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第35話 警察にて

 イーグレット警察署付近の街も既に魔術師による市民虐殺、そして略奪が横行していた。

 警察官たちは役職、部署も関係なく全員出動していた。

 魔術師に対して己の魔法を行使し、市民を守り、街を守ろうとするが得体の知れない上位魔法を使用する魔術師に苦戦を強いられていた。

 魔術師の魔法を食らい爆発するパトカー。

 傷つき倒れていく同僚たち。

 手を取った市民が既に事切れている実情。

 そんな絶望の中にポチータもいた。

 まだ無事なパトカーの陰で部長であるベルンと共に、署長キリエミュールの指揮に耳を傾けていた。

 指示、と言うのもおこがましい内容。

 出来る限り市民を救え。

 それだけだった。


「部長! このままじゃ市民が」

「分かってる! だがここを放棄するわけにもいかん!」


 それだけの指示すら叶えられない。

 ポチータ達の前には魔術師が隊列を維持し、緑色の閃光を飛ばしながらじわりと前進してくる。

 その光を浴びた警官は痙攣し、やがて動かなくなる。

 生きているのかどうかは分からない。

 もしかしたら死んでいるかもしれない。

 怖い、非常に怖いとポチータは考えてしまうが。


「しっかりしろポチータ」


 ベルンの一喝でぎゅっと閉じた目を開いた。


「ここで我々が諦めては市民を誰が守る! 目を閉じるな、好機を窺え。一瞬の希望を掴むんだ」

「は、はい!」


 そんな時だった。

 ポチータのポケットに入れていたスマホが振動した。

 中を確認してみると相棒であるアナハイドからの連絡だった。

 彼は今、魔法学院にいるはず。

 連絡があるということは何かあったのかもしれない。

 今出るべきかどうか迷った挙句——


「どうしたポチータ!」

「部長、アナハイドからの連絡が」

「アナハイドぉ? あの馬鹿が、こんな忙しい時に電話とは……まあいい。ここは私が引き受ける。その間に用件を済ませろ」

「はい!」


 ベルンがパトカーから身を晒して杖で応戦を開始する。

 その間にポチータは電話に出るのだが——


「もしもし!」

『ポチータ! えらいことになったぞ!』


 第一声のドでかい声にポチータの耳はキーンとなった。


『今街中でハイネルの魔術師が!』

「分かってるよ。今おいらたち警官も全員出動して鎮圧中だってば」


 それは効果があるかと言われればないと言えるが——


「で、用件は何だい! 事と内容によってはすぐに切るけど」

『待て待て! 大事な話だ。よく聞け!』


 アナハイドはポチータに話した。

 アナハイドが見た魔法学院に隠された秘密。

 それは異世界ハイネルが人間を素材として作り上げた魔道具を持ってイーグレットを知らずのうちに洗脳、乗っ取ろうとしていた事実。

 それを知ってからハイネルがイーグレットに攻撃を仕掛けてきたこと。

 そして今アナハイドはF・E・T・Sの司令官と共に首相官邸を目指していること。

 なんでも、政治の場にハイネルを引きずり出すとかなんとか——


「話は分かったけど、結局どうすればいいんだい!」

『お前たしか署にいるだろ? だったら部長でも署長でもいいから警察を動かしてくれ!』

「動いてるよ! とっくに! 言ったろ?」

『あー! 言葉が悪かった。F・E・T・Sと協力するように動いてくれって言いたかったんだ!』

「F・E・T・Sと協力?」

『ああ。今上空でF・E・T・Sのオペレーターが戦闘を開始したらしい。だがこっちも避難誘導と戦闘で隊を二分してるもんだからうまく魔術師どもを制圧出来ないんだ』

「なるほど、つまりおいらたちにその手伝いをしてほしいってことかな?」

『そうだ。戦闘は無理だろうから避難誘導だけでもな。それを署長に頼めるか?』


 署長はポチータから少し離れた場所で警官隊を直接指揮している。

 かなりの激戦区なようで魔術師の攻撃に対して防御魔法を展開したり、警官を回り込ませたりと非常に慌ただしい。

 そんな状況で、今のアナハイドの話を署長に伝える。

 かなり困難を極めるだろうが——


「分かったよ。やってみる」

『助かる。さすが相棒』

「それで、君はどうするんだい?」

『俺はこのままF・E・T・Sと一緒に動く。さっきも言ったが目的は首相官邸だ。お前も余裕が出来たらこっちに来てくれ。じゃあな』


 言うだけ言って通話を切られた。


「あの馬鹿はなんて?」


 ベルンがパトカーに身を預けながらポチータに聞いた。

 杖に手を当てて、魔力を充填している。

 そんなベルンにポチータはさっき聞いた話をかいつまんで報告するのだが——


「つまりF・E・T・Sと警察の共同作戦として警察には避難誘導を託したいってことか」

「みたいです。その為にも署長の居るあそこまで行かないと」


 そこは魔法が飛び交う死地だ。

 少し離れたここでさえ、少しでも身を晒せば魔法を食らう可能性がある。

 そんな場所に飛び出て、署長の居る場所まで駆け抜ける。


「難しいな」


 ベルンの言う通り難しい。

 敵の集中砲火を浴びている中に飛び込むようなものだ。

 だが——


「それでも動かないといけないんですよね」

「だな」


 二人はしばらく黙って考える。

 ベルンの杖に十分な量の魔力が注ぎ込まれたのかうっすらと杖の周りが光っていた。

 それを確認してベルンは——


「スリーカウントでポチータ。前に出ろ。署長の元へ行けないのなら私が切り開いてやる」

「で、でもそれじゃ部長が」

「問題ない。ひとりでも何とかしてみせる。それに私が出るよりも身が小さいお前の方がいい。だから頼む」

「……わかり、ました」


 ポチータはパトカーの後部で待機する。

 ベルンがカウントダウンを開始して——

 0と同時に二人は動いた。

 ベルンはパトカーから身を乗り出して水魔法による水球を連射して魔術師を牽制する。

 魔術師たちの注目がベルンに向いた。

 その隙にポチータは死地を駆け抜ける。

 途中何人かの魔術師に魔法を仕掛けられたが、背丈の小さいポチータに当たることは無かった。

 素早く小さい。

 これ以上なく当てにくい存在だったのだろう、魔術師の狙いが全てベルンに向けられた。

 おかげでポチータは難なく署長キリエミュールの元に辿り着き——


「署長! 伝令です!」

「話なさい」


 ポチータは話す。アナハイドから聞いた話に、今警察がするべきこと。

 それを聞いてキリエミュールは微笑み——


「全警官に告げる。これより戦闘は放棄。各自箒だの車だのを使って市民を避難させなさい」


 全警官にそう命令を飛ばすのだった。

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