第28話 たとえ偽物だとしても 3
直哉と人間。2人の激しい激突は見る人が見ればまるで映画の撮影か何かだと勘違いする光景だろう。
目に負えない速度でぶつかり合い、眩い閃光が飛んでは軌道を逸らしてビルに激突しって崩壊させる。
ヒーロー映画、もしくはアニメのような現象のようではあるが決してそのような仮想の事象ではない。
現実だ。現実に超常同士の激突で街が悲鳴を上げているのだ。
「なんでお前から魔力を感じるんだ! 偽物!」
「んなもん知るかよ! 俺の本物だってんなら脳みそが足りないことぐらい理解してるだろ? それともなんだ? 馬鹿の自覚がないあたりやっぱ偽物はお前の方なんじゃないのか?」
「こ、このぉ!」
人間が直哉に拳を振るう。それをカンフー映画で齧った程度の技術で払いのける。
さすがクルーエルが作り上げた人間だけあってパワーは直哉と対等に張り合えるだけは備えられていた。
肉弾戦の激しい応酬の最中、直哉は考える。
魔力がこの体に宿っていると人間が言った意味を。
己の体内、機体の中に流れているのは魔導力だったはずだ。なのに魔力と人間は言った。
人間を蹴り飛ばして胸に手を当てる。
(そういえば俺のコアはぶっ壊されてたんじゃ無かったか?)
人間が確かに直哉の胸を貫き、コアを握り潰したはずだ。それはアイリスがリーデリッヒで作り上げたたった一つの動力。無限にも似た力を引き出してくれる力の根源。
直哉は見た。胸を貫かれた時に人間がコアを破壊した瞬間を。
ならなぜこの胸は塞がっている? このパワーはどこから?
同時に感じる。胸の中に鼓動が脈動しているのを。
心臓……か?
「それだけの魔力を目覚めさせるだけの魔物と接触した事実はお前には無かったはずだ。それにこの世界の魔物はお前には見えないはずだからな!」
「魔物と……接触……なるほどな」
今の人間の言葉から直哉は思い出す。
初めて魔物を触れた時、如月を助けた夜の路地裏で初めて魔物に触れた。
そして砕華と出会い共に暮らす中で接触は何度かあった。
それが魔力を宿す条件だとしたら——
「なぜだ。なぜだ! 魂を宿した存在にしか宿せない魔力が、なんで機械のお前なんかに!!」
人間は空中にいる直哉に飛び掛かる。
まるで放たれた砲弾のように迫る彼の淡く光る拳を直哉は受け止める。
とんでもない力だと直哉は思った。
だがそれでも直哉を穿つ事がなければ吹き飛ばすこともできない。同じ土俵——同じ力だ。
レベルが同じ同士の戦いなのだから当然だろう。
必死な人間に直哉は思わず笑みを溢してしまう。
「へぇ、魔力って魂がある人間にしか宿せないのか……」
「なに笑ってんだよ偽物!」
「いや〜? それってさ、俺にも生き物らしい魂が宿ってるって証明なんじゃないのかなって思ってな!」
互いの拳が交差する。互いの頬に拳が突き刺さり遥か数十メートル吹っ飛ばされ、ビルを突き破り埋もれる。
直哉は瓦礫の中を立ち上がりながら笑う。
人間は直哉を偽物だと言った。
機械で再現された高井直哉だと。
だがそんな直哉は今魔力を宿している。
それはつまり今この体を持った自信は生き物として認められたということではないだろうかと。
魔力の効果についてはまだ分からない。だが分かっていることは直哉がロボットでありながら魂を宿した生き物である事実。そしてロボットの時となんら変わらない力を振るうことが出来る事実だけだ。
自分の体を眺めていた直哉の目の端にキラリと煌めく光が映った。瞬間それを人間の攻撃だと判断して飛び込み前転するようにビルの瓦礫から飛び出す。
「魂だと!? ふざけるな! そうだ気のせいだ。これは俺の気のせいだ! お前が魔力を宿してるはずがない。魔物と触れ合わず、機械のお前が——」
