第31話 変わる世界 3
重力の渦の中で砕華は街を飲み込もうとするエネルギーの爆発を見た。
その爆破が直哉とアイリスを飲み込み、、この場所までも届こうとしている。
(このままじゃ街がとんでもねぇ事になんぞ)
腕がへしゃげようが必死に外へ伸ばす。
痛みに堪えながら、絶叫しながらも外へ、外へと手を伸ばす。
そして外へ手が抜け出す事がでできた砕華は魔力を右手の先に集め——
「今日は休肝日だ。夢幻よこの手に集え」
彼女の魔法は日本中のアルコールを魔力に変換する能力だ。通常は自身のアルコールの消費。アクシデントが起こった場合でも付近の住民から巻き上げる程度のアルコールで事足りる。
だがこの爆発から街を守るためにはその程度では足りないと砕華は体をぐちゃぐちゃに、ミキサーに掛けられながらも考えた。
そして放つは砕華の魔法。全国から集まったアルコールの煙が爆発を包み込もうと街中を覆い始める。
後はこの重力の渦から抜け出すだけだ。
抜け出して全力でこの爆破を抑え込む必要があった。
「ぐっ! おぉ、おおおーーー!!!!」
彼女の姿はまるで地獄底から這い出る悪魔のように見えるかもしれない。皮膚は爛れて腕は折れた枯れ木のように歪であった。
人体模型のようにも見える。だが彼女は自身の体の回復よりも街を守る為に魔力を費やす。
この街は親分である直哉と彼の家族であるアイリスの暮らす土地だ。
そんな土地を守るのは子分として当たり前だった。
誰かに頼まれたわけでもない。これは砕華が親分に尽くす義理であった。
「おおオオオーーーーッッッッ!!」
声にならない叫び爆破の衝撃にn負けじと街に響く。ようやく重力の渦から抜け出す事ができた砕華は腕だけ再生させて前に突き出す。
「見せてやんよ! 酒呑童子の底力ってやつをなぁーー!!!」
煙が爆破を抑え込む。だがその威力は凄まじく抑え込む砕華の体がジワジワと後ろに押され始める。
痛む体に乱れる呼吸。今すぐにでも気絶してしまいそうな状態にも関わらず彼女は必死に力を注ぐ。
そんな砕華の頭上、空が、割れた。
まるで鏡に亀裂が入ったように空が割れたのだ。
ピキンと乾いた音がこの場のどの音よりも鮮明に響いた。
砕華は見上げる。
あれは……なんだ。と。
その亀裂から光が差し込む。奥には何かが渦巻くごく菜食の色が見えた。
その亀裂は頭上だけではない。
至る場所が割れて、音が響いて連鎖する。
(これは……この辺り一体の空間が割れようとしてるのか?)
だとしても今はそんな事に気をかけてる場合ではないと意識を爆発に戻す。
ようやく顔が再生した砕華は叫ぶ。あの爆破の中で争っているはずの親分に手を伸ばす。
「直哉!」
***
アイリスに覆い被さり爆破から彼女を守る直哉は砕華の声を聞いた。
彼女が無事だった事に安心しながらもこの状況をどう打開するか朧げな思考で考え目線を爆心地に向ける。
そこには赤い装甲を纏った人間の姿があった。
どうやらあの男の魔力がこの爆破を絶えず生み続けているらしい。
つまり、彼を完全に殺し尽くさなければ、この場を収めることはできない、のだろう。
直哉の目の前には怯えて縮こまるアイリスの姿がある。
彼女はどうしても守りたい。守るべき家族だ。
この状況で守り続けたとしても直哉自身の魔力が尽きて朽ち果てるほうが早いだろう。
直哉は震えるアイリスに頭を撫でるとアイリスは瞳を開けて直哉を見つめる。
「アイリス。今まで俺と一緒に生きてくれてありがとな」
「直哉くん? なにを言ってるんだい?」
直哉は立ち上がる。幸いこの爆発は直哉が壁になり続けることで後ろにいるアイリスに襲い掛かることはなかった。
前から押し付けるような爆風はまるで暴風のようだ。
そんな暴風に逆らうように直哉は足を踏み出す。
「あいつを、止める」
「無茶だ! このエネルギーの中心にいけば君の体は絶対に持たない!」
「だとしても行く。これは俺たちがクルーエルを仕留め損なったせいで起きてしまった災厄だ。誰かが責任を取らなきゃいけない。誰かが止めなきゃいけないんだ」
立ち上がり直哉は——
「砕華ぁ! アイリスをここから逃がせッ! お前なら出来るだろ!」
叫んだ。そんな直哉の声が届いたのかアイリスの周りに渦巻くような白い霧が発生し——
「ま、待つんだ直哉くん!」
アイリスの体が吸い込まれ始める。
それを見た直哉は歩く。歩く。歩く。ただひたすらに重い一歩を歩み続ける。
たった一歩が直哉にとっては何百キロという距離に錯覚させた。
それほどまでに強い風圧と熱。
「俺はもう死んだ身だ。この命の使い所はここだろ」
「ダメだよ。君の命は僕の物だ。僕と一緒に生きるんだ」
「悪いなアイリス。それは無理だ。お前を生かす為にも俺は行く」
「どうして、どうして言うことを聞いてくれないんだよ。今まで僕のお願いを聞いてくれた君がどうして今は聞いてくれないんだ」
「それは——」
言おうとしたがやめた。それを言ってしまうと公開しそうだった。直哉は後ろでアイリスが語りかけてくるのを聞き流し、決意する。
なにがなんでもこの爆発を止めると。
そしてようやく辿り着いた爆心地。口を大きく開け、白目を剥いた自身とそっくりな人間兵器。
そんな彼に拳を向ける直哉はアイリスに振り返り一言——
「じゃあな。またあの世で会おうぜ」
「行かないで——」
アイリスが霧の中に消えた。
そして直哉は人間に拳を叩き込む。
まるでプレス機で押し潰すように。
瞬間爆発は苛烈になった。直哉の体は熱で溶け、塵も残さず消え失せる。
その余波は繁華街を飲み込み、新東京の都市を覆い尽くさんばかりの災害と化した。
溶けていく直哉思考が最後に見せたのはアイリスの笑顔だった。
走馬灯……という物だろうか。
(最後に思い出せたのがお前の笑顔で良かったよ……)
爆発の中空を見上げる直哉はこの日、再びこの命を終えた。
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