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ファンタジーアース〜変わってしまった地球の片隅で〜  作者: ギトギトアブラーン
第2章 異世界と混ざり合う地球、そして魔法少女
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第5話 高井砕華教導官

 司令室は本部建物の8階にあるのだが、今から直哉が向かう場所は外のようだった。

 エレベーターを降りて、正面玄関のフロアとは別のなんとも殺風景な通路を進むと、スライド式の扉が自動で開いた。

 そこに広がる光景は、自衛隊とかにある演習場のような、フェンスで囲まれたグラウンドだった。


「貴様ら! よーく聞きやがれ! 現在この『春風』に『ヘニョロンダラス』っつう馬鹿でけぇ糞が現れやがった」

「教官! 『ゲルルンギラス』です!」

「黙れデコ助! 私が『ヘニョロンダラス』つったら『ヘニョロンダラス』だ! このボケ!」


 どうやら現在進行形でブリーフィングの真っ只中らしいが、部下から教官と呼ばれたあの大きな女性の声には直哉にも聞き馴染みがあった。

 アイリスと直哉はそんな彼女達のいる演習場に入って——


「やあ砕華。準備はどうだい?」

「ん? おー。アイリスじゃねぇか。テメェら。ちょっとそこらへんで筋トレでもしてろ」


 ハッ! と部下達はそれぞれ腕立て伏せだとか腹筋を始め出した。普通こういう場面は待機してろとか言うんじゃないか? と直哉は考えたが、それよりも目の前の女性の方が気になったので口にはしない。


「ん? おお!? 直哉? 直哉じゃないか! ひっさしぶりだなぁ、えぇ? ちっとも変わってねぇなお前」


 ダンッダンッと砕華は直哉の背中を強く叩いてくる。

 そんな砕華の姿は和服でもダサいタンクトップ姿でもなく、迷彩服に帽子をびっちり着こなした高官に見える。

(いや教導官って役職があるから高官……なのか?)


「俺からすりゃお休みからおはようの感覚なんだけどな。まあ久しぶりって言っとく」

「カッカッカ! そうかそうか。っと、世間話してる場合じゃねぇな」


 あのお喋りと無駄が大好きだった砕華が真面目に働いてる!? と直哉は目を丸くしたのだが、そんな直哉を置いて砕華はアイリスに敬礼をして——


「主任! 委員会所属戦闘部隊各位、準備完了であります! いつでも出れるぜ」

「うむ。なら早速……と言いたいところだけど、砕華にお願いがあってね」

「願い? んな他人行儀なこと言ってんじゃねぇよ。お前は私の上司だろ? だったら命令すりゃ良いんだよ。で? なんだ? 願いって?」

「直哉くんを作戦に参加させて欲しいんだ。彼はまだ目覚めてすぐだから、今回の作戦が丁度良い肩慣らしになると思ってね」

「ほほぉ〜。そいつはいいな! よっしゃ、なら直哉。お前は私と来い。最前線送りにしてやんよ」

「えっ? 肩慣らしなのに最前線? お前ら馬鹿なの? ってか砕華、お前は知らないだろうけど俺は弱くなって——」


 ガシッと直哉は砕華に肩を掴まれた。なんという力強さだろう。直哉の記憶ではここまでの力はなかったはずだが——

 

「んじゃアイリス〜。こいつは借りてくからな〜」

「お、おい! 俺の話は無視かよ! な、なぁ!!」

「カーッカッカ! カァーカッカッカ! 大丈夫だって。お前ならどんな戦場だって銭湯に行って帰ってくるようなもんだって」

「違うッ! 絶対にそれは違うッ!! 断言するって、銭湯感覚で最前線送りなんてふざけんなぁー!!」

 

 砕華は直哉を引きずってどこかへ連れて行く。

 それは間違いなく戦場なのだろうが、今の直哉からすればどこの戦場であっても恐怖でしかない。

 なにせ今の彼には感情が戻っていて、力の半分以上は失われているのだ。

 あーやだ、どうして平和な地球がこんなデンジャラスファンタジーになっちまったんだー。と、内心涙がちょちょぎれる程に叫ぶのだった。


 ***


 砕華にまるで物のように引きずられるまま放り投げられたそこは、部隊を輸送する空挺の中だった。

 ドテンと空挺内を転がる直哉を、先に乗り込んでいた部隊員達は何事だと眺める。

 もちろん砕華も登場するのだが、さっきまでの豪快でお馬鹿な砕華の姿はなく、鬼教官の顔を浮かべた高官がそこにいた。


「よし。よーく聞けお前ら。今から我々は『ヘニョロンダラス』付近へ向かう。つまり最前線だ。嬉しいだろ!」

「「「「サァーッ!! イエッサァーッ!」」」」


 砕華の言葉に狂喜乱舞する隊員達。その顔を直哉がよくよく見てみると、人間の他にも、角が生えた男やら、尻尾にケモ耳を携えた女とかが混ざっていた。

(そういや今の世界は異世界と混ざり合ってたんだっけか? ならこいつらはどっか別の異世界から来た人たちなのか?)


 にしても……最前線送りと聞いてこのはしゃぎようはどうなんだろうか。普通は死地に送り込まれることになって落ち込んだりブルブル震えたりするはずなのだが——


「今回は私の親分である高井直哉を連れて行く!」


 砕華の言葉に隊員達を取り巻く空気が凍りついた。

 教官の親分?

 あの馬鹿つえぇ砕華さんの親分?

 などなど隊員達の呟きを聞きつつ、直哉は立ち上がり、照れたように頭を撫でながら「ど、どもっす」と会釈する。


「だが、親分はまだ起きたばっかで寝ぼけてやがる。だから我々委員会第203部隊が寝ぼけた親分の脳みそを叩き起こすぞ! いいな!!」

「「「サァーッ!! イエッサァーッ!!」」」


 趣旨が変わってる気がするのだが? 『ゲルルンギラス』討伐が目的じゃなかったか? と周りの盛り上がりを冷めた目で見る直哉。

 砕華の簡単なブリーフィングを受けて、輸送機は空へ飛び立つ。

 窓からは5色の輝きが軌道を描いて輸送機を通り抜けたのが見えた。

 そんな輝きに砕華は嫌そうに悪態をつく。


「けっ。今回は魔装連隊も参戦かよ。おい! パイロット! 飛ばせ飛ばせぇ! 奴らに獲物を狩り尽くされたら溜まったもんじゃねぇからよ!」


 ガンガンと操縦席を後ろから蹴り上げる砕華の様子から、どうやら彼女はシエル達の事をあまり認めてないようだ。

(にしても……魔法少女と異世界人との共闘戦線か……)


 まだ状況がうまく飲み込めない直哉だが、世界が危険に晒されているこの状況に拳を握りしめた。

 もはや平和じゃなくなった世界だが、この力で守れるものは守ってみせたい。そう思うのだった。

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