第18話 ワクワクドキドキの実験だよ
「おつかれっしたーー!」
「お疲れ様でした〜」
模擬戦も終わり直哉達は気持ちいい汗を流した。
結果は百鬼夜行部隊の敗北。
魔物達も直哉も一時は逆転し勝利するかと思いきや、魔法少女達も負けじと底力を見せ、劣勢を立て直し見事に勝利を収めた。
(まさかあの一撃を受けてシエルが立て直すなんてなぁ……)
直哉の一撃を受けたシエルは上空へ吹き飛ばされたのだが、それがいけなかった。
魔法少女は遠距離攻撃と機動力が主体の戦闘スタイルを取る。
つまり直哉の一撃はシエルにとって距離を取ってくれる手段の一つに過ぎなかったわけだ。
それを分かっていて恐らくわざと攻撃を受けた。
流石異世界の英雄だけあって一瞬の判断が速くて正確……。完全に負けた。
部隊達も地上戦に持ち込めはしたのだが、いかんせんチームワークというより個人技の押し付けだったのが敗北の要因と言えるだろう。
結局のところ魔法少女達は味方と連携して集団戦術で魔物を各個撃破していったのだから。
「おーい直哉〜、お疲れのところ悪いんだがよ〜、さっきアイリスから連絡があってな? 本部の西側にある研究棟まで来て欲しいんだとさ」
「ん? おっけー」
汗を拭いつつ魔物達と談笑している直哉に、砕華がそれだけ告げてシエルの元へ戻っていく。
(にしても研究棟か……)
委員会の研究棟には一度だけ足を運んだことがある。
そこはアイリスの管轄する部署で、ホール内ME『エーテル』を利用した武具開発に新魔法開発に励んでいる場所だ。
因みにだが直哉の体のメンテナンスもこの研究棟で行われている。というか設備的にもこの場所でしか出来ない。
そんなわけで直哉は自分の体の調整かな? とぼんやり考えつつ研究棟へ足を運ぶことになった。
***
研究棟の外観は白銀のドームであり、厳かなものだ。
だが自動扉を潜れば真っ先に出迎えてくれる犬と猫のマスコットキャラ(アイリス作アニマルアンドロイド)が「ようこそいらっしゃいませだワン(にゃん)」と出迎えてくれるあたり、何処ぞのテーマパークの如くだ。
「アイリスに呼ばれたんだけど……今何処にいるか分かる?」
「アイリス主任ですかワン? でしたら……」
ピロピロピロと犬型アンドロイドの中から音が鳴る。どうやら検索中の様だが、こうして見るとかなり性能の良いアンドロイドだと思えた。
「検索完了。主任は今2階第6実験場にいるワン」
「ありがとよ」
礼を告げて直哉は目的の場所へ。
二体のアンドロイドは入り口から入ってきた人に駆け寄り、直哉に聞いた時と同じ様に目的を聞いている。
っとまあ、このアンドロイドはどうやら受付兼案内役として運用されてるらしい。
そして犬猫アンドロイド以外にも研究棟を行き交うのは、直哉の腰までの高さをしたウサギ型アンドロイドだ。
ここにいるほとんどがこのウサギ型なようで、いそいそと動いている光景はまるで不思議のアリスの世界のようだ。
(こいつもアイリスの趣味で作ったんだろうなぁ)
そう考えると自分の体がファンシーな動物の姿じゃなくて良かったと心底安心してしまう。
そんなことを考えつつ2階第6実験場に入ると、そこにはちゃんと人間がいた。
まあ当然だが一人はアイリスだ。もう一人は直哉には見覚えのない人物で、アイリスより幼い少女だ。二人して何か資料を覗き合っている。
「おーいアイリス来てやったぞ〜」
「ん? やあやあ直哉くん。待っていたよ〜」
会話を中断してアイリスが直哉に駆け寄る。
「で、俺はなんで呼ばれたんだ?」
「ちょっと。せっかく来てくれたってのにもう本題かい? 少しぐらい無駄話に花を咲かせてもいいと思うのだけど?」
「疲れてんだよ……。くそ強魔法少女達にボコられたばっかりだからな」
疲労はピークである。ヒューマノイドなのに何を言ってるのやら……と考えてしまうが、火照った体とこの疲労感は決して嘘ではない。
「ふむ……ならその疲れ今取り除こうか?」
「いやいいよ。ようやく人間らしい生き方が出来るようになったんだ。この疲労も大事にしたい」
「そか。なら手早く終わらせるとしよう。クリシュくん」
「はい」
呼ばれたのはさっきアイリスと話し込んでいた少女だ。
桃色の長い髪を三つ編みで一つに束ねたメガネの少女は、どこかドジっ子を連想させる。
「紹介するね。彼女はクリシュ・ガルナルド。グリデンガルドの魔装開発顧問さ」
「魔装開発顧問……ってことは……」
「はい。ご想像の通り魔装軍の兵装開発担当ですよ、高井直哉さん」
ニコリと答えられた。
「なるほど……で、そんな人がなんでここに」
「ふっふーん。それはね……次の作戦に向けて新たな兵器の開発に共に取り組んでいるからさ!」
ドヤさ! と胸を張るアイリス。
(なるほど、新しい兵器ですか……。兵器……?)
