第6話 グリデンガルド魔装軍所属魔法使い
「目標、超大型カリギュラ『ゲルルンギラス』。いいですか? いつも通りに戦えば全員生きて帰れます。なので緊張せず落ち着いて対処しましょう」
「「「はい!」」」
見た目十三歳の少女達が横に並んで空を飛んでいた。
少女達の手には杖が握られている。
その杖はどこか近代的なビジュアルであり、地球人から見ればアサルトライフルと魔法の杖が融合したような形と言えるだろう。
マガジンを取り付けた魔法の杖。
アサルトロッドと呼ばれる異世界グリデンガルド製のこの杖は、マナを充填した弾倉を装填することで魔弾を撃ち込むことができる。
少女達にもマナは備わってはいるが、自身のマナで使用するのは基本的に飛行のみ。
彼女達の世界では、一度に二つ以上の魔法を展開することが何よりも難しい。
地球人の感覚で言えば、スマホでメールを打ちながらFPSをするようなもの。それもどちらかを止めずにだ。
故に、あらかじめマナを装填したこの杖で魔弾を放つ。
敵を倒すことに特化した魔法の杖。それがアサルトロッドだ。
そんな魔法少女達の編隊の中央を飛ぶのは、隊長であるシエル・クロッカス執行官。階級は一等魔導空佐だ。
グリデンガルド魔装軍には階級が存在しており、八等魔導兵から一等魔導空佐までと定められている。
その中でも一番上の階級を持つシエルはいわば英雄クラスの魔法使いだ。
そんな彼女は部下である少女達を引き連れて、ようやく辿り着く。
青く広がる空の向こう。距離にしておよそ50キロ先に、巨大なムカデのような化け物が大口を開けて向かってくる。
『ゲルルンギラス』。
全長を測ろうと思える気すら起きないほど巨大な体躯。
空を飲み込まんとする巨大な大口と無数に並んだ牙を持つカリギュラ。
今の今まで眠るように活動停止していたカリギュラが、なぜ今になって……。
シエルは考えたが、ゲルルンギラスの周りを飛ぶトンボのようなカリギュラがシエル達魔法少女へ突撃してくる姿に思考を止めた。
「来ます。各自、隊列を維持。後ろを取られないように!」
「了解!」
シエル達は突っ込む。
杖を前に構えると、機関銃のように光の弾が放たれた。
魔弾による射撃魔法。
それに撃ち抜かれたトンボ型カリギュラは体を粉々にされ、海へと落ちていく。
だが、数が圧倒的に違う。
シエル達五人に対して、ゲルルンギラスは数えるのも億劫になるほどの手下を引き連れている。
それもそのはず。
ゲルルンギラスは旧ロシア領ホールに存在する主だ。
主一体で国を一つは破壊できる戦力を有している。
そんな存在が手下を引き連れていないわけがない。
鬱陶しいと歯噛みする少女達の中、シエルだけは冷静だった。
「そのまま射撃を継続。距離50メートルまで接近を許した際は近接魔法へシフト。基本に忠実であれ。基本こそ長く生き残れるコツです」
トンボ型カリギュラが肉薄する。
シエル達魔法少女は杖の形状を鎌や剣や槍へ変形させ、近接戦で応戦する。
トンボ型カリギュラの何体かがシエル達の背後を取っては口を開き、エネルギー弾を放ってくる。
魔法少女にとって背後を取られるのは死を意味する。
故にシエル達が取る行動は、もちろん――
「回避に移ります! 逆に後ろを取りにいきますよ!」
宙に大きな弧を描くようにターンしてはトンボ型カリギュラの背後を取り、撃ち落としていく。
カリギュラのさまざまな角度からの射撃に対しては、狙いを絞られないようランダムに飛行しながらローリングして相手を惑わせる。
だが回避に移っている間は、少女達も攻撃に移れない。
いかに早く安全地帯に入り込み、一方的に相手を穿つか――それが魔法少女の戦い方であった。
そう……普通なら。
「キリがありません、シエル執行官」
「このままじゃマナの方が先に尽きますよ」
シエルの部下である少女達の懸念ももっともだ。
射撃魔法でいくらか蹴散らしても、雑魚は一向に減ったように見えない。
むしろ勢いが増すばかりで、このままでは消耗したシエル達が撃墜されるのは目に見えていた。
「仕方ありません。私が隙を作ります。その間にあなた達は目標への接近を優先してください」
「執行官!? …………了解しました」
シエルが隊列から離れる。
四人になった隊を置き去りにしつつ前へ加速する。
「部隊の指揮は副隊長であるリーン。あなたが執りなさい」
「ハッ! ご武運を……」
隊列から離れた魔法少女ほどひ弱なものはない。
