第29話 変わる世界 1
「は、はは! キハハハ!! これで勝負は決しましたぁ! もはやあの兵器に高井直哉を倒す術はありませんねぇ!」
「黙れクソ雑魚」
地べたに倒れ伏すクルーエルの頭部を踏み締める砕華。
だがクルーエルは狂ったように笑い続ける。目線の先には直哉と赤い装甲を纏った人間が今も戦っているようだが、形勢は赤い装甲を纏った人間の方に軍配が上がっているように砕華には見えた。
「まさかあの兵器に魂が宿っていたとは思いもしませでしたよぉ。あなたがそばに居たせいですかねぇ? 魔力を宿してコアの代わりに心臓を再生させてしまったようですが、いかんせん出力が足りないみたいですが」
「うるせぇ。直哉が負けるはずねぇだろうが。出力がなんだ? んなもん気合いでどうにかすればいいだけだろうが」
「気合い? 無知蒙昧な返答をありがとうございます。気合いでどうにかなるのであればこの世は簡単に出来ていませんよ。良いですかぁ? 現実というのは根性論なんてものは微塵の役に立たないのです。問題に対する考察、検討、構築、実践の上に結果が成り立つのであって、そこに気合いなどという曖昧な精神論が入り込む余地はないのですよぉ」
砕華はムカつくと思った。唾を吐き捨てクルーエルの頭を踏み潰そうかと思うぐらいには体重をかける。
だが殺しはしない。この男は砕華達魔物の無実を機関に証明するために必要な証人だ。
腹立たしいが生かすほかない。故に砕華は忌々しいとクルーエルから目を背けて直哉達の戦いに視線を移した。
「もうすぐです。もうすぐ。私の野望は叶う」
「野望? アイリスと直哉への復讐か?」
「それもありますがぁ、本来の目的ですねぇ。どうせもう実現は目の前です。愚かなあなたにも教えてあげましょうかぁ。私の目的は次元を1つに統合することです」
「次元を1つに、統合?」
意味がわからないと砕華は思った。
そんなことしてなんの得がある。敗北しかけているクルーエルの命は砕華の足に掛かっているというのに何を勝ち誇っているのか理解に苦しむ。
だがクルーエルはそんなことにも気にせず語り続ける。
まるで自分の計画が素晴らしものであるかのように、テストで100点を取った子どものようにキラキラとした目で語るのだ。
「この世界は狭苦しいですよねぇ。その世界だけの構築理論、未知の語術に、理。私はですねぇ。その全てを1つにまとめて混ざり合った世界を見てみたいのですよぉ」
「しょうもねぇ。んな事したってお前はここで死ぬ——」
「殺す気がないくせにぃ?」
砕華の顔が引き攣った。
クルーエルは踏まれながらも顔を砕華に向ける。狂笑を砕華に向ける。
「あなたのおかげで、私はこの夢のような理論に希望を見出しましたぁ。あなたという存在があの兵器に魔力を注ぎ込んだじゃないですかぁ。この地球で生まれた高井直哉が私の世界のリーデリッヒで死に、魂をアイリスが構築、そしてあなたの存在が彼に魔力を宿した。いわば? あの高井直哉という兵器は1つの体に3つの世界の断りが混同している状態なのです」
クルーエルが立ちあがろうと顔を上げようと力を加えていく。砕華は思い切り踏みつけようとしたが——
(なんだこの力は……)
クルーエルは瀕死だというのに力が戻っているように砕華の足は持ち上がっていう。
「これが全次元の全て統合されたらどうなるのでしょうか。未知の存在が現れるのでしょうかぁ? それとも独自に進化した技術が生まれるのでしょうかぁ? それともどこかの次元の技術に侵食されてしまうのでしょうかぁ? 私はですねぇそんな世界の結果が知りたいのですよぉ」
「ぐっ」
とうとう踏みつけていられなくなった砕華は少し後ろに飛び下がりクルーエルから距離を置いてしまう。
立ち上がるクルーエルの体は発光していた。
まるで、魔力を宿しているように……。
(いや、こいつ、魔力を宿しているのか?)
