第32話 変わる世界 4
「これは……」
繁華街……だったはずの場所にやって来た如月と狛割。
機関から緊急事態発令と連絡を受けて異常が起こった繁華街にやって来たは良いのだが、もはやここが繁華街だと信じられないほどに酷い光景だった。
地上は大きく砕け、あの煌びやかだったビル街はすべて廃墟と化している。
まるで世紀末世界のような光景。
だが何よりも如月の意識を向けられたのは空のあちこちに浮かぶ亀裂だろう。
曇り空に浮かぶ亀裂。その中から光が差し込んでいる。
「如月さん! 生存者です!」
狛割が何か見つけたように駆け出した。
如月的に続くとそこに居た生存者は高井アイリス。如月の後輩にして学内でも有名な天才児だった。
彼女は膝をつき、泣き崩れている。
「お嬢さん! 一体ここでなにが」
「直哉くん……直哉くん……」
狛割が声をかけるが彼女はただその名を呼ぶだけで答えない。
如月が狛割に——
「彼女は、私の後輩です」
「後輩、学校の?」
「ええ。アイリスさんここで一体なにがあったのですか?」
「直哉くんが……死んで……」
直哉……如月はその名を覚えている。
その名を持つ男は路地裏で鬼を単独で撃破した人型の兵器だったはず。
「如月さん?」
「いえ、彼女の言う名前に心当たりがありましたので」
「それは私も同じですが、詳しい話を聞くには一度彼女を落ち着かせる必要がありますね」
「ですね。狛割さんすみませんがアイリスさんを後方に連れて行ってあげてください。私はもう少しここの調査を行います」
「了解しました」
狛割は泣きじゃくるアイリスの手を引いてこの場を立ち去る。アイリスはただ惹かれるがままに連れられて行った。
そんな彼女を眺め、如月は大きく凹んだクレーターの中心へ向かう。
そこには肌色の破片が一つ転がっているだけだった。
それを拾おうとすると——
「それに触んな」
「誰ですか!?」
突然女性に声を掛けられて如月は振り返る。そこには直哉が倒したはずの鬼人が立っていて——
「そいつは親分の遺品だ。触んじゃねぇよ」
「あなたは——その角! 魔物!? それに親、分……」
ズサーッとクレーターに滑り降りてくる鬼人が如月の手に握られた破片を奪い取った。
「安心しな。私はお前らを襲いやしねぇよ。ただこれは直哉の体の一部なんだ……」
「それが……ですか?」
「ああ。こいつから直哉の魔力を少し感じる。間違いねぇよ」
なんだか彼女の顔が悲しげに如月には見えた。
そんな彼女が立ち去ろうとした時。亀裂が音を立てて大きく割れた。
「な、なに?」
見上げるとそこには街が見える。
極寒の、吹雪に見舞われた街が。
「おいおい、こっちもなんだ?」
鬼人が見つめる先には空に浮かぶ島のような光景が亀裂の先に浮かんで見えた。
亀裂はだんだん砕けていく。
ゆで卵の殻を破るようにパラパラと、空間が1つに繋がり始めようとしている。
『エージェント如月。聞こえるか?』
そんな亀裂に目を向けているとインカムから機関所属の上官から通信が入った。
「は、はい! 聞こえてます」
『緊急だ。全国各地で空が割れたような現象が起こっていると報告が入った。魔物の魔法による幻覚か何かだろうが……至急戻ってこられるか?』
「隊長……。幻覚ではありません」
『なに? どう言うことだエージェント如月』
「空が、割れてます。向こうに世界が見えます。はっきり申し上げます。これは幻覚ではありません。繰り返しますこれは幻覚ではありません。現実です! 現実に異常が起こっているのです」
亀裂の中から何かがぼとりと落ちた。
それは人のようであるが、人間ではないと如月の目にはすぐに理解できた。
首から上が無い。体は黒い結晶のようで光沢を置いていて、腕には手の平なんて無く、あるのはカマキリのような鎌だけだ。