飛ぶためには姿勢をうつ伏せに倒す必要がある分前に向かってしか飛べないのだから。前方以外の警戒が薄れる。
かと言って止まれば確かに全方向を警戒できるからこそ敵の位置を把握はできるだろう。
だが足を止めた獲物はただの的にしかならない。
だからこそ魔法使いは隊列を組み各自死角を潰すように警戒するのだ。
なら単独行動の危険性は? そんなもの少女達は嫌というほど理解している。自身の世界では戦争で仲間とはぐれた少女達が何人も散っていったのを経験しているのだから。
そんな彼女達がシエルの単独行動を許したのは、彼女達がシエルの実力を信じているからだ。
「見せてもらいますよ、執行官……いいえ、『蒼ノ凶星』」
リーンと呼ばれた赤の魔法少女が呟く。
そんな彼女の目の前で、シエルは敵群へ突っ込む。
(さーて。どこから攻めようかな)
右も左もカリギュラで埋め尽くされていた。
まるで最終戦争のような光景だったが、シエルはそんな光景を前にして舌を舐める。
先程のカリギュラの行動から、軍隊行動のような連携は取れないと見た。
ただ目の前の脅威を排除するための動き……であれば、とシエルは真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ突っ込むことにした。
もちろんではあるが、カリギュラ側もそんなシエルを素通りさせることはない。
トンボ型カリギュラは自陣を突っ切ってくるシエルに向かって矢のごとく距離を詰め、射撃してくる。
それを見事な飛行技術で回避してみせるシエルは、不規則な飛行をしながら――反撃した。
カリギュラの体が、一発で五体ほど空に散る。
狙うは直線上に重なったカリギュラ。
マナには限りがあるのだから、節約は必須。
無駄のない洗練された飛行で、シエルは単身『ゲルルンギラス』の元へ。
その蒼い軌跡は、一筋の流れ星のようだった。
そんなシエルを後ろから見ていた魔法少女達は、感嘆の声を漏らす。
「さすが執行官ですね」
「どうすれば飛行しながら攻撃ができるのでしょうか……」
それは一度に二つを同時並行で行うマルチタスク。
簡単なようでいて複雑。
航空戦という高速戦闘において、飛行しながらの攻撃など常人にはできない。
相手の波状攻撃を音速に近い速度で見切り、回避行動を取る。
それだけで人間の集中力は八割以上削られるのだが、シエルはそれを難なくこなしている。
「あれが執行官の実力です。地道な努力の末、飛行を意識せずとも操作できる領域まで身につけた技術です」
リーンはシエルの部下となって早三年が経つ。
リーンは一度だけ、どうすればシエルのようになれるのか本人に聞いたことがあった。
その時に返ってきた答えは『練習』と一言だけ。
意識して行っていることが、無意識でできるようになるまで練習。
できないことは克服するまで練習。
できることは、突き抜けた才能と見紛うほど練習を重ねろ――と言ったのだ。
正気じゃない。
通常、魔法使いは六割程度一つの魔法を極めたら、別の魔法の習得に励むものだ。
そして今の時代、敵を倒すのなら射撃魔法で十分事足りる。
故に魔法は磨かず、軍隊行動について知見を高めるのが一般だ。
それをシエルは今でも基本に忠実に、毎日三時間の飛行訓練、四時間の射撃訓練を日課としている。
食事の時間を削り、睡眠時間を削り、休日すら訓練に全て費やす……。
最初こそ無駄な努力とリーンも鼻で笑っていたが、彼女の実力を、戦果を目の当たりにするたび、とても笑っていられるようなものではないと悟った。
そんなシエルは辿り着く。
目標である『ゲルルンギラス』の正面へ。
「これはまた……随分と大きい……」
シエルの体の何千億倍だろうか。
もはや自分の体で比較するのも馬鹿らしいと考え、射撃魔法のバリエーション――チャージショットを放つ。
蒼の閃光がゲルルンギラスの頭部に直撃し、爆炎が舞う。
視界が煙に遮られる中、煙を突っ切ってゲルルンギラスが突進してきた。
シエルは直ぐに距離を取って逃げる。
大口を開けて追いかけてくるあたり、ゲルルンギラスはシエルを喰らおうとしているのかもしれない。
(少々の力じゃダメ。一撃必殺。弱点直撃を狙わないと)
弱点……。
この巨体のどこにそれがあるのか探すのも手間だ。
だが――やるしかないと、シエルは杖をより強く握り締めた。
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