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第39話 花の才能

 バケモノの攻撃によって官邸の壁がまるで爆発でも起こったかのように半壊した。

 花たち3人の魔法使いは外へ飛び出し、空から官邸内のバケモノ3体と対峙していたが、バケモノたちも外へ飛び出してくる。

 壁を砕きながらよじ登る者、空へ飛び上がる者、建物の中からいくつもの瞳を3人に向けてくる者。

 空に上がった翼を持つバケモノが突進を仕掛けてきた。

 シエルは2人の前に出て杖で防御するが、あまりにも体格差があって勢いそのままに後方へバケモノと共に連れていかれてしまい、リーンが叫ぶ。

 

「隊長!」

「こっちは問題ないわ。それより、来るわよ!」


 シエルの言葉に残りのバケモノ2体に目を向けると、ヒュドラと目玉のバケモノが光線を放ち始めていた。

 咄嗟に回避したのだが、光線を浴びた建物や木が石になったり、酸でも振りかけられたかのように溶けたりしていた。

 おそらく石化が目玉でヒュドラが酸、だろう。


「人の心配してる場合じゃないわね。花。私はあの蛇の方を片付けるからあっちの目玉を相手しなさい」

「りょ、了解だべ」


 花が杖を力強く抱きしめる様子を見たリーンは——

 

「これが初の実戦で緊張するのは分かるけど力を抜きなさい。ガチガチのままじゃあのバケモノに食われるわよ」

「だ、だべ……」


 花は対人の模擬戦でしか戦闘の経験が無かった。

 このようなバケモノ、異形を相手にする機会など大和にはなかったのだから当然ではある。

 緊張するなと言う方が無理だろうが、リーンはそんな花を励ました。


「大丈夫。あなたは部隊の中でも極めて優秀な魔法使いよ。ただちょっとマイペースで運が悪いだけ。落ち着いて行動すれば問題なく勝てるはず。まあ……あのバケモノについての情報が無いから、初陣にしてはハードルが高いかもだけれど」

「だ、大丈夫です。やってやるだよ!」

「その意気よ。それじゃあ、行動開始!」


 リーンがヒュドラに射撃魔法を放ちながら飛びかかる。

 残された花は窓の中にたたずむ目玉の球体に杖を向けた。

 あれが見せた攻撃は光線、だけ。

 他にも攻撃手段があるか?

 考えるが想像もつかない。

 いくつもの目玉が一斉に花にギョロリと向けられ、そのおぞましさに思わず身の毛がよだつ。

 存在がファンタジーなのだ。

 であれば、現実では起こり得ない事、あり得ないことも計算に入れて——


「……!」


 そんなことを考えていると目玉が光線を放ってきた。

 数を数えるのすらばからしいほどの数。

 目玉の数だけ放ってきてるのだろう。

 だが見えている攻撃なんてものは模擬戦の360°同時攻撃回避の訓練を乗り越えてきた花にとっては簡単すぎるレベルである。

 

「この程度!」


 反撃、花は射撃魔法を放った。

 が、目玉の正面には壁が張られているのか魔法が拡散し官邸を貫くのみだった。


「防御!? まああの動けなさそうな体だしなぁ。防御が厚くて当然だべか」


 敵に動きは、ない。

 光線だけ。そう思いさらに攻撃しようとした花の背中に——


「んなっ!?」


 がん! と衝撃を受けた。

 振り返ると、小さな粒子が拳大に集まって背中を殴りつけていた。

 空中を回転しながら吹き飛ばされるが、意識を飛行魔法に向けてなんとか耐える。

 空を見上げると紫色の粒子がまるで粉雪のようにはらはらと降り注いできた。

(この散り方。角度……なるほどあの光線の効果だべか)

 目玉が光線を放つたびに粒子が増える。

 粒子は何の物質かは分からないが、打撃が可能。

 それに収束、霧散するようで粒子自体に攻撃しても無駄かもしれない。

(かといってあんの目玉を直接ぶっ叩こうにも、防御で防がれちゃうべ)

