第14話 Dr.サイコ・クルーエル 2
サイコ・クルーエル。
異世界リーデリッヒを引っ掻き回した次元戦争を仕掛けようとした魔導科学者。
奴の作り上げた最高傑作イリーガルウェポンを直哉が破壊した時に死んだ。
そんなクルーエルは一度だけ、イリーガルウェポンを使って一つの世界を滅ぼしたとリーデリッヒ国民を恐怖に陥れた。
『次元が異なる世界を1つ滅ぼした』。
通常、リーデリッヒの技術での次元間渡航は大型の設備と多大な魔導力が必要なのだが、クルーエルが作り上げたイリーガルウェポンと呼ばれる兵器は次元の狭間を行き交うことが出来たのだ。
その兵器には世界一つを難なく滅ぼす戦力を備えていたわけだが……。
そんな兵器が世界を一つ破壊したと当時耳にした聞いた直哉とアイリスが所属していたレジスタンスはリーデリッヒの裏で暗躍する魔道科学者を1人ずつ根絶やしにし、その中で起こった内乱を仲間達と共に潜り抜けクルーエルの元へ辿り着いたのだ。
友達、親のような優しい人、その大半の犠牲に成り立った勝利。勝利して全てが終わったと思ったのに……まさか日本でクルーエルの被害を受けたやつと出会うことになろうとは直哉とアイリスは思いもしなかった。
「どうしたんだ2人ともそんな暗い顔して」
砕華の言葉が鋭利なナイフのように胸に突き刺さって痛い。直接彼女の世界を破壊したわけじゃないにせよ、クルーエルを止めるのが早ければ彼女の世界は滅ぶ事は無かったと思うと辛い。
「まあ滅んじまったもんはしょうがないしな。この世界で生きていくことにしたんだよ」
砕華は椅子にもたれながらあっけらかんと言った。
過ぎたことなんざどうだってい。そう言った感じに。
「辛く……ないのかい?」
アイリスが絞り出すように聞いた。
彼女はクルーエルの助手だったことがある。
つまりイリーガルウェポン開発の一任者でもあるわけだ。
当時、子供だったアイリスは歪んだ教育の影響もあってか罪の意識なんてものは無かったのだが、日本に来て5年。人としての道徳を学ぶ中で自分が今まで行っていたことが許されない事だったと知り、今、砕華の境遇に胸を痛めているのだろう。
「辛いだって? あっはっは。ないない。私たち魔物は今が楽しけりゃいいんだよ」
「何人も死んだんじゃないのかい? それなのに楽しいだなんて——」
アイリスには理解できない。仲間を失ってなぜこうも明るく振る舞えるのか。
アイリスは直哉を一度失っていてその時は深い悲しみと怒り、そして絶対に諦めきれないと言った気持ちで渦巻いていたことを思い出す。
そんなアイリスに対して砕華は過去を振り返らない。
「まあな。ダチも仲間も随分と死んじまったが、それは運が悪かったってこった」
運が悪かった。そんな一言で、たったそれだけの理由で失った仲間を悲しまないでいられるのだろうか、いいやあり得ないとアイリスは声を荒げる。
「そ、そんなことで割り切れるわけが!」
そんなアイリスに砕華は笑いながら——「それが魔物なんだよ」と答えた。
唖然としたアイリスは「へ?」と自分でも気づいていないだろう声を出してしまう。
「私たちの価値観の話だが、死は終わりじゃねぇ。旅立ちなんだ。新しい生き方を見つけに行くってな。だから笑って酒を飲んで、騒いで、殴り合って、旅だった奴らが『やっぱ旅立たない方が楽しそうだったじゃん』って嫉妬させるんだよ」
それが魔物の死生観だろうか……。だけど、その考えはなんとなくだけど良い物だなと直哉は思う。
(笑って見送られた方がさ、俺も死んだ時嬉しいしな。まあ、この体だし、もう死ぬことはないんだけどさ)
「そんなことよりも、機関に勘違いされたまま暮らすのは辛いんだよ」
それもそうだ。昔の因縁が曲がり曲がって敵として勘違いされた状態が現在。
ただ住む場所を追われてこの世界にやって来ただけなのに命を狙われようとしているのだから気が気ではないだろう。とここで直哉は思い出す。
鬼と初めて会った夜の路地裏。そこで魔物を握り潰さなかったか? と。