「ぎ、ギギ、ギ?」
「なんですか……これは……」
その偉業は如月に向かって歩いてくる。
後ずさると背中に何かがぶつかった。
それは鬼人の背中であった。
彼女の見つめる先にも如月の前にいる異形と同じ存在が3体居て——
「おいおい。こいつはお友達になれそうな雰囲気じゃねぇよな」
彼女は拳を握っている。この様子から鬼人の仲間である可能性は如月の頭から消えた。
如月も薙刀を構える。目の前にいる異形は魔物とは別の適性存在だと断定する。
「一応聞いておきますが、貴方のお仲間という訳では無いのですよね?」
「これが仲間に見えるってんならテメェの目は腐ってるってってやるぜ。私の仲間ってのは言葉が話せて酒が楽しく飲めるような奴らの総称だ。こいつらが酒を飲んでガハハと笑うように見えるか?」
「いえ、全然……」
「分かったなら良しだ」
そうして鬼人と如月は駆け出す。異形が如月達の動きに対して鎌を振るって襲いかかった。
如月の耳、インカムからは悲鳴に絶叫が響いていた。
やれ化け物が襲いかかって来ただとか、空から異形が出現しただとか、爆発が起こっただとかの報告で回線が混雑して煩かった。
如月はインカムを放り投げる。このままだと集中して目の前の敵に対処できない。
2人が異形とぶつかり合おうとしたその時だった。
向こうの空に何か煌めく光を如月は見た。
それは5つの流れ星、赤、黄色、青、紫、白の順で横一列にこっちに迫っていた。
そらはまだ明るい。星が見えるには早過ぎる時間だ。
その星が全て斜め下へ流れるように下降したと思うとビュオン! と如月と砕華の頭上を飛び越えた。
「な、なんだぁ今のは!?」
「わ、分かりません。それよりも敵を——」
倒さないと——そう如月が言おうとしたのだが、目の前にいた顔無しの異形が全て霧散していく。
塵と言うには幾何学的なキューブ上の粒子となって。
「手を挙げなさい」
異形が塵になって消えたのを如月と砕華が見ていると2人の後方からあどけない少女の声がこだました。
振り返るとそこには5人の少女が空に浮遊している。
如月はその姿を見て気づく。
その少女達の装いが先ほど見た流れ星と同じ色をしていることに。
「手を挙げなさいと言った。従わなければ撃ちます」
どうやら言葉を放っているのは真ん中に浮かぶ青の少女らしい。
その少女は口元を隠す襟から伸びるフワリと広がるロングスカートに金髪をツインテールにゆ結っていた。
そして銃を突きつけるように2人に向けたそれは杖だった。いや……杖、と呼んでいいのだろうかと如月は訝しげにそれを見る。
棒状であるのだが機械的、まるで科学の力で再現された魔法の杖のような……。
青の少女が右手を挙げると他の少女達が杖の先端に光を収束し始めた。
それを見た瞬間如月は彼女達が。今。自分たちより優位に立っていて。生殺与奪の権を握っているのだと身の毛がよだった。
「し、従います。従いますから攻撃しないでください」
「お、おい!」
砕華は『なんでこんな奴らの言うことを聞かなきゃいけねぇんだ』とでも言いたげに如月に顔を向けた。
そんな砕華に聞こえる程度の声量で如月は告げる。
「見てわからないんですか? 彼女達は普通じゃありません。あの杖のような武器……あれはこの国で作られたものじゃないし、あの光が私たちを殺すために向けられたものだって分からないんですか?」
「殺す? ハッ! 上等だねぇ。殺せるもんならぶっ殺して身やがれってん——」
瞬間。青の少女が手を下ろした。
砕華は言葉を言い終える間もなくその顔が光で穿たれる。ジュッと焼けて溶けた砕華の顔を如月は直視した。
一瞬なにが起こったのか理解できなかった。だが1秒もすると今目の前で、あの強大な力を持った魔物である砕華が討たれたのだと理解が追いつき、カチカチと歯が震え出してしまう。