立ち上がったクルーエルは壊れた人形のように首を傾けて砕華に目を向ける。
口が三日月型に吊り上がる。
「貴方の魔法の使い方を観察して、ようやく魔力の練り方を理解しましたよぉ。魔法、というのは貴方と相対するまで原理を改名出来ませんでしたがこの目で見て体感したことでようやく私の頭にインプットができたので感謝を……」
トントンとクルーエルは自身の頭を突いた。
砕華は魔力を解放し拳を振るうと拳型の煙がアルコール臭を纏ってクルーエルに向かう。
放たれた煙をクルーエルは片手で受け止めて——
「原理さえ理解してしまえば——」
霧散させて消してしまった。
砕華は驚愕する。
彼女の人生に自身の魔法をこのように霧散させた存在はいない。
いたとしても正面から打ち砕く者ぐらいだ。それなのにこの男はまるで煙を祓うかのように簡単に魔法を消してしまったのだ。
「魔力、魂の力ですか。貴方の魂は力に満ちてますねぇ。ですが力がありすぎるが故にお粗末としか言えません。私に言わせればぁ? こんな魔法はギュッと固めた肉塊となんの変わりはありません。私ぃ、この世界のハンバーグという料理が好きなんですよぉ」
クルーエルは両手で渦を作るように胸の前で回転させる。その胸の前にドス黒い球体が現れた。
「ハンバーグというのはですねぇ。肉の他に野菜、そして繋ぎと言われる物を組み合わせて一つの塊に構築するのですよ。要はそれと同じです。貴方のは肉100%のハンバーグだとすれば、私のこれは魔導力、魔力の混成ハンバーグというわけですねぇ」
「ハンバーグ博士かよ! だったら家で1人虚しく肉ダネを捏ねてやがれ!」
あの球体を解き放たれてはマズイと砕華は駆け出した。
彼女の魔法はクルーエルによって霧散されてしまった。
つまり遠距離攻撃をどれだけ浴びさせようが無効化されてしまうのは明白。だからこその近接戦を挑もうと考えた。
「貴方にもわかりやすいように説明したのであって、ハンバーグ専門のドクターではないのですがねぇ」
だが砕華の動きよりも早くクルーエルの魔法は解き放たれた。
そのドス黒い球体は辺りにある瓦礫や地理、酸素までも吸い込み、稲妻を発して砕華に向かってくる。
砕華は動きを止めた。いや止められた。
踏ん張らなければ今すぐにでもあの球体に吸い込まれてしまうといった重力に晒されてしまったからだ。
クルーエルは狂ったように笑う。高らかに。
「キハハハッ!! どうですこれが魔法です! 私の、私だけの魔法! 重力を1箇所に集めて生み出す無限の引力。ブラックホールですよぉ」
砕華は振り返る。このブラックホールを避けることは出来る。が——この車線上にはアイリスに直哉の2人がいる。
こんな物を2人の元に向かわせたら無事では済まないだろう。
故に砕華は足をコンクリートに突き刺すように踏ん張り両手を広げる。
『受け止めてやる!』そう言ったように。
「キハハハッ!! 如何に貴方でもこの魔法を受ければ無事では済まないでしょう。まあ死にもしないでしょうが、時間稼ぎには十分でようねぇ」
その通りだと砕華は心の中で認めた。
この程度で死ぬことはないが重力の渦に巻き込まれるとあの空体の中から外へ抜け出すことは難しいだろう。
重力の渦に体を引き裂かれ、体が再生し無限の痛みが砕華を閉じ込めてしまうのは目に見えている。
だからこそクルーエルは時間稼ぎと言ったのだろう。
「くそっ!」
「暫くその重力の中から世界が転生する瞬間を見ていると良いでしょう。もう間もなく化学実験ショーは終幕を迎えるのですから」
クルーエルは飛び立った。直哉と、アイリスのいる方向へ。
だが砕華は追うことを許されない。今すぐにでも追いかけたいが、この魔法をこのまま放っておく事なんてできないのだから。
(直哉、アイリス。すまねぇが、そっちは任せたぞ——)
そうして砕華の体は重力の渦に飲み込まれた。
体はズタズタに上下左右に引っ張られたり押し込まれたり、自分の体が団子のように捏ねられるとこんな感じなのかと痛みに絶叫しながら考えてしまうのだった。
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