第7話 リハビリ戦
輸送機の中、窓から見える魔法少女達の戦いに直哉は圧倒されていた。空いた口が塞がらないとはこのことを言うのだろう。
無数に広がるシミが敵だとするのなら魔法少女の攻撃はまるで箒で掃き取るようなもの。まさしく蹂躙といえた。
彼女達が進んだ後に敵は残らず、敵の攻撃は華麗に回避するその光景はいつかテレビで見た自衛隊のブルーインパルスの航空芸のようにも見える。
「相変わらず無駄に統制の取れた攻撃だぜ。見ててイライラすんなぁ」
砕華はそんな魔法少女の戦いが好みでないようで椅子に片足を乗っけて窓を覗き込む姿はどこぞの輩にしか見えない。
(味方なんだからそんなツンケンせんでもいいのに)
「こうしちゃいられねぇ。お前ら。準備は良いか」
「「「イエッサーッ!」」」
直哉の周りにいた隊員達が各々武器を手に席から立ち上がる。自分だけ立ち上がらず座ったままも気まずいので隊員達と同じように立ち上がって「サーイエッサー」と叫ぶとみんなが「え?」と呆気に取られたような顔を直哉に向けた。
(な、なに? 俺のけいれいにどっか変なとこでもあった?)
「よし。なら出るぞ」
「ちょ、ちょっと待て! 行くって空だぞ? どうやって飛ぶかも説明されてねぇのに行くぞも何もねえだろ」
「あー。いちいち説明すんのもだるいなぁ。大丈夫だって降りれば分かっからよ直哉の親分」
輸送機の後部が蓋を開けるように開いていく。
中に強風が叩きつけるように入ってきて何かにしがみ付いてないと吹き飛ばされてお空へダイブしそうになる直哉。
だが隊員達は『待ってました!』と言わんばかりに目をキラキラさせて——
「それじゃあ教官。1番は自分から行かせていただきます」
「おう! 行ってこい」
ケモ耳男性隊員がピッとカッコつけながら背中を向けて空へダイブした。
「お、おいおいおいおい!!! あいつパラシュートもジェットパックも何もつけてなかったぞ!」
と直哉は空いた輸送機から下を覗き込むが——ケモ耳隊員はなんと空の上を走っていた。
そう、走っていたのだ。まるで見えない地面がそこにあるかのように……。
「カッカッカ。分かったか直哉。これが私たちの魔法だよ。私たち空で戦う術のない奴があんな化け物と渡り合うために他国と共同で開発した地球史上初めての魔法それがあそこにある『フィールド』だ」
「だから降りれば分かるって言ったのか……」
だが理解しても見えない地面は見えないのだ。
そんな場所にダイブなど直哉の貧弱すぎる生まれたてほやほやの心は恐怖で満ち溢れていた。
隊員達が次々と降りていく中等々残されたのは直哉と砕華の2人のみとなった。
いつまで経っても飛び降りない直哉に痺れを切らしたのか砕華は——
「女々しいんだよ。ほら、いっちょぶちかましてこい!」
どん! と直哉の背中を蹴りつけた。『押すなよ押すなよ』とフリをしていたわけじゃない。マジで正真正銘怖くて足がすくんでいた直哉を空に叩き落としたのだ。
「うぎゃあああああああーーーーーーーーー!!!!」
強風が直哉の顔を、体を打ち付けてくる。下には一面に広がる海の青。ちなみに直哉は海洋恐怖症だ。
あの海の中、奥底の暗黒にn得体の知れない大きな何かがいると思うと落下の恐怖と合わさって今にも気絶してしまいそうになる。
白目を剥きかけたが——ゴテン!!
直哉の体に固い何かがぶつかった。
手で撫でるように触ってみるとガラスか何かの膜がそこにはあった。
『フィールド』……だろう。
ゆっくり足をつけ、生まれたての子鹿の如くプルプルと立ち上がっては少し強めに踏みしめてみる。壊れない。
「ほら大丈夫だって。このフィールドは私の魔力で展開してっから。世界中で禁酒でも起きない限りは落ちるこたぁねぇよ」
トンと降りてきた砕華がマサカリを担いで直哉を置いてゲルルンギラスの元へ駆け出していく。
砕華の魔力は酔いを消費すれば無限に回収出来ると直哉は聞いていたが……。
(なんで世界中?)
直哉は知らない。砕華の魔法は自身以外、世界に存在する酔いを回収出来ることを。
そんな直哉は震える足に一発拳を叩きつけ一歩踏み出す。
「落ちないことは分かっても怖いもんは怖いんだよ!」
とは言えここで1人ただ突っ立てるだけも悪い気がした直哉は砕華を追いかける。
走っていれば、戦っていれば恐怖も薄れるはずだ。
それにこの魔法との付き合いは今後絶対長い予感もした。
いつかは慣れるだろう。砕華のように。
そう信じるしかなかった。
(っていうか信じるしかないじゃないかよ!)
「へっ。ようやくお目覚めですかい親分」
「茶化すなよ砕華。って目的のゲルルンギラスって奴はあのデカい奴でいいんだよな」
ずっと奥に浮かんだ化け物はまるで積乱雲がいくつも重なって出来たようなデカさだ。
聞くまでもなくあれが『ゲルルンギラス』なのだろうが。
「ああ。っつっても私もこの目では初めてみるけどな」
マラソンでも走ってるかのように軽快に走る砕華はカカッと笑う。
「んまあ、直哉がいれば多分敵じゃねぇだろ」
「あぁ? なんでだ? 俺の力は再生も飛行もなくなって弱体化——」
「ありゃ? お前聞いてねぇのアイリスから」
「……?」
何も、聞いてないはずだと直哉は自身の記憶を辿る。
残された力は超パワーだけだと。そう聞いて覚えしかない。そのことを正直に砕華に伝えると——
「ったくアイリスの野郎肝心なことを伝え忘れてやがる。5年ぶりの再会だもんな……まあ仕方ねぇか。いやぁ〜。あいつも乙女だねぇ」
「馬鹿言ってねぇで教えろよ。俺の力がなんだってんだ」
「そうだなぁ。まあ論より証拠だ。取り敢えず全力で走って全力で殴ってこい。それで全部わかるだろ」
論より証拠は初めに説明を受けてから実践するときに使う言葉なのでは? と思ったがそれを口にするより前に砕華は直哉の背中に一髪張り手を叩きつけた。
絶対背中に真っ赤な葉っぱが刻まれているだろう程にジンジンと直哉は痛みに涙が溢れた。
「ほら行けよ」
どうやらこれ以上の問答はしてくれないらしい。
仕方ないと諦めた直哉は5年前と同じように、全力で、フィールドを蹴った。
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