 考えてる間にも目玉は光線を放つ。

 もはや花を狙っていない光線も中にはあったが、粒子をばらまく為だけに放っているのであれば無駄ではないのだろう。

 周りがなんだか紫がかったように景色を染め上げていく。

 なんだか吸い込んでも体に良くないと思い花は袖で鼻を覆った。


「だからってこのまま手を拱いてちゃ勝てないべ!」


 これは模擬戦ではない。

 実戦だ。しかも命を賭けた……。

 行動しない者に勝利はない。勝利するには行動し続けるしかない。

 足りない情報は行動によって明らかにする。

 ひたすら考えて相手の弱点を見抜く。

 攻撃を被弾しないように、体力とマナの残量を意識しつつ最小の動きにとどめる。

 無駄を省け、研ぎ澄ませ。感覚を——


「すぅ……」


 花の意識が目玉に集中された。

 凝りもせず光線を放ってくるが、花は首を傾けるだけでそれを回避してみせた。

(目玉の数はざっと8つ。後ろにも同じ数、もしくはそれ以上あるとして、なんで後方に光線を放たない? もしくは放てない? その理由は?)

 途轍もない集中力と言えた。

 攻撃を目にした瞬間にどう動けば当たらないかを感覚で理解したように回避する花。

 これこそが花がイーグレットに派遣された理由の一つであった。

 過集中。もしくはゾーンと呼ばれるその超感覚に花は意識を集中させるだけで簡単に入る事が出来る。

 ただ、その才能を花自身は理解していない。

 ただぼーっとしやすい性格、としか見ていないのである。

(光線を放ったあとの目玉が閉じた。開くまでの間隔は3秒。連射は出来ない? もしくは私たちの魔法と同じリロードみたいな仕組みがある? だとすれば——)


 光線を放たせあの目玉をすべて閉じさせた時、残る障害は障壁だけ。

 そこからの花は早かった。

 ゾーンに入った花は唾液を垂らしながらASを展開し、目玉に向けて放つ。

 直撃はさせない。ただ撃ち落としてもらえるようにさりげなく脅威を与えるのみにとどめて——


 目玉はASに向けて光線を放った。

 マナで構成されたASですらもドロリと融解させたが、狙い通りの行動をとってくれた。

 花は絶え間なくASを展開し目玉に弾幕を集中させる。

 それこそ向こうの視界を埋め尽くすほどに。

 その最中で花自身も射撃魔法で目玉を攻撃するが、やはり障壁は硬い。

 が——

(目玉が閉じてる間、ほんの少し強度が落ちた?)

 違和感に近い変化。

 先ほど攻撃を受けた障壁は壁のようにビクともしなかったのだが、瞳をいくつか閉じた状態で攻撃を受けるとぐっと壁が凹んだように見えた。

(分かってきたべ。多分あの壁を生成してるのは背中側の目玉だべな。見てはないけどあれだけ気色悪いぐらいに目玉があるんだ。絶対後ろにもついてるべ)

 そして光線同様に、障壁を維持するには瞬きというリロードが必須。

 であれば——


「私の勝ちだべ」


 やることは単純明快。

 花はASをさらに増やした。

 粒子がまずいと判断したのか花に一斉に降りかかる。

 だが、遅い。

 粒子の光を置き去りに、花は目玉の居る官邸に突撃した。

 ASの弾幕、目玉自身の粒子攻撃、そして花自身の突撃。

 目玉は当たり前のように障壁を展開してみせた。

 ASの弾幕による集中砲火を受け、さらに自身で放った粒子の攻撃も受けている。

 爆発で視界が悪くなったのだから当然っちゃ当然。

 その隙に花は目玉の後方に回り杖を構えた。

 そこにはやはり目玉があった。

 だが集中砲火を受け続けていくうちに1つ、また1つと閉じられていく。

 球体の下部分。そこにある1つの目玉を残して……。


「お前はあの男に作られたバケモンだべなぁ。だったらその体を維持するにもMEを消耗するはずだべ。その体を維持する器官、もしくは魔法がある場所はそこだべ!」


 一発の射撃魔法が目玉の障壁を貫いてたった1つ開かれた目玉を穿った。


「ぎゅぴぃぃぃーーー!!!」


 情けない咆哮、おそらく目玉の(どこに発声器官があるか不明)断末魔が轟いた。

 まるで水風船を針で刺したかのように目玉の体は破裂し赤い液体が辺りに飛び散った。

 それを全身に浴びて花はゾーンが解かれる。


「う、うわぁ! ば、ばっちいなぁ!」


 ばしゃばしゃと手で払うが、逆に汚れを広げてしまう。

 だが、これで残るバケモノは2体。

 リーンとシエルであれば簡単に始末してくれるだろうと花は考え、如月とアルケミスト——ヒューゴがまだ向かい合っているであろう部屋に戻るのだった。

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