第30話 変わる世界 2
人間と直哉。2人の直哉の激突は熾烈を極めた。
どれだけ兵器の直哉が攻撃をぶつけても人間はケロリとしている。どうやら赤い装甲には自身と同じ再生機構が搭載されているようで攻撃するたび即時に回復してしまっているようだった。
それもそうだ。この再生機構は元々Dr.クルーエルが考案した理論なのだから。アイリスの方が真似て直哉に搭載した物であって、向こうの人間に搭載された再生機構の方がオリジナル。性能も上だというもの。
(だけど、そんな再生機構にも弱点はある)
それは先ほど直哉自信が身を持って体験した。
『一撃を持って相手の心臓を破壊する』というもの。
再生すら間に合わせないほどの一撃必殺を叩き込めることが出来たのなら如何にクルーエルが作りし最強の人間兵器であろうとも倒すことは出来るはず。
問題があるとすれば直哉自身に宿っている魔力の総量が残りわずかだという点。
直哉は感覚で理解していた。
自身の魔力量がそこまで高くないということを。
それは恐らく再生機構と超パワーに魔力を割いているからだろう。
(チャンスは1度きり……か)
直哉は拳を握りしめる。
残りの魔力を、再生機構を切って超パワーにずべて注ぎ込む。そうすればきっと、恐らくあの人間兵器に届くはずだと。
だがその為には遠く空を飛ぶ人間に力を温存しながら距離を詰める必要がある。
果たして出来るか?
一筋の汗が頬を伝う……ヒューマノイドのはずなのに……。
「お前もようやく限界がきたみたいだな!」
「限界? なに馬鹿言ってやがる。こっからだろ? 正念場ってやつさ」
「ヒューマノイドのくせになに人間様らしいこと言ってんだよ!」
人間が空を駆けて直哉に突撃してくる。まるで射抜かれた矢のように、スナイパーライフルから放たれた一つの弾丸のように人間の体が速く動く。
「人間だよ。馬鹿野郎」
チャンスだ。向こうが近づいてくれるというのなら是非もない。と直哉は拳をそっと握り締める。
少し後ろにはアイリスが祈りを捧げるように手を組んで直哉に目を向けていた。
「ぶっ壊れろぉぉーー!!」
人間にとって、兵器である直哉は酷く忌まわしい存在だったのだろう。あのまま遠距離で攻撃していれば無償で突破できたはずであるのに、こうも無駄に距離を詰めてきたのだから。
だが、同時に直哉には彼の考えも理解できた。
なにせ元は同じ人間なのだから。
(ムカつく奴はこの手で直接ぶん殴ってやらないと気が済まねぇもんな)
再生機構をオフにする。これで今からどんな攻撃を受けても直哉は致命傷になりうるし、受ければ敗北は確定する。
だがそれでよかった。そうしなければならなかった。
リスクを負わなければこの人間に勝つことなんて出来ないのだから。
「やってみろよ。人間!」
刹那。人間の必殺の一撃が空を引き裂き眼前に迫った。バチバチと放電しているのがよく見える。
コンマ何秒ほどの時間だろうか。
直哉は自信が機械の体で良かったといまほど思ったことはない。
(こんなにピンチなのに冷静で居られるんだからな!)