その言葉を聞いて直哉はなぜか嫌な予感が湧いてきた。
「そ、その兵器ってなんなんですかい?」
一応、念の為にも聞いておこうと直哉はアイリスに聞いてみた。この嫌な予感はもしかしたら自分が実験に使われるのかもしれないと考えたからだ。
疲れた体に兵器の実験は堪えるどころではない。
下手したら死ぬ。…………。
(いや、アイリスの事だから俺が死んだとしても修理して復活させるだろうなぁ)
「うむ。良いことを聞いてくれたね。新しい兵器とは……これの事だよ」
「これ?」
渡されたのはさっき二人が覗き合っていた資料だ。
そこにはブーツとグローブの図が描かれていた。
「これはね君の装備さ」
「俺の装備!」
これは嬉しい。今まで直哉は素手で、まともな装備すら無い状態で戦ってばかりの人生だった。
それがここにきて、ようやく装備を手に出来るという事実に胸が高鳴った。
「ふふーん。嬉しいかい!」
「おうよ! 当たり前じゃないか。だって装備だぞ? しかも俺専用って事だろ?」
「まあね」
これでテンションが上がらない方がおかしいだろう。
男はいつだって自分専用という言葉に憧れを持っている生き物だ。
赤い彗星しかり連邦軍のモビルスーツ然りだ。
「その実験とは試作段階の装備を使用して欲しいのです」
クリシュが持ち出したのは資料に書かれていたブーツとグローブだった。とは言え少しだけ形が違うのはまだ試作段階だからだろうか。
直哉はそれを受け取りアイリスに説明されるまま装着していく。
「これは新MEエーテルを使用したグリデンガルド魔装軍の技術と——」
「リーデリッヒ、そして地獄の魔法技術を組み合わせて出来た代物さ」
「おぉ……3つの世界の技術がここに……」
なんてロマンに溢れる装備だろうか。直哉の中から不安は消え失せ、男心が沸々と湧き上がり装備を眺めるばかりだ。
「取り敢えず訓練用ボット相手に直哉くん自身が戦って欲しいんだ」
「そんな事ならお安いご用——」
「だけど気を付けてください」
クリシュは真剣な面持ちで告げる。
「3世界の技術の融合装備なんて初めてのこと……。もしかしたら不具合が起こる可能性もありますので」
「たとえば?」
ウキウキ。ワクワク。いつでもばっちこいと童のように瞳を輝かせる直哉は——
「まあ爆発、もしくは——」
「装備した体が吹っ飛んじゃうかもだね♩」
「そっかー吹っ飛んじゃう——っておぉい!!!」
急いで装備を外して地面に叩きつけた。
「な、何をするんだい!!」
「どうもこうもないだろ!! 体が吹っ飛ぶ? 爆発? ねえお前言ったよね? 今の俺の体は痛みを感じるようになってるって!」
「言ったさ。でもそれはあくまで感じるだけで本物の痛みじゃないよ」
「馬鹿なの? お前馬鹿なの!? 感じる時点で辛いの! しかも今の俺は疲れてるって言ったろ! 疲れた体を癒すどころか鞭打ちで扱くの!? 鬼畜かお前!」
「馬鹿言わないでくれたまえ! 実験にはリスクがつきもの……。それにこれは世界の命運が掛かった作戦に必要な装備でもあるんだ。名誉だろうに!」
馬鹿と天才は紙一重とは良く言ったものだ。
直哉からすれば馬鹿らしい発想だが、天才故にリスクを負ってでも完成させるべきと考えているわけだ。
(そういえばこいつはマッドサイエンティストだった……。長い間なりを潜めてたから忘れてたけどさぁ……)
