第25話 能ある鷹は
【アナハイドが大使館に潜入する30分前】
塔の見学を終えた花は、習うよりも慣れろとエルマタルに唆されて現在トレーニングルームに押し込められていた。
震える手には異世界アルデバラン製の魔法杖。
まるで重火器のようなデザインの杖に周りの学生たちはぎょっとしていた。
それもそう、なにせこの塔にいる魔法使いたちの杖はファンタジー世界と言えばこれ! と言うべき木でできた杖ばかりだ。
短い物から人の背丈ほどある長い物まで。
そんな中で花の鉄で出来た杖は異質であり目を引いて当然。
そんな花の目の前には射撃訓練場にある的が1つ。
どうやらエルマタルや周りの学生たちは新入生である花の実力を見たいようだった。
まあ魔技修練塔なのだ、勉学に励む場所ではなく実力を磨き続ける環境だからこそ未知の学生のレベルが気になって仕方ないのだろう。
(だども……まじめにやっていいもんだべか……)
正直、あの的に当てることぐらい花にとっては目を瞑っていても可能だ。
周りの学生たちはどうなのだろう。
当てて普通? それとも破壊して普通?
分からない、もしかしたら横に並んだ的も同時に破壊するべきなのだろうか。
どれが普通だろう。
花が目指すべきは普通だ。
学生より劣っていることを知らしめれば調査で話を聞くとき見下されて話を聞き出すどころではなくなってしまうかもしれない。
なら優れているところを見せたら?
警戒するに決まってる。
もし自分がここの学生であれば、突然やって来た新入生が何年も修行を積んで磨いた自分の実力を遥かに凌駕していたらそれは警戒するだろう。
ましてや花は田舎者だ。
大和と言う魔物しか魔法を行使できない国から来たファンタジーアースの人間だ。
(そんな私が目立つのも良くないべ……)
「山野さん?」
悩んでいるとエルマタルが不思議そうに首を傾げながら声を掛けてきた。
びくりと花が振り返ると学生たちがまるで一本の道のようにエルマタルに道を空けていた。
「どうしたの? 魔法を撃ってみてよ」
「そ、そうだべが……」
「もしかして魔法使えない、訳ないわよね? ここに配属されるってことは少なくともなにかしらの魔法が使用できるってことだし」
「だ、だべぇ……」
「まあ自信が無いんだろうけど大丈夫! 最初はみんな同じだから。これからゆっくり鍛えていけばいいのよ。だからほら、適当にバーンと撃っちゃって」
「はぁ、分かったべ。私やるだよ」
「うんうん。頑張って!」
憂鬱だがやるしかない。
じゃないとこの観衆の注目から解放されることは無いだろうし。
的に当てればいい。そうだ、それだけだ。
わざわざ破壊してまで目立つ必要はない。
呼吸を整えた花は杖を的に向けて……トリガーを引いた。
「アサルトシューター展開だべ」
杖の先端から放たれた紫色の球体が歪な軌道を描いて的へ向かっていく。
まるで一匹の虫のような挙動。
学生たちはそんな花の魔法を見てクスリと笑った。
「なにあれ、魔法なのにコントロールが甘いんじゃないの」
「言ってやるなよ田舎者なんだ、大した魔法を教わってこなかっただけだろうぜ」
「まあ? 私たちハイネリアンから見ればこの世界の魔法技術なんてどれも大したことないだろうけど」
言いたい放題言ってくれる陰口が花の耳に届く。
だとしても別に心が傷つくことは無かった。
むしろ安堵、この軌道でこの言われようであれば普通レベルは——
「ロック……。ブレイク」
的に狙いを澄まし、自律制御していたアサルトシューターを手動操作に変更し威力を落として的を射抜いた。
途端、先ほどまでの陰口が消え——
「へ、へぇ。まあまあやるじゃん」
「威力は大したことないけど、時間を掛ければ狙いは定まる遠距離魔法ね」
どうやら上手く普通レベルを演出する事が出来たらしい。
花はホッと息を吐いた。
学生たちは花の見物に満足したようで離れて自分の修練に戻っていく。
残ったのはエルマタル一人だけ。そんな彼女はまるで信じられない物を見たかのように目を見開き的へ近づいていく。
焼け焦げた的、その中央には小さな穴が開いていた。
その部分をなでてエルマタルはぼそりと——
「正確な射撃精度。あれだけ歪な挙動をしてた魔法が的の真ん中に当たる? いいやありえない……。山野さん今の魔法ってなに?」
「ひゅ、ひゅいっ!」
杖を片付けていた花はまたもやびくりと跳ねた。
ゆっくりエルマタルに振り返りつつ——
「た、大した魔法じゃないっぺよ。ただの無属性射撃魔法……だべ」
嘘は言ってない。
アルデバランの魔法に属性はない。
あるのは射撃魔法のみだ。
花が修めた射撃魔法は使用者がたった一人のシエル・クロッカスと同様のASだ。
リーンから理論だけ教わり試しに撃ってみるとこれが上手い具合に使えたのだ。
「大した事ない、ね」
意味深にエルマタルが呟き、的から離れた。
後ろで腕を組みエルマタルは花の隣を通り過ぎる。
「能ある鷹は爪を隠すって言葉がこの世界にあるけど、山野さんもそうなのかな?」
「へ?」
「なんでもなーい」
エルマタルはトレーニングルームから出て行った。
なにか、マズい事をしただろうか。
花はエルマタルの様子からそう感じたが……。
「まあ仲良くするためにここに来たわけじゃないし、そろそろ本格的に調査でも始めるべ」
花は杖を短く折りたたみ、剣のように腰に下げて塔の外を目指すのだった。
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