表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンタジーアース〜変わってしまった地球の片隅で〜  作者: ギトギトアブラーン
第1章 高井直哉とアイリス。全ての始まり
27/47

第27話 たとえ偽物だとしても 2

 クルーエルは見た。離れた場所で、自身が作り上げた最高傑作のヒューマノイドと相対しているであろう、かつての助手が作り上げた兵器の覚醒を。


(ありえない。反応は確かに途絶えたはずだ。なぜ立っている? なぜ私の兵器が地に伏している? それにあの力……あれは魔導力じゃありませんねぇ……あれは——)


 魔力——。

 クルーエルには理解できなかった。

 彼はアイリスが作り上げた人造兵器・高井直哉に対抗し、復讐するべく、高井直哉の死体を素材に、地獄を滅ぼした時に生じた魂をエネルギーとしてその身に注ぎ込み作り上げた究極の兵器だったはずだ。

 その兵器に一部の次元にしか存在しない魔力を宿している理由が分からない。


(魔力を宿す条件は生物が魔力を持つ者と物理的接触が必要……。仮に高井直哉に魔力所有者と接触していたとしても魔力が宿るはずがない——)


「おいクソ野郎。どこ見てやがんだアァン!?」


 その声の主は巨躯の女性。名を砕華と言ったはずだと、クルーエルは咄嗟に腕を交差させて彼女の拳を防御する。


 ただの魔物である彼女に、なぜこのような力があるのかもクルーエルには不明だ。

 なぜ傷つけてもすぐに再生するのかも原理がわからない。

 地獄という世界に生きていた魔物に、ここまでの異能は持ち合わせていないはずだと忌々しく睨む。


 今までクルーエルはこのような馬鹿げた力の魔物に出会ったことはない。世界ごとイリーガルウェポンのエネルギーの足しにするために食らわせたが、ここまで高い魔力を持つ魔物は居なかったはずだ。


 そんな目の前の魔物——砕華は拳を振るう。ただの暴力の嵐。クルーエルに打ちつけてくる一発一発がとてつもなく重く、響く一撃だとクルーエルは顔を引き攣らせた。


 負けじと五指からレーザーを放つが、砕華はそのレーザーに体を、顔を、瞳を貫かれながらも、なおも突き進みクルーエルに迫る。まるで……痛みを感じない兵器のように。


「なんなんだ、なんなんですか貴方はぁ!」

「私か? 魔物だよ」

「それぐらい分かってますよぉ! ですがそのような力の持ち主、あの世界には居なかったはず。なぜ今更——」


 クルーエルは頬を殴られながら砕華の体を目で追う。

 ただ体が大きくて、力強いだけの……。砕華を。


「あー。そうか、魔物つっても今の私は普通の魔物にしか見えねぇか。そっかそっか、それは悪りぃな」


 思いついたかのように、忘れていたものを今思い出したかのように砕華は手をポンと叩いた。

 敵であるクルーエルを前にして余裕を見せる砕華に、クルーエルは酷く苛立ち地面を殴りつける。


「いやぁ、だから手加減してくれてたんだな? だから弱っちいんだな? ならすまねぇな……これでどうだ?」


 砕華は額に手を当てて、まるでそこに何か生えているように手を空に向かってなぞる。

 手が上に向かうにつれ、下から赤く、硬そうで鋭利なものが現れた。


 クルーエルはそれを角? だと呟く。

 砕華は笑う。『正解』だと笑う。


「そうだ、角だ。これで分かったか? 私は魔物の中でもとびきり長く生きた存在——鬼人だ」


(長く生きた……魔物!? そうか、そうですかぁ、だから高井直哉があの出鱈目な魔力に目覚めたという訳ですか!? 彼は自身を人間と強く信じ込み再現された人格を魂として確立し、魔力を定着させたという訳ですかぁ!)


 さーて、と言ったように砕華は肩を回してクルーエルにゆっくり迫る。

 クルーエルは立ち上がり距離を取り、五指のレーザーを再び放つ。


(ですが彼女も私の攻撃にダメージを受けているのは確実。ただの回復能力であるのなら、その力の根源に上限はあるはずです。それが尽きることさえできれば勝機はこちらにある)


 そんなレーザーを、まるで蚊に刺される程度の脅威としか見ない砕華は、貫かれながらも駆け出す。

 穴が空いた箇所に煙が吸い込まれるように傷口を塞いでいく。


 あれが回復効果だとクルーエルは見て、空に飛び上がり遠距離からレーザーを放ち続ける。


 高速で軌道を描き、砕華には追いつけないほどに、捉えられないほどに四方から爪のような光が襲いかかる。

 絶体絶命の状況だと言える光景。


 だが砕華はそんなものを拳で払う。

 暖簾をくぐるように自然な動きでレーザーを弾いたのだ。


「一体なんの魔法ですかぁ!?」


 魔物には一体につき一つだけ魔法が存在するという観察結果をクルーエルは得ていた。

 それは地獄を有効活用するか、地獄に住まう魔物を有効活用するかで天秤にかけた時に調べていたものだ。


 結果、彼が選んだのは地獄という世界そのものを利用する道だった。


 魔物は野蛮で統率力もない究極の個人主義社会だ。

 そんな世界の住民の魔物に『軍門に下れ』と言って誰が従うだろう。

 答えは否だ。


 そう判断したクルーエルは魔物を殲滅するため、イリーガルウェポンの実験として世界そのものを滅ぼし、散った魂を回収した。


 その程度の力だった。

 世界を滅ぼせば死んでしまう程度の雑魚だった。

 クルーエルはそう思っていた。思い込んでいた。


「私の魔法か? まあそうだな。このままじゃただの弱い者いじめだしな。いいぜ? ハンデだ。私の魔法を教えてやるよ」


 砕華はまたもやアルコール飲料の缶を取り出して一気に飲み干す。まるで水でもがぶ飲みするかの如く。

 そして彼女は腕を広げてニッと笑うのだ。


「私の魔法は【夢幻ノ宴会】だ! 酔いを糧に魔力を補給し、酔いを支配する魔法だ。酔いがある限り私の体は回復し続けるし、寿命だって伸びる。力だってこの通り夢幻に湧いてくるさ」

