぜ!』
砕華の通信と同時に輸送機のハッチが開く。
魔物の一人が詠唱し、眼下にフィールドが形成される。
横にずらりと並ぶように飛んでいる輸送機も同じなのか、全ての機体の下にフィールドが形成され、見る見るうちに広い足場が広がった。
これで飛べない魔物であっても問題なく空を駆け抜けることができる。
魔物たちは準備ができたと意気揚々に降り立つ。
直哉もそれに続き飛び降りながら、無線のチャンネルを弄る。
「あー。あー。シエル聞こえるか!」
『はい、聞こえてますよ高井さん』
どうやらまだ彼女は戦闘に加わっていないようで、通信の向こう側は静かなものだった。
まあネクロウィザードと戦うのだから、体力とマナを温存しているのだろうが。
「通信は聞いたか? 俺たち少し早いけどもう出たぞ!」
『はい、大丈夫です。今、私も出撃しましたので』
そう聞いた瞬間、直哉の隣を駆け抜ける蒼い一筋の光。
それは直哉を通り過ぎて、横に弧を描くようにターンしては帰ってくる。
その光が目の前で止まったかと思えば——
「お待たせしました」
シエルだった。白い魔導装甲に身を包み、杖を握った彼女は既に臨戦態勢に入っている。
「いや全然。で、目標は?」
「まだ確認できていません。おそらく以前と同様に、私たちが懐に入るその時を待っているのかも」
「けっ。バケモンの癖にせこい真似するな」
「化け物だからでしょう。奴には知能もあるようですし……決して油断ならない相手であることは違いありません」
「んじゃ、まずはどうする? 捜索か?」
「いえ、現在いくつかの部隊が壊滅的被害を受けています。なので敢えて向こうの狙いに乗ってみようかと」
「っていうと?」
シエルは、にこっと微笑み。
「遊撃です。味方の援護に向かい、全部隊を前に進軍させて本体を誘き出しましょう」
話は簡単だった。それにこの新装備の試運転もしたいと思っていた直哉からすれば、ちょうど良い話だ。
周りを見れば魔物たちが有り余る力でスケルトンの骨を砕き、レイスを吹き飛ばし、一気呵成の突撃を敢行している。
まるで山賊かヴァイキングのようだ。
「すさまじいですね彼らは……」
「さすが馬鹿体力の魔物様だな」
きっとあの混戦の中に砕華もいるのだろう。
だが今回は彼女と直接の共闘はない。
まあ死ぬことはないだろう。まるでチートのような魔法を使う彼女なのだから。
「んじゃ、行きますかね」
「はい。まずはダンデライオンの援護に向かいましょう。手を——」
「いらねぇよ」
差し出された手を拒否した直哉は足に力を入れる。すると、ふわりと体が空に浮き上がった。
「高井さん! 空を——」
「ああ。アイリスとクリシュがな、俺のために作ってくれた新装備だ。言っとくけど模擬戦の時よりも強くなってると思うから期待しててくれよな」
「そうですか。では期待しておきますね」
そしてシエルと直哉の二人は、魔物たちが戦う戦場よりもさらに前線へと飛び去った。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
もし面白いと思って頂けたら
評価とブックマークをして頂けると励みになります。
よろしくお願いします!




