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ファンタジーアース〜変わってしまった地球の片隅で〜  作者: ギトギトアブラーン
第2章 異世界と混ざり合う地球、そして魔法少女
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第15話 シエル・クロッカス

 宴もたけなわ。しかして時間も時間なので宴会はお開きとなり、皆が散り散りに去っていく午後11時。


 砕華が直哉を背負い、アイリスと共に百鬼夜行部隊や委員会本部へ帰る面々とは反対方向へ、シエル達魔法少女は貸し出された宿泊施設へと向かっていた。


「隊長〜。随分と今日はお淑やかだったじゃないですか〜」

「こーら。茶化さないの。高井さんはお世辞であんなことを言っただけよ。本気で私を口説こうなんて考えてるわけないでしょ」


 ひゅーひゅーと部下から煽られるが、悪い気はしなかった。正直、直哉のあの発言はシエルにとって初めて向けられた言葉であり、諦めていた言葉でもあったのだから。


 今、彼女の顔が真っ赤になっていることにシエル自身は気付いていないが、部下達はそんなシエルを見て『かわいい〜』と内心叫んでいた。

 まあ、声に出せばこの後地獄を見ることになるだろうから、口にはしないのだが。


「で、隊長。この後はいつもので?」

「うん。私はね。あなた達はこのまま帰って休んでいいわよ。明日は向こうとの合同訓練だしね」

「では、お言葉に甘えさせていただきます。お前ら〜。今日はきっちり休んで明日の訓練に備えるんだぞ〜」

「「「はーい」」」


 ホテルの前まで辿り着くと、シエルは部下達と別れる。


 別に一人になりたいとか、風に当たりたいとか、そういうのではない。シエルは毎日行っている日課を終わらせていなかったことを思い出し、寝る前にこなしてしまおうと考えただけだ。


 そうして向かったのは、『春風』の街からずっと離れた岩壁。眼下には海が広がっている。

 ここは春風の最端に位置する、人通りの全くない場所である。


「ここなら十分かな」


 シエルはポケットに入れていたグリデンガルド魔装軍のエンブレムを取り出す。


 これは自身の階級を示す物であると同時に、彼女達魔法使いを変身させるためのアイテムでもあった。


「換装。M-362」


 シエルの服が瞬く間に白いロングスカートの衣装へと変わる。両手には籠手のようなアーマーが、脚には丈夫そうなブーツが装着されている。


 これがシエルの魔法少女としてのコスチュームであり、通称『魔道防護ジャケットM-362』だ。


 フワリと、シエルは静かな夜空へ舞い上がる。

 召喚した魔導杖を握り、空を駆け続ける。


 日課。それは飛行訓練だ。


 人より劣っていた彼女は、こうして毎日三時間、飛行訓練を積んでいた。

 今ではグリデンガルドの英雄。『執行官』の役職に就いたエリートではあるが、この日課だけは怠ることがなかった。


 彼女は努力を惜しまない。


 努力こそが、いざという時に役に立つ力であり、決して自分を裏切りはしないものだと信じていた。


 そして三十年という長い戦いを生き抜いた。

 生き抜いてしまった。


「今度の戦いで、きっと多くの仲間を失うことになる……」


 ファンタジーアースとアルデバラン、両世界の合同作戦。

 多くの仲間達がホールへと進軍するこの戦いは、かつてない規模のものになるだろう。


 戦って散れば、相手の戦力にされてしまう。


 この作戦の肝は速度だ。


 如何に早くネクロウィザードの元に辿り着き、仲間を失う前に討伐できるか……そこに全てが懸かっている。


「私が倒さない限り、戦いは終わらない……」


 だから努力する。

 いざという時に100%。いや、それ以上の力を発揮できるように。


 シエルは魔導杖に弾倉を嵌め込み、射撃魔法を雲に向けて放った。


 小さいものから大きいものまで、全てを仮想敵と設定し、複雑な空戦軌道を描きながら撃ち抜いていく。


 それはまるで芸術のような華麗さであった。


 目にする者がいたとすれば、きっと目を奪われていたことだろう。

 それほどまでに卓越した飛行技術。


 そんな技術を持ってしても、シエルはまだ足りないと。

 これでは全く足りないと、鍛錬に打ち込む。


 これまでシエルは、多くの同胞を目の前で失ってきた。


 長い戦争の末に滅ぼすことに成功した、トルーパーと呼ばれる虫どもとの戦いでは、シエルの目の前で仲間達が食い散らかされ、鋭利な爪で斬り裂かれ、死んでいった。


『隊長、隊長!』

『いやだ、死にたくない!』

『後のことは……頼みます』

『隊長、避けて——!!』


 そんな声が。

 失って、失って、失い続けた仲間達の最期の言葉が、シエルの脳裏から決して離れてくれない。


 まるで呪いだ。

 だが、この呪いとも呼べる声を捨てるわけにはいかない。


(この声が私をここまで生かしてくれた)