「酔い? 酔いですって? たかが一人のアルコール摂取量では確実に賄えないほどのダメージを貴方は負っているはずです。なのになぜ——」

「あー……私の悪い癖だなぁ」


 ——砕華は『あちゃー』と頭を掻いて——


「言葉が足らなくて悪りぃな。酔いは酔いでも私だけの酔いじゃねぇんだ」


 はぁ、と息を吐いて、酒臭い息を撒き散らかしながらトロンとした瞳を空に浮かぶクルーエルへ向ける。

 拳を構える。強く、力強く。


「私が使う酔いは世界中の酔いだ。範囲的に言えば……そうだな、大和国ぐらいの広さか? その範囲に生きてる生き物が一人でも酔っていれば、私はそれを使って魔法が使えるし、夢幻に湧き出る力を手にすることができるんだ」

「は、は?」


 大和国というと日本のことだろうことはクルーエルにも分かる。

 だが分かりたくないのは魔法の範囲だ。

 日本中に住む生き物で一人でも酔った存在がいれば、それだけで魔力に変換できると砕華は言った。

 

 それはつまり——彼女を倒すチャンスは、この世界の人間がアルコールを摂取しない日が偶然にも重ならないと生まれないということではないか? とクルーエルは戦慄する。


「そんな、そんな化け物があの世界にいるはずがない。あの世界は私でも滅ぼせたんです。そんな世界に住んでいた貴方が、なぜあの時抵抗しなかったのです! なぜ!」

「はぁぁ〜」


 砕華は申し訳なさそうに目を逸らした。

 だが拳は握られたまま、それどころか地面はビキィと亀裂が走り、大地が大きく揺れ始めている。


「あん時はさ〜。ほら、宴会が……な? 久々の身内飲みだったからよ〜。んな事に興味なかったんだわ。まっさかそれが世界最後の日だったなんて思いもしなかったがな」


 がっはっは、と馬鹿みたいに笑う。

 同時、砕華の姿がクルーエルの視界から消えた。


「んま、世界を滅ぼしたって私は別に怒ってねぇよ」


 ハッとクルーエルは後ろを振り返る。

 そこには砕華が目と鼻の先にいて……バリバリと拳から雷を迸らせていた。


「滅びる世界が弱かったのが悪いだけだ。死んだ奴らもな。だから気にすんな」


 ただそれだけ言って、軽く穿つように砕華は拳を抜き放つ。


 クルーエルはガラスの壁のような防御障壁を幾重にも重ねて展開した。

 だが彼女の拳は、いとも容易く障壁を砕く。瓦割りの如く容易に。


「これで終わってくれんなよ。だってお前は直哉が警戒してたほどの奴なんだろ? だったら耐えられるはずだ。なんせこの攻撃を直哉は余裕で耐え切りやがったんだからな」


 瞬間、剛腕は雷鳴の如き轟音を轟かせ、クルーエルの交差させた腕は弾け飛び、腹には砕華の剛腕が突き刺さって背中から突き出た。

 中にある部品がいくつも飛び散り、オイルが血の如く地上に降り注がれる。


「がっ……はっ」


(まずい、まずい!! これは——error error。このままでは私の動力が——コアに甚大な被害を確認。recovery program起動——error。思考モジュールが——)


「んあ?」


 痙攣するように顔をガクガクと動かし、表情を電撃を喰らったカエルのようにピクピクさせるクルーエルを、不思議そうに見つめる砕華は首を傾げた。


 腕を引き抜くと、クルーエルは地上に落下してグシャリと非常口に描かれている棒人間のような体勢に崩れる。


「おいおい、マジかぁ。直哉とアイリスのやつ、この程度の雑魚に必死になってたってのかよ」


 砕華は「つまらねぇな」と呟きながら地上に着地して、倒れたクルーエルをツンツンと突く。


「あれかぁ? 頭が良いだけで喧嘩が弱いタイプか。なんだよそんなの、つまんねぇじゃねぇか。あーヤダヤダ、私は好かんねぇ。口だけで腕が弱っちい奴はさぁ」


 私もあっちに行けばよかった、と砕華は呟き直哉とアイリスがいる、とてつもないエネルギーのぶつかり合う場所に目を向ける。


 そこでは空間が割れそうな衝撃波が、砕華の立っている場所まで届いて髪を揺らした。


「んまぁ、あっちはあっちで熱い喧嘩があるし、こいつが邪魔するとも限らねぇからな」


 ゲシッとクルーエルの頭を踏んで、足の下で転がすように遊び始める砕華。


 クルーエルは動かない。

 動かないが、思考だけはしっかりとしていた。


(こうなれば高井直哉……貴方だけが頼りです。頼みましたよぉ。私の最高傑作にして最強の——)


 イリーガルウェポン。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

もし面白いと思って頂けたら

評価とブックマークをして頂けると励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