「大丈夫! もし体が吹っ飛んでも直してあげるよ! それともなんだい? やっぱり痛みを感じない体にするべきかな? それとも痛みを気持ちよくする——」
「あー! あー! あー! 誰がそんなマゾみたいな機能にしろっつったよ!」
痛みを快感に変える機能? たまったもんじゃない。
そんなの実装された暁には戦場で一人攻撃を浴び続けるたび喘ぎ声を上げてしまう変態に成り下がること間違いない。
そんなのは御免だと直哉は断固として却下する。
「やっぱり嫌ですよね……。アイリス主任。やはりここは当初の予定通り私が——」
「待て待て。クリシュさん。予定通り私って……まさか」
直哉はアイリスに顔を向けた。
すると『うむ』と頷かれ——
「今の状態を確認しなきゃ実用化は叶わない。だから彼女は実験役を買って出たのだがね? 流石に生身の人間には荷が重いだろうと思って——」
「俺を呼んだわけですか……」
「そういうことだね」
「直哉さんが嫌だというのなら仕方ありません。主任、やはり私が——」
「待て待て! 待って!」
クリシュはキョトンとした顔を直哉に向ける。
確かに体が吹っ飛ぶのは嫌だ。だけど代わりにこの少女の体が吹っ飛ばされるのを見たいわけでもない。
「誰かがやらなきゃいけないんだよな……」
「うむ」
「………………はぁ」
非常に嫌だが、仕方ないと直哉はガシガシと頭を掻いて——
「わーったよ。やるよ実験」
「本当かい!」
「ああ。その代わり、ちゃんと仕上げてくれよ」
「勿論だとも!」
嫌々ながら直哉は再び装備を身につけ始める。
そんな直哉にクリシュが申し訳なさそうに——
「すみません」
「なにが?」
「実験を代わってもらって……」
「何言ってんだよ。俺はヒューマノイドだぜ? ここにいるって事は知ってるだろ? だったら確かにアイリスの言う通り俺の出番じゃないか」
「でも痛いのは嫌だって——」
「そりゃそうだろ。誰だって痛いのは嫌だろ」
「なら——」
「でも、これは俺の装備になるんだろ?」
クリシュはこくりと頷く。
装備を身につけた直哉は手をぐっぱと開いて閉じ、ブーツの強度を確かめるようにその場でジャンプしながら続けた。
「そんな俺の装備のためにあんたが傷つくのは我慢ならないんだよ。嫌だけどな」
「直哉さん……」
装備はしっかり装着出来たようで——
「よし、アイリス」
「うむ、なら始めようか」
直哉は実験場に置かれたドラム缶型のボットと向き合う。使い方は簡単。
五年前のように意識するだけで体は宙に浮かび、グローブは衝撃力を増加させるらしい。
ボットが起動する。
実験開始だ。
勿論初めに試すのは飛行。
直哉は空を飛ぶと意識してジャンプする。
(順調だな。この調子なら——)
だが異変は起こった。
プスプスと嫌な音が直哉の足元から聞こえたのだ。
「あっ……なんか嫌な予感が……」
足を見るとブーツから焦げ臭い匂いと共に煙が噴き出ている。
それはすぐさま熱を発し始め——
「ちょ、フラグ回収が早——」
ドカアァァァァン!!!
「うぎゃああああああーーーー!!!!」
打ち上げ花火のように直哉の体は実験場の天井付近まで吹っ飛ぶのであった。
夏といえば花火。季節的にはピッタリだが、このように手足が吹っ飛ぶ花火など御免だと思うと同時に、自分が引き受けて良かったと安堵するのだった。
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