 悲しみが、苦しみが、絶望が力に変わる。


 散っていった仲間達の魂が、自分の魂へと受け継がれている。


 だから簡単に死ぬわけにはいかない。

 結果を出さなければならない。


 それが英雄として……『執行官』として与えられた宿命なのだから。


 故に彼女は飛ぶ。


 この終わりなき苦しみの先に、背負い続けた魂の帰る場所を見つけるために。


 たとえこの身が朽ち果てようとも、絶対に勝つ。


 そう心に誓い、シエルは午前3時まで夜空を駆けるのだった。


 ***


「ふあぁ〜……」


 翌朝。


 ホール対策委員会本部の前にある演習場へ向かう途中、直哉は大きな欠伸を漏らしていた。


 昨日の飲み会は、中盤からの記憶が不思議と抜け落ちている。気付けば直哉に与えられた自室にいて、窓の外からは日の光が差し込んでいた。


(なんだ、もう朝か……もっかい寝よ……)


 と、布団に潜り込もうとしたところ、砕華がフライパンとお玉をガンガン鳴らしながら部屋に上がり込んできたのだから、二度寝などできるはずがなかった。


「なんでこんな朝早くから訓練なんだよ……」

「ばっかお前! 今日の訓練は朝から晩までぶっ通しの合同訓練って言ったろ!」


 隣を歩く砕華に言われたが、そんな話を聞いた記憶はない。

 まあ、いつもの伝え忘れだろうが……。


 そんな砕華の姿は、黒の軍服に身を包んだ如何にも上官らしいものだった。


 対して直哉も同じ黒の軍服姿ではあるのだが、砕華のような金の刺繍はなく、如何にも一般兵といった装いだ。


 そんな二人が演習場に辿り着くと、既にそこには百鬼夜行部隊の面々とシエル達魔法少女が集まっていた。


 どうやら直哉達が一番最後らしい。


「悪りぃ悪りぃ、遅れた」


 砕華は小走りで合流し、シエルの横に立った。

 直哉は部下達と同じ列に混ざり、砕華とシエルに向かって立つ。


「大丈夫ですよ。開始時間までまだ5分ありますから」

「そう言ってくれると助かるぜ〜。うちの直哉が平和ボケしててよ〜」

「お、おい!」


 百鬼夜行部隊と魔法少女達が直哉の方を向いて笑い始める。


(仕方ないだろ。長い眠りから覚めたばっかなんだから、起きるの苦手なんだよ……)


 人間の肉体に近付いてしまった弊害か、疲労感のせいで以前のように眠らずの体ではいられなくなってしまった。


 お陰で眠りからの目覚め方が分からないのだ。仕方のない話である。


 そんな冗談話を交えつつ場が和んだところで——


「んじゃ、時間にもなったことだし、早速始めるとすっか」

「ですね。まずはお互いの戦力の確認から……私の小隊と砕華教導官の小隊で模擬戦といきましょうか」

「おっけー」


(早速模擬戦か〜。元気だねぇ〜)


 百鬼夜行部隊を「がんばれ〜」と見送る直哉だったが——


「直哉、お前何言ってんだ。お前も来るんだよ」

「はい?」


 ナニヲイッテマスノヤラ、サイカサン。


 確かに直哉はネクロウィザードと戦う戦闘メンバーとしてカウントされているが、決して百鬼夜行部隊のメンバーではない。

 であれば、この模擬戦に参加する義理などないはずなのだが。


「お前の体は鈍ってんだ。動かして前みたいな感覚を取り戻さねぇと、いざという時困るのは私達なんだぞ」

「ぐっ……」


 そう言われると、何も言い返せない。


 仕方ないと、直哉も前に出る。


 シエル達魔法少女は5人。

 他にもズラリと魔法少女達がこの演習場にいるのだが、彼女達はシエル直属の小隊。つまり精鋭ということだろう。


 対して砕華の百鬼夜行部隊も精鋭なのだろうが——


(俺、場違いすぎやしませんかね)


 ゲンナリしつつ、もはや逃げ場を失った直哉は模擬戦に参加することになったのだった。

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