第17話 魔物達の意地、魔法少女の戦術
魔法少女との模擬戦は魔物達側にとって不利を強いられていた。なにせ向こうは自由に飛行できるだけでなく、速度も魔物の倍以上高い。
単純に機動力で劣る魔物達が、空から奇襲を仕掛ける魔法少女達に武器を振り回し、空振りして苛立ちを見せ始めていた。
「当たらない! これじゃ叩きにすらなんないでさぁ」
「だったら私らも空に上がればいいだけでしょうが!」
ナズナが魔力で練り上げたフィールドを空に展開する。
これで自分たちも空中で戦える。そう思った魔物達は一斉に飛び上がるが——
「ナナリ、リリレッタ。合わせなさい」
「「はい、リーン副隊長」」
3人の魔法少女が杖を構える。その先端からチャージされた光が光線となって、ナズナの展開したフィールドに降り注ぐ。
砲撃魔法。3人の力で放たれた砲撃はフィールドを砕き、空に上がろうとした魔物達のバランスを一斉に崩すことになった。
「くっ!」
「あなた方の空中戦は穴だらけです。このようにフィールドそのものを破壊してしまえばいいだけなのですから」
赤髪の魔法少女、リーンがナズナに迫る。
(フィールドを展開できる魔物は、そこまで多くはないはず)
それは先のゲルルンギラスとの戦闘で目にした時に考えた考察。
その時は魔力が無限に近い砕華が展開していたが、思えば他の隊員が展開する様子はなかった。
何故か。
(おそらくあの魔法は魔力の消費が多い。しかも常時展開が必要な魔法だから、魔力をずっと消費し続けないといけないはず。だとすれば今展開した彼女は、この部隊で砕華さんに次ぐ魔力量を持っている)
だからリーンは迷うことなく彼女に迫った。
ナズナは百鬼夜行部隊の中でも、砕華に次ぐ二番目の魔力量を保持している魔物のはず。
本来は後方で援護を主にするはずだと、リーンは考えてしまった。
「掛かったよ! やって、剛力!」
「あいよ!」
「なっ!?」
だがナズナが目立つようにフィールドを展開したのは、敵を誘い込むためだった。
敵は空を飛び回り、空中から攻撃を仕掛ける、まるで海鳥のような戦闘スタイルを取る。
百鬼夜行部隊としては、そのような状況で攻勢に出ることは叶わない。
であれば、リスクを負ってでも相手を近くへ誘い出す必要があるとナズナは考えたのだ。
圧倒的有利な状況に持ち込ませ、隙を見せ、魔力量が多いところを見せれば——誰だって一番初めにナズナを倒しにくるのは目に見えていた。
そして見事ナズナの罠にかかったリーンの目の前に、剛力が立ち塞がる。
(空を自在に飛べない彼が——どうして——)
リーンは剛力が空を飛べずにヤキモキしていたのを先程目にしている。それなのになぜ今、目の前に躍り出てきたのか——
まさかと思いナズナに目をやると……笑っていた。不敵に、悪戯っぽく。ナズナが笑っていたのだ。
「まさか……」
「黙っててごめんね。私の魔法は『転移』なんだよ。本来の呼び方は『神隠し』っつうんだけどね」
古来より日本で人間が行方不明になる珍事件が多発していた裏には、ナズナ達と同種の『山姥』が関わっていた。
人を攫い、物資をあの手この手で奪い取り、長い歴史の中、地獄と日本を生き抜いてきたのだ。
その魔法がまさかこんな風に使えるとナズナが知ったのは、ここ最近になってからなのだが。
元より山姥は魔力量が多い種族だ。
同じように魔力の消費が多い『神隠し』であっても、フィールドを展開すると同時に扱ったとしても尽きることはない。
だからこそフィールドを餌にリーンを誘い込むことができたわけだ。
剛力の巨腕がリーンを捉える。
咄嗟に杖を前に出して防御体勢をとったリーンだが、杖ごと殴り飛ばされ、地上に叩きつけられる。
「ぐっうう!」
まさに剛力。名前の通りの圧倒的暴力に、リーンは地面を滑るように削り取っていく。
「副隊長!」
「私に構わないで! 次が来ますよ!」
リーンは叫ぶ。
自分の身を案じた部下達が目を逸らしたその瞬間に、魔物達が迫っていたのだから。
彼女達も防御魔法を展開して直撃は免れるも、全員が地面に叩きつけられてしまった。
(百鬼夜行の目的は直接攻撃ではない。そうか、私たちを空から地上に落とすのが目的!)
