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第27話 異世界ハイネル 1

「鎮圧完了。思ったより大したことは無かったわね」


 リーンが塔の前に降り立ちながら周りに横たわる学生たちを一瞥して呟いた。

 そんな彼女に同じジャケットを身に着けた花が駆け寄る。


「お、お疲れ様ですリーンさん!」

「はいお疲れ」

「あ、あの、さっきの話はどこまでが本当なんだべ?」

 

 リーンは換装を解除しながら答える。

 光に包まれ、元のF・E・T・Sの職員制服姿になったリーンは——


「全部よ。アナハイドさんの言ってることも含めて全部ね」


 というと、異世界ハイネルがファンタジーアースを侵略しようとしていること、この学院内にホールがあることもすべて事実ということだろう。

 これからその調査に入るようで、リーンと共にやって来たオペレーターたちが機材を取り出して大掛かりな準備に取り掛かり始めている。

 そんな中に混ざるようにしてアナハイドも居るのだが……。

 そんな花の視線に気づいたのか彼もこちらにやって来る。


「いやー、助かった。F・E・T・Sが調査に踏み切るって聞いたけど、まさかあんたが来るなんてな」

「画面越しで会って以来ね。初めましてアナハイドさん」


 二人は手を交わし——


「んで、ここに来たってことはあの死骸がカリギュラだって確定したってことだよな?」

「そうね。あの死骸がカリギュラであるのは間違いないとして、ここにホールがあるかどうかはまだ、これからの調査次第ってとこかな」

「だとしてもよくハイネルを黙らせたな、さすが異世界問題ならなんでもござれなF・E・T・Sとでも言うべきか?」

「黙らせてなんてないわ。向こうがなんて言おうが、妨害しようがファンタジーアース側に不利益があると認められたから強制介入しただけ、要は無断で突入した感じね」

「どっちにせよ、だな。だがこれからお互い忙しくなるのは確定か」

「そうね、花? この学院で潜入調査してたのならなにか不審な点は見つからなかった?」


 呼ばれ慌てて直立した。

 アナハイドはそんな花を不思議そうに見つめてきたが、花にとってリーンは上司であり魔法を指導してくれた教官だ。

 質問されればこのようになってしまうのも無理はない。


「は、はい! い、いえ! ありますだ!」

「はいか、いいえか、どっちよ……」

「あります! 私が配置された塔には白い箱を加工するカリキュラムがありました。その箱の正体は不明で、んでもって出どころも——」

「あぁ。それなら俺も聞いたぞ? 一応配送センターで調べてはみたが、秘匿された物資らしくてな。正体を特定するには至らなかったが……。まあ人間を養殖して魔法の研究素材にするような世界だ。絶対ろくなものじゃないだろうな」


 それを聞いて花はゾッとした。

 人間を養殖、魔法研究の素材……。普通に生きていて聞くことのない言葉の羅列。


「ハイネルの学生もこうやって攻撃してきたことだしな。裏を取るまでもないだろ」

「そ、それは違うだよ!」


 アナハイドの言葉を花が強く否定すると『花?』とリーンは首を傾げた。


「エルマタルさんたちの様子はどこかおかしかったべ。塔で私と話をしたときは明るくて親しみやすい人だっただ。それなのにさっきの様子は全くの別人、そう思えたんだべ」

「別人……ね」

「そう! まるで洗脳されてるかのように、ですだ」

「ふーん。なら洗脳の線も調査する必要があるわね」

「ああ。だとすると、当初の調査目的だったダークトリニティ問題。そいつはもしかすると——」


 アナハイドはこつこつと額を叩きながら気絶しているエルマタルに目を向ける。


「本人たちも知らない内に利用されていた可能性もあるってわけか……」

「んだ」


 その点はさっきの一幕で花も考えついていた。

 アリーナの話の内容、エルマタルの人物像。

 そして異世界ハイネルについての信じられない話の数々。

 現状の情報を整理すると考えられるのはこうだ。


 ①異世界ハイネルは何か理由があってこの世界を侵略しようとしている。しかもこちら側はなんの疑いもなく魔法技術を受け入れている事実。

 ②たとえ同郷の学生であっても洗脳する必要。

 ③廃魔法通りでアリーナたち学生が学費を稼ぐために売りさばいていた謎の白い粉。

 ④出どころ不明の白い箱の存在。


 異世界ハイネルから送られた白い箱が、あの薬物である粉に加工されていたとしたら?

 それをイーグレット中にばら撒いた理由が洗脳だとすれば?

 それはやがて魔法技術に何の疑いもなくなったイーグレット国民が知らずの内にハイネルの属国となり支配されるのではないか?

 あくまで仮説だが目的は、イーグレット国民を魔法研究の素材にするため……。

 花はそこまで考え——


「うっ……」


 吐き気を堪えた。

 

「お、おい! 大丈夫か?」

「だ、大丈夫だ……。少し吐き気がしただけだよ……」

「そうだよな。人間を加工するとか狂気じみた国家が相手だもんな。俺だって今の忙しさが無かったらゲボ吐きまくってるところだよ」


 うっぷとアナハイドも口を手で覆い隠した。

 そんな3人の元にF・E・T・Sオペレーターの一人が駆けて来て——

 

「リーン教官。準備が整いました。いつでも始められます」


 ホール捜索の準備が整ったらしく、塔の前にはまるで地雷探知機のような機械を手に持ったオペレーターたちが待機していた。

 リーンはそんな彼らを見て——


「では始めるわよ。敵は私たちを確実に妨害してくる。調査班とは別に戦闘班を編成するわ。花、アナハイドさん、あなた達は戦闘班として調査に協力してくれる?」

「ああ、問題ない」

「了解しましただ」

「……ありがとう。では行動開始。速やかに仕事を片付けるわよ」


 リーンの号令でオペレーター総数20名による調査が開始された。

 魔技修練塔だけでこの妨害だ。

 恐らく他二つ、そして本校舎も入れれば激しい抵抗が予想される。

 花は緊張する胸を押さえながらリーンたちに付いて行った。

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