「俺も1人、魔物を握り潰したんだけど……」
直哉は引き攣った笑みを浮かべて、すぐにこの顔はマズいと思い、申し訳なさそうな顔を浮かべようとするが、なんだかよくわからない表情になってしまう。
気まずそうに笑っているようであり、笑って誤魔化そうとしているようでもある。そんな顔だ。
そんな直哉の言葉に砕華は、はっはっはと軽いノリで笑う。
「そりゃ握りつぶされる奴が悪いわな。笑ってやれ。そうすりゃ、そいつも別の世界で『俺、意味わかんねぇ奴に潰されちまってさぁ〜』って笑い話ができるだろ」
だから謝るなと。振り返るなと砕華は笑った。泣いて見送る人間に対して魔物は笑って送り出す文化のようだ。
「まあそんなどうでも良い話は置いておいて、私はお前との喧嘩に負けたんだ。これからはお前が親分ってことで今後ともよろしく〜」
「は〜い……って親分!? 今後ともよろしくってなんだ!?」
そんな話は聞いてないと直哉は席を立ち上がる。
喧嘩に勝てば下に付くとか言ってたけどまさかそう言う意味だったのかと、猛抗議する。
「親分は子分を養う義理があるだろ。お前は私の初めてを奪ったんだからさ」
わお……っとアイリスが頬を赤らめたが、直哉はそんなアイリスに目もくれず砕華に突っ込む。
「語弊のある言い方はやめろ!!! 分かってんだぞ。その初めてが喧嘩に負けたってことぐらい!」
「んだよ。だったらマジで捧げてやろうか? 私の処——」
「ダメダメ! それはダメだよッ!!」
っとここでアイリスが止めに入った。
こんなゲスな話を年頃の中学生が聞きたいわけないよな〜と直哉は若干の申し訳なさが募る。
「分かった分かったから下ネタはやめろ。あと俺はヒューマノイド。機械だ。お前の分かるように言うところカラクリ人形だから生殖本能なんざねぇよ」
「なんだ、つまんねぇなぁ」
砕華はぶーっとタコみたいに唇を尖らせた。
というか処女だったのか……そのなりで……って言うのは野暮だろうと口を閉じる。勿体無いとも思う。性格は男まさりではあるが綺麗どころではあるのだから。
「だがここに住むってんならアイリスの許可がないと……」
「僕は別に構わないよ。その代わり……君のことを調べたいなぁ〜。体の中とか内臓とか——」
ってワナワナと手を蠢かすアイリス。
きっとマッドサイエンティストモードに突入しちゃったのだろう。流石に体の中を調べ尽くされるのは伝説の酒呑童子であろうとも——
「なんだ私を調べるぐらいで住まわせてくれるんだったらいくらでも調べてもらってもいいぞ。ほら」
拒否することなく応じたことに直哉は「やだ逞しい!」と驚いた少女のように手で口を覆った。
それよりも服を脱いでダプンと大きなお胸が顕になる砕華を両の目で捉えてしまう。
めっちゃ綺麗な乳首だと思った。だがいやらしい気持ちが起こることはない。なにせ堂々と曝け出したんだから。
人間って不思議だ。恥じらいなく体を曝け出すといやらしさも薄れるらしい。
「よっし! なら君はここに住んでよしだ! 直哉くん。新しい同居人が増えたんだ。今日は宴会だよ!」
「宴会!? 酒は! 酒はあるのか!」
「無いけど……買って来たらいくらでも飲めば良いじゃないか! 今日は記念だ。ほら直哉くん買って来たまえ! コンビニならこの時間も空いてるだろ? 24時間営業なんだし」
ガハハハと笑い合うアイリスと砕華。
(ってかアイリス、お前さっきはシリアスだったのに気に代わりが早いんだよ)
いや……もしかしたら砕華の笑うことで手向けになるって言葉からそう取り繕ってるのかもしれない。
そうだとしたらここで水を刺すのはいただけない。
直哉は「へいへい。わかりやしたよ」と1人近場のコンビニを目指すことにした。
そういえばだが直哉の見た目は18歳で止まっているのだが、酒は買えるのだろうか?
そんな事を考えつつ、1人夜道を歩きながら夜空を見上げるのだった。
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