「直哉くん!」
アイリスの祈りが聞こえる。直哉にはそれだけで力が漲るような気がした。
ここで負ければアイリスが危険に晒されてしまう。復讐の対象になってしまう。
それだけは嫌だった。認めたくなかった。
たてえこの体が砕かれようが魂が穿たれようが、それだけは阻止してみせると直哉は気合いで人間の攻撃をギリギリで回避してみせた。
「ぐっ!! そぉ!!」
スウェーで回避すると人間の目が悔しげに直哉に向いた。そして無防備になった心臓目掛けて穿つのだ。
直哉の全力を。魔力を全て込めた必殺の正拳突きを。
「お前はもう死んでんだ。死んで俺に引き継がれたんだ。だからここはもう俺の世界だ。お前の世界はもう終わったからここで寝てやがれェェェーーーーッ!!」
ズガンと直哉の拳が赤い装甲を貫き生暖かい肉の突き破った。その中にあるはずの心臓を貫いて。
「ごぼぉ……」
人間の口から血が溢れる。赤い装甲はまるで鱗を剥がされた魚のように一枚ずつ破片が体から滑り落ちていく。
膝をついた人間を見て直哉は確信した。勝利を。
「はぁ、はぁ、終わりだ」
「馬鹿な……俺が? 負けた? 偽物に? くそクルーエルの奴。なにが最強のイリーガルウェポンだ。こんな旧型に負ける出来にしやがって……」
悔しげに呟いてはいるがこの人間。立ち上がる様子が見られない。恐らく立ち上がるだけの力がもう無いのだろう。
直哉はそんな人間に背を向けてアイリスの元へ。
だが目に入ったアイリスは直哉に何か叫んでいた。
必死な様子で、『まだ終わってない』と——
「良くやってくれましたね2人の高井直哉さん」
「!!?」
振り返ると、そこには砕華が足止めしていたはずのクルーエルが人間の側に立っていた。
「さすがリーデリッヒで私のオリジナルの計画を阻止しただけのことはありますねぇ」
「クルーエル。お前!! ぐっ……」
駆け出し1発ぶん殴ってやろうと直哉は踏み出したが膝をついてしまう。限界がきたのか、足に力が入らなかった。まるで錆びた鉄のように思うように体が動いてくれない。
「クルーエル! なんとかしろ! このままじゃ偽物に負けてしまう!」
人間がクルーエルに怒鳴っていた。
このままでは2人がかりで襲われてしまうと直哉は歯を噛み締めた。が——
「貴方は負けたのですよ高井直哉。潔く敗北を認めなさい」
「なっ!? クルーエルそれはどういうことだ!」
そんな仲間である人間を無視して1人でに拍手し始めた。まるで劇場のクライマックスシーンに差し掛かった俳優のように。愉快に。
「いえね。実を言うと別に貴方が偽物か本物かなんて心底どうでも良かったのですよぉ。私の目的はただ一つ。次元の統合。無限に存在する次元世界を1つに纏める。これが叶えることができればその他のことなんてどうでも良かったのです」
「裏切ったのか! クルーエルッ!!」
「違いますよぉ。言ったでしょう? 最初から貴方を仲間だと思っていなかったのですよ。あなたは真の障害であるそこの兵器の無力化。それだけさえ達成して貰えればいいだけでしたので」
どういう、ことだ? と直哉はクルーエルに投げ掛けた。
「言葉通りの意味ですよ。イリーガルウェポンを持っても貴方を破壊することはできなかったのに、また同じ兵器で戦って勝てる見込みなんてあるはずないでしょう? なので貴方の存在は無視して計画を実現することにしたのですよぉ。答えが分かっているけど難しくて理解できない公式。その公式をすっ飛ばして答えに行き着こうと考えたといえば理解できますぅ?」
小馬鹿にするようにクルーエルが直哉を見下す。
そんなクルーエルにアイリスが怒りを露わにした様子でやって来て、
「クルーエル。君というやつはそのためだけに直哉くんの肉体を拾い上げ魂を蘇らせたというわけかい」
「ええ。とは言っても? そこの人間も高井直哉という人格を再現した劣化コピーであることに変わりはないんですがねぇ」
「なっ!?」
自信を本物だと言い続けていた人間が、クルーエルの言葉に顔を見上げた。その目には同様、そして絶望が見える。
「なにを驚いているのです? 魂の蘇生なんて出来れば死んだ私のオリジナルをすぐに呼び戻すでしょう? 貴方は私が対高井直哉のために作り上げた人格データですよ。まあ? 怒りとか憎しみの感情配分は偏らせていただきましたけどね」
「そんな……俺が、俺も、偽物だって……」
「健全な肉体に魔力は宿ることが証明できたので、そろそろ貴方も用済みです。最後の仕事をしてもらってからゆっくりあの世でバカンスでも楽しんでいてください」
「君は……どこまで人間を馬鹿にするんだい!」
アイリスがクルーエルに詰め寄る。
「アイリス! やめろ!」と直哉が止めようと手を伸ばすが、思ったように手が動いてくれない。
まるで地面に強力な磁石がくっついているのかって程に手が地面から離れてくれなかった。
「君だって私と変わらないでしょう? 愛した人間を安らかに眠らせることもなく。こうして魂を再現して永遠の苦しみに捉えているというのに」