「威勢がいいのは口だけですか。で? そちらのあなたは従うつもりは?」
青の少女は淡々と告げる。絶対的強者としての風格がその少女からは感じ取れた。
隣に立っていた砕華は首から先が無くなった状態で地に伏している。
(な、なんなんです。道の魔物が現れたと思えば、今度はよく分からない子供!? こんなの私が抱えられる案件じゃない)
「執行官。どうやらこの人、怯えて言葉が話せないようです」
「なるほど。それは失礼しました」
黄色の少女は青の少女の部下らしく、助言に青の少女は「確実絵を下ろしなさい」と命令した。
少女達は杖を下ろす。
メルヘンチックな見た目な少女達だがその動きは統率された軍人にも見える。
青の少女は地上に降り立つとカツカツとブーツを鳴らして如月の前に立つ。
身長は140後半はあるかないか……。
そんな少女を前に如月は震えが止まらない。
「落ち着きなさい。私たちはグリテンガルドを襲った未知のモンスターの巣を目指して送り込まれた魔装連隊第206小隊です。あなたは……人間のように見えるのですが……そこに転がるモンスターと同種、ですか?」
と目が細まった。如月はブンブンと首を振る。
すると青の少女はパァッと晴れやかな顔になって——
「良かったぁ。どうやら私たち以外にも人間がこの巣に送り込まれていたみたいですね。で。あなたはどこの小隊所属で?」
「小隊? い、いえ、私はこの世界に住む人間で——」
如月が言い切る前に青の少女の後ろで立ち上がる首のない砕華。
「執行官!」と叫ぶ少女達の声に青の少女は振り返り杖を砕華に向けた。
「驚きです。首がもげても生きているだなんて」
白い蒸気のような煙が砕華の顔のあるべき場所に集まっていく。
「あんな攻撃で私が死ぬかよ。酒呑童子様をなめんな」
「しゅてん、どうじ?」
青の少女は首を傾げる。砕華の顔が再生する。
2人の顔には疑問が如月には浮かんで見えた。
しばらくの沈黙、青の少女はむむっと眉間に皺を寄せて——
「あの〜。ここってさっき私達が倒したモンスターの巣ではないのですか?」
と青の少女はチリとなって消えた異形の居た場所を指差す。
如月は違うと首を振った。
砕華にも青の少女が目を向けたが「何回言わせんだ。あれが私のダチに見えんのかあぁん!?」と喧嘩をふっかける。
青の少女はそんな砕華を無視して——
「同種ではない……巣でもないとなるとここは一体どこなんです?」
「地球ですが……それよりグリテンガルドって、なんです?」
如月の言葉に少女達は目を見開いた。
「執行官!? この人グリテンガルドを知らないみたいですよ!」
「それに地球って……聞いたこともない国のようです! 少なくともアルデバランにはそのような国は地図に載っていません」
なにやら意味のわからない横文字がつらつらと出てきたぞと如月は目を泳がせた。
「私は地獄出身だがな」
「「「地獄!?」」」
っと砕華が話をややこしくし始める。
慌てふためく少女達を治めるのはやっぱり青の少女だった。
「鎮まりなさい。えー、こほん。あなた達があのモンスターの仲間でなく、話が通じる人間というのなら少し話をしませんか?」
「話……ですか?」
「ええ。ここがなんの世界で、あのモンスターはなんだったのか、という事です」
青の少女は語る。
グリテンガルドという彼女達の国に突如空間が裂け、その中から首のない異形が姿を現したと。
それは人々を襲い、国の防衛軍である彼女達が裂け目の中に派遣されたと——
つまり地球とは違う世界からやってきたという事だった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
もし面白いと思って頂けたら
評価とブックマークをして頂けると励みになります。
よろしくお願いします!