先んじて立ち上がるリーンに、剛力が追撃を仕掛けた。
いつの間にか腕が四本になった剛力の嵐のような乱打を、リーンは杖を武術のように扱い捌いていく。
「オラオラ!! 地面に落とせばもうこっちのもんでさぁ!!」
「ちっ」
悔しいが言い返せない。
魔法少女達の体はみな10代の少女の体だ。
それはマナ量を全盛の状態のまま保つために、グリデンガルドの研究機関が発明した成長停止剤の効果だ。
故に彼女達は無限とも言えるマナを使用し、空を舞って攻撃魔法を仕掛ける。
だが——
一度地上に落ちれば、多少の近接戦を身につけた彼女達であっても、大人の体、人間以上の身体能力を持った魔物達の攻撃を受け切ることは困難を極める。
なにせ肉体の力は子供となんら変わりやしないのだから。
「少し甘く見てました。謝罪します」
「謝ったってこの手を止めやしねぇでさぁ!」
剛力は拳を振るい続ける。
彼が求めるのは完全勝利のみ。
それは魔物達、地獄の世界での常識である。
喧嘩に勝ち、己の力を証明する。
力がある者が弱き者を率いることが許される世界なのだ。
暴力こそ栄光。暴力こそ絶対。それが地獄の住民の信条。
模擬戦開始から20分。状況は一転した。
魔法少女達の猛攻から、今は魔物達が見事に逆転してみせたのだった。
***
そんな光景を他所に、直哉は空の上でシエルの射撃魔法に苦戦を強いられていた。
青い球体のような射撃魔法は一切止むことなく、体を打ち付けては爆発する。
「いつまで続くんだ、この攻撃——」
「貴方が倒れるまでですよ、高井さん」
シエルが杖に弾倉を再装填する。再び射撃魔法の——ASが彼女の背後にいくつも展開される。
直哉はそれが天使の光輪のように見えた。
だがそう見えるだけで、実際にぶつけてくる光景はガトリング砲のような射撃である。
腕をクロスさせて防御できるのは、きっとアイリスが調整してくれたこの体だからだろう。
もしくはシエルが手加減をしてくれてるからなのかもしれないが……。
それにしてもこの戦いは勝ち目がなさすぎる。
向こうは魔法少女の中でも最強の一人。
対して直哉は力の衰えた兵器であり、空を飛ぶのも精一杯な状況で、しかも攻撃手段は格闘のみだ。
「そのままでいいのですか? 私を趣味に没頭できる世界に連れて行ってくれるのではなかったのですか?」
(言ってくれる。だけどそうだ——)
それは昨日自分が宣言した言葉。
言葉には責任が伴うことを直哉は知っている。
異世界リーデリッヒを救うため、散っていく仲間を弔うために励ましの言葉をかけ続けた彼には、痛いほど理解できている。
(不利だけど、みんなも状況をひっくり返してるんだもんな)
地上では百鬼夜行部隊の全員が魔法少女を地上に叩きつけ、近接戦に持ち込んでいた。
その光景を離れた場所から見ている砕華は誇らしげだ。
(あいつ、仲間が勝つって信じてんのか?)
彼女が模擬戦に参加しないのは、おそらく直哉が参加したからだろう。つまり——
(俺は託されたんだ。そうだ、次の作戦だって俺がしっかりしなきゃダメなんだ)
砕華と目が合う。そのまっすぐな瞳はこう言ってるように見えた。
『お前なら出来る』と。
「言ってくれんじゃねぇか。しゃあねぇ。だったら久々に本気を出してみるとしますかねぇ!」
撃たれ、爆発する射撃魔法は痛い。とても、いや、物凄く痛い。だが死ぬことはない。この痛みは直哉が人間として生きるために与えられた機能。つまり本物の痛みではない。
(耐える、耐えて耐えて、シエルに近づく!)
空を飛ぶコツは掴んだ。
空気を蹴り、前に進むか落ちることしか出来なかった直哉だが、別に足だけで飛ぶ必要はなかったと思い至る。
(ここだ!)
ASの連射の隙を掻い潜り、アッパーカットを目の前に放つ。すると直哉の体は一気に地上に向けて急降下する。
拳で軌道を変えたのだ。
「そうきますか」
そして足蹴りでシエルの真下へ潜り込む。
これでASの射程範囲から逃れることができた。
そう考えたのだが——
「残念ながら私の魔法は追尾機能付きですよ」
シエルは身を捻り、下方の直哉に杖を振り向けた。
それが合図だったのか、展開されたASが一斉に直哉の元に降り注ぐ。
「それぐらい分かってるさ。なんせこの間の戦闘でお前の魔法はこの目で見てるからな!」
直哉が欲しかったのはこの一瞬だった。
ASによる弾幕から逃れ、シエルとの距離を詰め切るためのこの一瞬が欲しかったのだ。
(殴る蹴るで空気を炸裂させることができるなら——)
直哉は拳を握る。
迫るASは目前まで迫る。だが直哉はそんなこと構わず、全力で拳を振り上げた。
「本気の正拳突きで衝撃波を飛ばすことだって出来んだろうがッ!!」
ブロォウ!! 空気がおかしな音を発した。
拳先が空気の膜を突き破り、風がベールのようになって波打つのが直哉に伝わってくる。
そして巻き起こる暴風。
シエルは魔法陣を展開し、身を小さくして防御体勢を取ったが——
「ぐっ……」
直哉の放った暴風はシエルの小さな体を飲み込み、空高く吹き飛ばしたのだった。
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