第9話 百鬼夜行部隊
そんな直哉とシエルの様子を後ろからワクワクした様子で眺めている女が一人。
デコに手を平行に当てて遠くを見るようにしている彼女は砕華だ。
「んっほぉおーー!!! さっすが直哉だぜ! たったの一発であのデカブツの顔がカチ上がりやがった!」
まるで応援しているプロ野球チームがホームランを打ち込んだ時のようなはしゃぎようを見せる彼女はインカムに手を当てる。
「見たか? 見たよな、てか見てなかったらぶっ飛ばすぞお前ら! 直哉がやりやがった! あのデカブツの寝ぼけた顔面に一発喰らわしてやったぞ!」
『見てましたよ教官! あれが教官の親分なんですね!』
『すげぇ。あれで元人間って本当かよ……俺たち魔物でもあそこまでの力は出せないぞ』
「はは……直哉だけじゃねぇ。あの体を作り上げたアイリスもスゲェってこった。おっし。景気のいい一発を見たことだしお前らぁ! 祭りじゃぁぁぁ!!!」
『『『おおおーーーーっっ!!!』』』
彼女はマサカリを片手で掲げながら走り始める。
まるで蛮族のような走り方だが、迫るカリギュラを一撃で叩き伏せるその姿はまごうことなき鬼人のそれだ。
鬼に金棒、いや砕華にマサカリだ。
そんな彼女の部下達魔物もそれぞれの魔法と腕っぷしでカリギュラをぶっ飛ばしていく。
彼らは5年前の地球の変化で魔力が満ちたことにより、不可視だった姿が全人類に露呈した存在だ。
いわば、砕華の同郷。地獄の住人である。
彼らは住処どころか職もない状態であったのだが、世界が変わってしまい、道の化け物に異世界からの来訪者が溢れるようになった今、旧日本政府が彼らを新たな隣人として迎え入れたのだ。
故に国籍は大妖帝国大和。旧日本国民である。
彼らは得たのだ。住処を。職を。認められたのだ人権と尊厳を。
故にいかような死地であろうと彼らは臆することなく突き進む。そこに喧嘩があれば祭りだと騒ぎ暴力を振り翳し、宴会だと聞けば狂喜乱舞する。
そんな魔物の一部は砕華と共に対ホール対策委員会に所属することになった。
この世で1番激しい喧嘩のある場所に行けるぞと砕華に囃し立てられたから。
彼らは楽しいと、愉快だと、天国だと暴力の限りを尽くす。その暴力はトンボ型カリギュラの体を木っ端微塵に砕き、焼き、凍てつかせて、闇に沈める。
この悪鬼羅刹の集団は砕華を隊長とする『百鬼夜行部隊』と名付けられた。
「砕華!」
「直哉! おっまえ、よくやったな!」
そんな砕華の元へ直哉が空からやって来た。彼はシエルにぶら下がるというなんとも滑稽な形であったが、砕華にとってはそんなことなどどうでも良くて、たださっきの攻撃に対する賞賛をぶつけるだけだ。
「サンキューな。って違う違う。作戦だ作戦があるんだ」
「んあ? 作戦?」
直哉の言葉に首を傾げる。
百鬼夜行に作戦なんてものは1つしかない。
殴って潰して解決。5年間それだけで任務を遂行して来たのだ。だから今直哉から『作戦』と言われても砕華としては『遂行中だぞ?』って反応でしか返せないわけで。
「んな馬鹿みたいな暴力が作戦な訳あるか! いいか? あの化け物を倒すには弱点を探し当てて一撃どでかいのをぶっ放す必要があるんだ。その為にもお前らの力を借りたい。頼まれてくれるか?」
思考すること20秒。砕華の脳みそはそこまで達者にできていない。だが直哉はそれが分かっていて理解しやすい言葉を選んでくれた。
『弱点をどデカい一撃でぶっ飛ばす』そのための協力。
たったそれだけの言葉で砕華の頭はチーン! と理解が追いついた。
「頼まれてくれるかだって? んな野暮なこと言うなよ。言ったろ? 私はお前の下につくって。それは5年たった今でも変わりやしねぇよ。お前はお前のやりたい通りに命じてくれりゃそれでいい」
「砕華……」
「ようは弱点を見つけるためにあれをぶっ叩きゃいいんだろ? 任せな」
砕華は再びインカムに手を当て——
「聞いたかお前ら! あのデカブツの弱点を見つけるぞ。なんでもいい魔法でも拳でも蹴りでも投擲でもなぁ! 1番初めに見つけたやつは私から1週間分のタダ酒をプレゼントだぁ!」
『マジっすか教官!?』
『1週間!? 1週間っすよ? いいんですか? 俺たち教官の財布の中を空にしちゃいますよ!?』
インカム越しにどデカい声が直哉の耳に入ってきた。
なんともテンションの高い連中だろう。
砕華はカカッと笑って——
「言っとくが私が先に弱点を見つけりゃ1週間お前らが私に酒を奢ることになるからな!」
『ちょっ——それはヤバいっすって——』
「ほーら! よーいどんだぁ!!!」
瞬間、直哉達の前に居た隊員達がトンボ型カリギュラをほっぽってゲルルンギラスへと駆け出した。
彼らに迫るトンボ型は可哀想なことにフルシカトを決め込まれて意気揚々と突撃したがフィールドにゴツンと突き刺さるのみだ。
そんな光景に直哉は苦笑いを浮かべた。
「おいおい、運動会じゃねぇんだぞ? 少しぐらい緊張感もてよ」
「緊張? んなもん酒の足しにもならねぇよ。んじゃ私もいくぜ。酒が私たちを待ってっからよ」
ドンッとキングコングよろしくな走り方で砕華もゲルルンギラスの元へ走って行った。
残された直哉はシエルの顔を見上げ——
「協力はしてくれるみたいだぞ?」
「あはは……分かってはいましたけど、やっぱり個性豊かな人たちですね……」
とは言うがシエルさん。本当は頭がどうかしてると言いたげだ。
直哉だってそう思う。一瞬でも気を抜けば死んでしまえるこの状況を夏祭りではしゃぐ子供のように楽しんでいるのだから。
「ですが、これで弱点を見つけられる確率が跳ね上がりますね」
シエルは右手に握る杖をフルフルと振りながら——
「私も準備しなきゃ……」
「準備?」
「弱点を見つけたとしてもそこが柔らかいとは限りませんので」
と人差し指を口に当てながらなんとも可愛らしい仕草を直哉に見せるのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
もし面白いと思って頂けたら
評価とブックマークをして頂けると励みになります。
よろしくお願いします!




