第2話 目覚めた直哉とホール対策委員会
直哉が目覚めてからというもの、彼はアイリス(それはそれは金髪美人に育った19歳)から現在の地球について話を聞いたわけなのだが、理解が追いつかないレベルの話で、机の上で頭を抱え唸り続けていた。
まず5年前、直哉とクルーエルが作った直哉との戦い。
最後にイリーガルウェポンの自爆により、この地球の時空の壁が砕け、世界の存在が曖昧になった、らしい。
らしいというのも、現在まで確定していない仮説だからだ。
「なあに? 私の顔に何かついてる?」
直哉が金髪の少女に顔を向けると、少女は首を傾げた。
「そういえば紹介がまだだったね」
アイリスが間に入って少女を促す。
「この人は地球ともリーデリッヒとも違う、異世界アルデバランにあるグリデンガルドからやって来た——」
「シエル・クロッカスです。よろしくお願いしますね」
アイリスの紹介にビシッと敬礼するシエル。長い金髪とあどけない容姿から、まだかなり幼いんじゃないかと直哉は考えた。
「ちなみに彼女はグリデンガルド魔導連隊所属の一等魔導空佐だよ」
「一等……?」
なんじゃそりゃ、と直哉はまた聞き馴染みのない言葉に首を傾げる。
「あー。君に分かりやすく言うと……中佐? かな?」
「中佐ぁ!? こんなちっこい子が!?」
「はい。まあ今はどちらかというと、執行官って役職に落ち着いてるんですけどね〜」
「ちなみにだけど、その執行官ってのは、なんだ?」
「ん〜。戦争で人をたくさん殺したから、もう戦場に出ないで国内の有事にだけ備える戦闘員って感じですかね?」
「せっ——」
戦争。と言いかけて口を閉じた。
異世界のことだ。直哉が地球人であるからこそ違和感と嫌悪感が募ったが、それはこの世界での常識であって、異世界では子供が戦場に立っていてもおかしくないということ。
それにここまで上り詰めた人なのだ。否定するには直哉の持っている知識は足りなさすぎるし、なにより向こうのプライドを傷つけかねない。
「まあシエル執行官は、5年前、直哉くんが爆死したあの後すぐにホールからやって来たみたいでね。その時、カリギュラ相手に共闘したらしいんだよ。砕華とね」
「待て待て待て。ちょっと待て。訳も分からん単語がまたいくつか出てきたぞ?」
そうだったね、とアイリスが最初の説明に戻る。
ざっくばらんに聞いた話を要約すると……。
『今の地球はいくつかの異世界とごっちゃになった世界であること』
ちなみに今の日本は、砕華達魔物の姿が全人類に視認できるようになったこともあり、魔物と日本人が共存する新たな国家、『大妖帝国大和』と名を改めたらしい。
他の国も名前を変えたか、そのままではあるのだが、まあ今はそれは置いておくとアイリスが言った。
そして次に『ホール』だが、それは見れば分かるとアイリスが窓の外を指差した。その先にあるのは、空に亀裂が入った部分だ。
亀裂程度なら問題ないらしいが、あれが割れて穴になると『ホール』と呼ばれる次元空間が広がっているらしい。
その中に住まう化け物が『カリギュラ』だと。
「頭が痛い……ヒューマノイドだってのに知識の整理が全くできんのだけど」
直哉がガンガンと痛む頭を押さえていると——
「ああ。それは君が人間にほぼ近いヒューマノイドになったからだね」
と、アイリスがスパッと言った。
はい? と直哉が目を向けると、アイリスは指を立てて講釈を垂れ流す。
「君の体はボロボロのグズグズになっちゃったからね。それにコアもぶっ壊されたわけだし。でもでも、君はあの戦いで魔力に目覚めたらしいんだよね。その魔力でどうやら擬似的な心臓を創造したらしくて、破片に残った君の魔力を増幅させて心臓を形成、必要最低限の機材とドナーで組み合わせて今の君の体ができたってことだよ」
聞きたくない単語が出てきたような気がする、と直哉は目を細めた。
つまりは、直哉の今の体は半分以上が人間の素材を使ったということになる。この頭痛もそれ故のものなのだろう。
「まあ、おかげで以前君が持ってた再生機構と飛行能力は全て無くなっちゃったわけだけどね。あ、安心してくれたまえ。超パワーはそのまま残してあるから」
「なるほどな。要はヒューマノイドからアンドロイドにジョブチェンジしたってわけだろ? 人間に近付いただけでも儲けもんだって。ありがとな、アイリス」
「えへへ」
照れたのか頭を摩るアイリスの姿は、19歳の淑女であっても直哉の目には以前と変わらず子供のように思えた。
「さて、勉強もそこそこにして本題に入りましょ?」
シエルがパンッと手を叩いて、和んだ空気を締めた。
「本題、つまり目下私たちが向き合う問題が一つあるわけだけど、君にも協力してもらいたいわけなの」
「問題?」
すでに問題だらけなような気がするが、それを口に出すのは野暮ってものなのだろうか。
取り敢えず話は最後まで聞いておこうと直哉は頷く。
「現在、大和とアルデバランの間にあるホールからカリギュラが溢れ出す、未曾有の災害に見舞われてる状態なのね。それが続くと最悪、2つの国は滅びることになるわけだけど……」
「滅びる!? んないきなりな——」
「今の現実は何でもかんでもいきなりなの! 仕方ないでしょ!」
シエルが地団駄を踏みだした。子供っぽく、いや見た目からして子供なのだが。
「ともかく! 君がアイリス主任の言った通りの戦力があるのなら、ぜひ協力してもらいたいわけなの」
「俺はいいけど……ってか一般人の俺がそんな重要そうな作戦に参加していいわけ? こういうのって自衛隊とかそういう機関に任せたらいいんじゃ——」
あーそうそう、とアイリスが手をポンと叩いた。
何か伝え忘れていたのだろうか。おっちょこちょいな奴め〜っと直哉は微笑んだのだが——
「今の僕と君は世界を滅茶苦茶にしたテロリスト扱いでね? 無実を証明するため、仕方な〜く旧対魔物対策機関改め、対ホール対策委員会って組織の一員として登録されてるんだ」
ちなみに僕はそこの主任だよ、とサムズアップするが、待て……待て待て待て。テロリスト? 無実を証明するため? なんだか聞き捨てならない言葉が出てきたぞ、と直哉は手でストップを促した。
「まあ、この世界の人から見れば、あの爆発を起こした張本人にも見えるわけだよ。だから仕方ないね。でも大丈夫、即死刑にはならないから。機関が残した映像に僕らがクルーエルと争っていた姿が映っていたからね。つまりここで働いていれば、いずれ無実が証明されて晴れて自由の身になるんだよ」
「はぁ……マジっすか」
眠っていた5年の間にとんでもないことになってたんだ、と直哉は肩を落とす。
「ってなわけで改めて、おかえり直哉くん。そしてようこそ、委員会本部に」
何はともあれ、直哉はこの世に帰って来た。
今はその事実に喜びつつ、アイリスとハイタッチを交わすのだった。
「あぁ、ただいま」
ここまで読んで頂きありがとうございます!
もし面白いと思って頂けたら
評価とブックマークをして頂けると励みになります。
よろしくお願いします!