「君と僕は違う!」
「違わないですよぉ。なんでしたら君の方が残酷だぁ。指名も与えずただ永遠に生きていろと兵器に命令する貴方の方こそねぇ。兵器は使ってこそ初めて輝く。貴方にもそう教えたはずなんですけどねぇ。残念です」
クルーエルは人間……だった男の方に手を置く。
「さて高井直哉さん。最後の仕上げといきましょうか」
「なに……を」
クルーエルは人間だった男、胸に空いた嗚呼に手を突っ込んだ。そして鍵を捻るかのように手を回して引き抜く。
男の目から光が消えた。虚な目、そして彼の口から人間と思えない聞き馴染みのない機械音声が垂れ流れ始める。
「システム起動。管理者権限認証確認。最終プロトコルリビルドワールド開始」
「お、お前……なにしやがった」
直哉はクルーエルに吠える。
クルーエルはキヒヒッと笑い空に浮かび上がる。
「世界の再誕ですよ。あー。この世界の知識で言えば? 転生? ですか。まあ対象は人間ではなく世界そのものに対してですが」
「降りて来やがれ……今すぐぶっ倒してやる」
「はっはっは。無理でしょう? あれだけ魔力を消費したのですから。それではみなさん。ご機嫌よう。運が良ければ再誕しt世界で出会える日を楽しみにしておきますねぇ」
「クルーエルッ!!!」
狂笑を響かせながらクルーエルの姿が虚空に消えた。
目の前の男は機械音声でよくわからない言語を呟き続けている。それを聞いたアイリスが——
「これはッ!? まずいよ! 早く逃げないと!」
直哉の肩に手を回して立ち上がらせようとする。
「なにがまずいんだ!?」
「あの兵器。この辺り一体を爆破するつもりだ」
「なんだって!?」
「時間にして後3分。もう止めることはできないだろうね。だから早くここから逃げないと……」
持ち上げようとアイリスが力を込めるが直哉の体は微動だにしない。なにせ機械の体だ。体重にして200キロはある。中学1年生の少女1人で持ち上げるなんてとてもじゃないけど不可能だ。
「アイリス、俺は放って逃げろ」
「ダメだ! 君も一緒に逃げるんだ!」
「アイリス! 無理だ。俺の体は200キロあるんだ。砕華が居ればなんとかなったかもしれないけど……くそっ。こんな時に砕華の奴どこ行きやがったんだ!」
後ろで『カウントダウン開始』と呟く音声が聞こえる。
カウントが始まる度直哉の体は焦りで干上がっていくような感覚に陥った。
「アイリス! 頼むからお前だけでも逃げてくれ!」
「いやだ! もう君を目の前で死なせたくないんだ! 耐えられないんだ。もう大好きな人が死んでいくのはッ!」
アイリスの目から大粒の涙が溢れた。
「だったら一緒に死ねってか? ふざけんな! なんのためにお前をこの地球に連れて来たと思ってやがる! お前が普通の子供みたいに生きていくためだぞ!」
「そんなの要らない! 僕は君と、君とずっと一緒じゃなきゃ生きてたって意味がないよ!」
この分からずや! と言いたいがそんな言い争いをしている場合じゃないと口を注ぐんだ。
爆発の規模は? 威力は? ここかあアイリスを逃したとしても爆発に巻き込まれる可能性もある。
だから直哉は考えた、必死に、懸命に。
(魔力……)
この力が後どれだけ持つか分からない。だけどこうして直哉の体を機能させているということはまだ魔力は残っているだろうことは分かる。
『カウント5』
もう時間がなかった。
直哉は動かない体を無理やり動かしてアイリスを押し倒す。
「直哉くん? なにを、なにをするんだ!」
「悪りぃ。もうこうするしかねぇ!」
残る魔力を——再生機構に。
カウントが0を発した。
瞬間——
本物だと思われた人間兵器が爆発し直哉とアイリスは僕炎とは違ったエネルギーの衝撃に巻き込まれた。
背中が爆発の衝撃に引き裂かれようが、体内のパーツが飛び散ろうが残る魔力を全て再生に回して抗う。
「爆発が!?」
「大丈夫だアイリス。お前はなにがなんでも守ってやるからな」
涙で目が腫れて真っ赤なアイリス。
彼女に抱きつくように直哉は爆破から彼女を守る。守り通す。彼女だけは傷付けてはならないと、心配させてはいけないと直哉は笑顔を向け続ける。
昔話をした。まるで子守唄を歌って子供を寝かしつける親のように。
リーデリッヒで初めて出会った時のこと、子供だったアイリスは『クソガキ』だったが今は年相応の少女に成長したということ。
いろいろ話した。そして謝った。
海に行く約束は叶えられそうに……ないと。
「だめだよ。ダメだダメだ! 君も生きて帰るんだ。僕をひとりにしないでくれよ……」
直哉にはもう言葉を発するだけの余力すらなかった。
目の前で泣いてる女の子1人を慰める気の利いた言葉すら出せない情けない男だと思った。
でも、笑顔だけは浮かべ続けた。彼女が不安にならないように。
(大丈夫、お前は1人でも生きていける……だってお前は天才科学者高井アイリスだろ?)
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