「残念だったな! 俺はもう既に魔物と触れ合ってんだよ! ならこの力は魔力なんだろうさ。つまり俺は……魂を持った人間って事になるわけだ。高井直哉の記憶を持った魂、お前の言う通り本物じゃないかもしれないけど、少なくとも今の俺は高井直哉を引き継いだ高井直哉に似た人間だ!」
「認めるか! お前が高井直哉だって認め止まるかぁーーッッ!!」
今度な直哉から人間に飛び掛かる。
タイミングを測ったのか拳を振るってきたがそれをヒラリと躱して肘を殴りくの字にへし折る。人間の顔が苦悶に歪む。
「認めるか、高井直哉は俺だ! 俺こそが本物だ! 返せよ、そこに立つのは俺だ! 俺の居場所を奪ってんじゃねぇよ!!」
「奪ってなんかいない! ただ俺はここに立っているだけだ! 高井直哉としてな!」
互いに譲れない物があるようにぶつかり合う。
この戦いに人間はキリがないと呟き右手を伸ばして——
「来い!」
叫んだ。直哉の遙後方から赤い飛翔体が横切り人間の手に収まる。それは大きな赤い鋼鉄の塊だった。
確か、人間が出てきた恐竜型のロボットの装甲……だったはずだ。
「お前が俺と同じ力を持ってることは認めてやる。だがその居場所は俺のものだ。俺こそがそこに居るべき存在だ! だから奪う。奪ってアイリスに復讐してやる! お前を助けたせいでこうなったんだって、人生を台無しにされたんだってな!」
赤い装甲が人間の体に纏わりついていく。
まるで魚の鱗が虫でも這うようにからだにぺたぺたとはりついていくのだ。
瞬く間に人間の体は赤い装甲を纏った兵器、ロボットのような姿になり、背中には機械仕掛けの翼がエネルギーを炎のように宿していた。
「これはクルーエルが作った俺専用の武器であり防具だ。機械の体に痛みを感じないお前が卑怯なんて言う訳ないよな?」
「へぇ、そんなおもちゃに着替えて俺と同じ土俵に立ったって言いたいわけか? お子ちゃまかよ。そんなお前に耳寄り情報を一つ。今の時代そんなおもちゃぐらい5000円払えばネット通販でも買え——」
「ほざけ!!」
瞬間、直哉の視界から人間の姿が消えた。そして背中に重い衝撃を感じて直哉の体はくの字に折れ曲がり人間砲弾の如く空に飛ばされた。
「これはイリーガルウェポンだってクルーエルが言ってたぞ? お前がぶっ壊した兵器から作り上げた装備だ。そんな兵器を前に馬鹿言える余裕がいつまで保つかな」
追撃、直哉の体に目で追えないほどの速度で拳が叩きつけられる。
体はグシャリと凹み、腕はカニを食べる時にへし折るように折れ曲げられる。
だが、直哉には再生がある。瞬時に再生させて反撃に移ろうとするが既にそこに人間の姿はない。
虚空を殴って背後を振り返ると光線が二つの直哉の胸に穴を焼き開けた。
「魔力には——」
人間が何か呟いている。直哉は胸を再生させながら奴に目を向ける。が——再生が遅いと直哉は少し驚いた。
「限界があるはずだ、動力コアを失ったお前が魔力を宿したことは認めてやる。だが以前の時よりもその力を振るう事ができないはず。現にお前の再生は速度を落としてるからな」
(こ、こいつ。そこまで見てやがるのか)
確かにさっきから思ったように再生が働いていないと直哉は気付いていた。
まるでタイムラグがあるように少し遅れて体が再生する。再生してから体にのしかかる怠さ。魔力の限界……だろうか。
もし人間の言う事が事実であれば、直哉が力を振るえるのはあとどれぐらいだろうか。
考えると直哉の胸の奥から焦りが込み上げてくる。鼓動が激しく打ち付け呼吸が苦しくなっていく。
ヒューマノイドのはずなのに、呼吸が苦しい。だが今はそんなことを考えるべきじゃない。
考えるべきは『如何に早く、人間を、ぶっ倒せるか』って事だけなのだから。
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