第34話 集結
埠頭に停泊していた春風になんとか乗り込んだアナハイドたちが本部へ向かっていると一機のヘリが今にも離陸しようとしていたのだが、その中から二人の女が手を振っていた。
(俺に、じゃないよな?)
隣の二人に目を向けると二人とも敬礼をしている。
花はまあ下っ端オペレーターだから分かる。
だが、リーンがこのように敬礼するとなると——
「上司か?」
「はい。司令官と隊長です」
「司令かっ——」
絶句しかけたアナハイドは急ぎ二人に倣って敬礼する。
なにやってんだかと思うが、この国の現状をなんとか出来るのはこの組織しかないのだからいつもはちゃらんぽらんなアナハイドとて礼儀正しくあろうと考えたわけである。
そんな二人はヘリへ向かって駆け出した。当然アナハイドも追い掛ける。
プロペラが高速で回転している風圧で三人は顔を手で覆いながら近づくと、司令官の女が手を伸ばしてきた。
「乗ってください」
「良いのですか!?」
リーンが滅相もない、そう言ったような声を上げたが——
「今は護衛の数が欲しいんです。ですから——」
隣の少女——リーンの隊長が厳めしい目を向けてきては『早く乗れ』と顔で促してくる。
3人は何も言わずにヘリへ乗り込むとヘリはすぐに飛び立った。
座席に腰掛けた3人を前に如月は頭を下げた。
「いきなり同行させてすみませんリーンさん」
「いえいえ! いいんですよ。で、司令官と隊長はどこへ」
「首相官邸よ」
答えたのは隣に座る隊長だった。
そんな隊長の少女はアナハイドに目を向けると軽く会釈して——
「初めまして。話には聞いてます。あなたがイーグレット警察の協力者、アナハイドさんですね?」
「あ、ああ。そういうあんたは?」
「私はシエル・クロッカス。F・E・T・S戦術指揮官の一人です。そしてこっちがF・E・T・S——春風の司令官である」
「如月円香です。よろしくお願いしますね」
「ど、どうも……」
二人と握手をすると、如月はおほんと咳払いをした。
「同行してもらった訳を話しますと、私はこれからイーグレット首相官邸へ向かわなければいけないのですよ」
「今か? もっと他にやるべきことがあるんじゃないのか? 魔術師が解き放たれてんだぞ?」
「アナハイドさんの意見はもっともです。ですが、雑兵をいくら倒してもキリはないでしょう。国とはいえ、世界を統一した巨大国家、ほとんど異世界そのものが相手なのですからね」
如月の言葉に続くようにシエルが——
「なので、現在目標とするのはイーグレット総理大臣であるブリティッシュ・コルドーの身柄と安全を確保すること。そして他国へのホットラインを繋ぐこと。それに伴い3国の政治的圧力によって異世界ハイネルをこちらの世界に引きずり出すという作戦です」
つまり、現状雑魚の相手よりも頭を押さえるってことなのだろう。アナハイドは疲れた頭を回転させてそんな結論に至った。
だが、3国というと、ひとつはイーグレットとして残りは——
「協力してくれる2国ってのは?」
「グリデンガルドと大和です」
間髪入れずに如月から即答された。
大和は分かる。旧日本の事だ。
だがグリデンガルドとはどこの事なのだろう。アナハイドは頭を捻ったがそんな国を彼は聞いたことは無かった。
アナハイドが難しい顔をしていると隣に座るリーンが——
「分からなくても無理はありません。なにせグリデンガルドと交流していたのはF・E・T・Sだけなのですから。ですが、マイナーとはいえ国家は国家。それも軍事国家ですから」
「軍事国家、つまるところあんたたちの故郷か……」
「そういうことです」
「だとしても、今更政治の力でどうにかなる問題か? 相手は野蛮人、いや畜生以下の激ヤバ国家だぞ?」
なにせ人を材料に魔法を使役するような世界だ。
今更政治的に働きかけるなんて効果がないと思うのだが——
そんな事をアナハイドが考えていると如月が答える。
「たとえそんな世界だとしても、今の世の中から孤立するのは得策じゃないでしょう。次元という隔たれた壁が取り払われて、数多の異世界が混在する今は特に」
「たしかにな。だが、相手はそんな事も重々承知な上でこのバカ騒ぎを起こしてるはずだ。やれるのか?」
「やれるやれないじゃないんです。やるんですよ」
如月の言い切ったその真っすぐな目にアナハイドはそれ以上何も言えなくなった。
覚悟、そんな言葉が想起された。
「私たちF・E・T・Sは異世界問題に向き合うこの世界で唯一の組織です。未知の異世界の出現、種族間問題。それと今回のような世界観の違いに向き合い、帳尻を合わせ、黎明を越えなければいけないんです。だから打てる手は打つ。それがどれだけ厳しい道であろうとも」
「なるほどな……」
覚悟はある。それを実行可能にする戦力も、繋がりも——
だったらこれ以上何も言うことは無い。
アナハイドは頷きヘリの窓から地上を見下ろした。
そこには魔術師が市民を追い回し、略奪、殴殺が繰り広げられていた。
イーグレット警察も出動してるようだが……。
(あれじゃだめだな……)
プロの魔術師相手に初級レベルの魔法を仕掛けてはいるが盾にしていたパトカーが破壊され炎上する様を見ると期待は出来なさそうだった。
「警察も頑張ってはいるみたいだが……」
「あれでは無理でしょうね。ですが対応が早い……」
シエルが呟くと、ここまでずっとだんまりだった花が口を開いた。
「元からハイネルが問題のある世界だって見抜いていたらしいですから。だな? アナハイドさん」
「あ、ああ。まあな」
それを聞いてシエルは考えるように——
「だったらうまく連携すればこの状況、被害をもっと抑えられるかも……でもそれには警察を大々的に動かせる権力を持った人が——」
「警察を動かすことが出来ればいいのか?」
「え、あ、はい。ですがアナハイドさんは——」
「俺は無理でも、いける人なら知ってる。多分今指揮を執ってる最中だ」
とはいえアナハイドはその人物と連絡を取れる手段を持っていない。
だから、この場でその人物の近くに居そうな人物にアナハイドは連絡を入れることにした。
スマホの電話帳に入っている『ポチータ』に。
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