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第28話 元軍人だから

「おいおい、これは随分なもてなしだな、え? おもてなしって文化は大和の風習じゃなかったっけか?」


 アナハイドの目に映る光景、本校舎である城の前にはずらりと並んだ学生と教師陣が杖を構えて待っていた。まるで敵軍を待ち構えている軍隊のように見える。

 そんな彼らを指差しながら大和出身の花に聞いてみたが——


「あんな物騒な歓迎は私の国でもないべ……。リーンさん、これは……」

「まあ、こうなることは予想してたけど。各戦闘小隊は戦闘準備!」


 リーンの号令に調査班は後ろに下がり、花を含めた戦闘班が前に出た。

 それを見てか向こう側も杖や砲台のような武装を向けてくる。

 見たまんま魔法兵器だろう。

 中世ファンタジーを彷彿とさせる魔法使いらしく、詠唱を始めている。

 だが長い。

 先ほどのエルマタルたちを容易に制圧できたのも、この詠唱が長いためだった。

 そんなのんびり詠唱をする魔法使いにリーンは呆れたとばかりに呟く。

 

「クラシックウィザードってみんなこうなの?」

「普通の魔法使いってのはああいうもんだべ。私ら……っていうかリーンさんたちの世界がおかしいだけだべよ」


 花の返答に同意して頷くアナハイド。

 

「だな、俺たちの世界に伝わってる普通の魔法使いはあんたたちみたいなアサルトライフルみたいな杖なんて持ってないぞ。木の棒を振って、長ったらしい呪文を唱えて、不思議な力を発現する、そんなもんだよな?」

「んだ」


 それが古き良き魔法使いである。

 リーンはそんな二人の話に『なんだそりゃ』と苦笑いを浮かべながら杖を振り下ろす。

 

「戦闘開始! 敵は一人残らず拘束。いい? 絶対に死者を出さないように!」

「「「了解!」」」


 それが開戦の狼煙となってオペレーター各員、そして花とアナハイドは敵へ突っ込んでいく。

 向こうは未だ詠唱していた。

 どうやらハイネルの魔法というのは詠唱が長ければ長いほど効果の高い魔法を発動できるようだ。

 それに対してアルデバランの魔法はトリガーを引くだけ。

 どちらに軍配が上がるかなど、考えるまでもなかった。

 敵を制圧するだけに特化した射撃魔法が詠唱を唱える学生たちを脅かす。

 まるでゴム弾のように弾けて次々と倒れていく学生たちを前に教師たちは驚愕の顔を浮かべた。


「なんだこの魔法は!? いやこの世界の兵器か?」

「それとお前らから教わった魔法な?」

「なっ!?」


 驚愕する教師にアナハイドが肉薄し炎を薙ぎ払った。

 それはまるで炎のベールであり、明らかに死傷者が出そうな規模の魔法だったが、教師たちに火傷はおろか服一つ焦げた様子はなかった。

 防御魔法でも展開したのだろう。

 だがアナハイドの目的は恐らく——


「敵が怯んだわ。花!」

「了解!」


 視界が炎で塞がっただけじゃない。

 一瞬にして目の前が炎で包まれたのだから詠唱を唱えていた敵も言葉を詰まらせて、魔法の発動が遅れた。

 その隙に花は教師を含めた敵の頭部にASを直撃させ気絶させた。

 戦闘終了である。

 ふう、と息を吐いて杖を床に突いた花が汗を拭っていると、アナハイドは横たわる教師に吐き捨てるように呟いた。

 

「詠唱ってのは途中で言葉を詰まらせたら最初から唱え直しなんだよな。んな古臭い魔法になんで俺たちは便利だって思い込まされてたんだか」


 ボッと手から炎を放ったかと思えば握り潰したアナハイドに花は「どういうことだべ?」と尋ねた。


「いやな、こいつらの侵略の仕方が洗脳って言ったろ? どうやら知らず知らずのうちに魔法は現代の技術よりも便利な物だって思い込まされてるらしくてさ。普通に考えたら魔法なんて長ったらしい攻撃よりも、敵の意識外からの狙撃でバン! こっちのほうが強いってのになんで忘れさせられてたのかね」

「認識の歪曲か……だべ?」

「そういう魔法だろうな。まあ中途半端な洗脳だったもんで、俺たちみたいな半端物の魔法使いは短い詠唱で済んじまう魔法程度しか使えてないけどな」


 イグニスと呟きアナハイドは指にライター程度の火を灯した。

 確かにそれだけ短い詠唱であれば人を無力化するには十分すぎると思える。

 無駄に長い詠唱魔法は脅威ではあるが、人間相手にそこまでの威力は必要ないだろうと花も思った。

 オペレーターたちが学生たちを縛り上げる中、一人の教師が目を覚ました。


「こ、これは……。お、お前たち!?」


 どうやら敗北したことに気づかないまま倒されたらしい。

 そんな教師は周りの光景に目を見開いていた。

 リーンは目を覚ました教師に近づき——


「おはようございます。起きたのならお聞きしたいことが何件かあります」

「だ、誰がお前たちなんかに——」


 それ以上の見下すような言葉は教師の口から出ることはなかった。

 なにせリーンはその教師の喉に杖を突き立てたのだから。


「別にあなたから聞かなくてもいいんです。どうせこの学院は端から端まで調査する決定ですからね。話してくれた方が手間が省けるし無駄に時間を掛けなくて済むってだけですので、で? どうします? 話します? それともあなた方の知らないアルデバラン式の魔法でもう一度眠らされたいですか? かなり痛いですけど……」

 

 リーンの周りにオペレーターたちが集まる。

 みんな杖の先端に光を収束させ、いつでも放てるとばかりに教師へと向けていた。

 その数8。

 眩い光、そして喉に押し当てられるリーンの杖。

 教師の顔は絶望に染まっていく。


「こ、こんなことして、イーグレットとの同盟関係が解消されてもいいのか! 魔法が使えなくなるのだぞ!」

「それを決めるのは私たちじゃない。この国の首相。ただその判断材料を私たち外部機関が提供するだけ。知らないの? 私たちがそういう組織だってことに」


 引き攣る教師の顔。

 しばしの沈黙の末——


「わ、分かった……。話す……。だから攻撃はやめてくれ」


 交渉の余地はないと見たのだろう。

 教師は項垂れるように顔を地に向けた。

 

「そう。それはありがたいわね」


 ニッと笑ったリーンは手を上げてオペレーターに攻撃をやめるよう指示を出した。

 そんな光景を見ていた花とアナハイドは苦笑いを浮かべていた。


(なあ、お前の組織って元ギャングとかじゃないんだよな?)


 花に耳打ちするアナハイド。

 

(ち、違うだ。ただの調査機関、の、はずだべが……。そうとも言い切れなくなってきたべ……)


 まあリーンたちは元軍人なのだし、この手の制圧はお手の物だろう。

 だが初めてその光景を目の当たりにすると、なんだか自分はまだまだF・E・T・Sに染まり切っていないのだなと花は思うのだった。

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