第29話 学院内のホール
教師が震えながら話した内容を元に花たちは本校舎裏にある学術評論会別館と呼ばれる校舎までやって来た。
というのも、ここにホールが管理されているらしく。
学生たちはおろか、教師の中でも一握りの存在しか知らないようだった。
学術評論会別館と呼ばれるだけあって、中はかなり厳かな造りのようだった。
木造りではあるものの、艶があり丁寧に磨かれた床は反射して花たちの姿を映していた。
吹き抜けの玄関、大きな階段といくつもの部屋、そして——
「またこの通路かよ……」
アナハイドが呆れて見つめたのは二階より上にある上層階。
天井のように見えたそこには手すりが付いた通路のように見える。
「エッシャーの迷宮、ですか」
オペレーターの一人がそう呟いた。
アナハイドは「ああそうだ」とそのオペレーターの肩に手を置きながら前に出る。
「あの通路は特殊な魔法がないと歩けない。んじゃ、俺が今からその魔法を——」
「必要ありません」
リーンは遮るように言った。彼女がハンドサインを行うと、オペレーター各位は杖を握り締め宙に浮かび上がる。
まるで飛行というより重力を無力化してる。
そんな風に浮かんで天井に足を付けるリーンを含めたオペレーターたち。
「べつに天井に張り付かずとも問題ないでしょう。私たちにはこの魔法がありますしね」
「は、はは……。さいですか……」
もはやこの魔法使い達はなんでもありか? とアナハイドは肩を落とした。
そんな彼も壁に手を触れて詠唱。そして駆け足気味に天井へ向かっていく。
本来はこのようにして上るのである。
アナハイドが天井に上がったのを見てリーンは一言——
「では捜索を開始。部屋を片っ端から、隠せるものは全て除去しながらくまなく探すこと。いいわね」
軍隊よろしく返事するオペレーターたちにアナハイドは付け加えるように——
「大使館でもそうだったが、隠し事はだいたいこのエッシャー通路にある部屋だと思う。歩きづらい場所を徹底的に調べてくれ」
「「「了解しました!」」」
そうして全オペレーターは散り散りになって調べ始める。
この場に残った花、アナハイド、リーンは一か所に集まった。
アナハイドは恐らく同じことを考えているであろう二人に——
「学院の動きが無い、が……、あんたらはどう思う?」
「様子見、もしくは切り捨てただべかな?」
「戦術的に考えると、この場所に押し込んでぺしゃんって可能性もあり得るわね」
手で箱を作り潰しながら話すリーンにアナハイドと花は『うわぁ』と目を向けた。
それだけは勘弁だが、大いにあり得る話だ。
「だども、ここにホールがある以上、完全に破壊は出来ねぇはずだ」
「そうなのか?」
「んだ。ホールっちゅうのは未知の磁場エネルギーが周囲に展開されてるんだべが、これがまーた不思議でなぁ? 近くにある物は吸い込んで、一定の距離になると反発するようになってるんだべよ」
「つまり、磁石のS極とN極が距離によって変わるってことか?」
「そういうことだぁ」
さすがは異世界を専門に活躍する組織といったところだろう。
末端オペレーターである花ですらアナハイドの知らない知識を有している。
リーンはそんな二人の会話に混ざるように——
「それとホールに対して外的刺激を与えると中のカリギュラが活性化して外にあふれ出すわね。まるでハチの巣みたいに」
「ってことは学院側はこの校舎を破壊する可能性は低いってことか?」
「低いってだけで切り捨てたのなら確実に潰しに来るはずだけどね。ホールは壊せないだけで、私たちは殺せてしまうし」
「カリギュラがあふれ出すだけだしなぁ」
リーンと花はなんでこんなに落ち着いていられるのだろうとアナハイドは思った。
ゾッとする話ではないか。
つまり今この場に入り込んだ自分たちを建物ごと遠距離魔法でドカンと破壊も可能な状況なわけであって……。
「大丈夫なのか!?」
「大丈夫、とは言い難いから迅速な調査を進めてるわけよね。まあ見た感じ建物に部屋は少ないみたいだからすぐに見つか——」
『教官見つけました!』
インカムにオペレーターの声が響いた。
リーンはアナハイドたちに目を向け——
「ほらね」
自慢げに言った。
「さすがだな……」
「では行きましょうか。そのホールの中に何があるのか、何が隠されてるのかをね」
そうして花たちはオペレーターたちの待つホールがある部屋へと向かうのだった。
***
そこは小さな部屋だった。
学院長のだろうか、それとも歴代のか。
そんな彫像が不気味に並ぶ倉庫のような部屋にそれはあった。
人一人が入り込めそうなホール。
そして傍には突き破ったような窓。
アナハイドはそれを見て、あの死骸はここから飛び出したものなのだろうと考えた。
オペレーターは部屋の外、そして別館外部に待機させて敵に動きが無いか監視させている。
そんな中、3人はホールを調べるように周囲を見て回る。
「見た感じここを大々的に利用した形跡は無しね」
「んだ。だども、人が何人か通った痕跡はあるべ」
花が床の埃を指でなぞりながら言った。
アナハイドも確認してみるが、たしかに花の言う通りだろう。
埃が積もった場所とそうでない場所がある。しかも部分的にだ。
「大きさ的に足のサイズか……」
「だべ。しかも足しげく通ってたような……」
二人はホールを見る。
誰かが頻繁にホールの中へ入っていた。
それがダークトリニティの者である可能性。
もしくはそれ以上の——
「中に入ってみれば分かるわ。二人とも突入準備。中で待ち伏せされてる可能性もあるわ。花。ASを展開しておきなさい」
「了解だべ」
花は杖のトリガーを引き光の玉を2つ自身の周囲に展開した。
アナハイドも詠唱し両手に炎を纏わせた。
3人は頷き合い……そして——
「突入する!」
「「了解!」」
未知のホールの中へと入っていくのだった。
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