第24話 見えてきた異世界の真実
上層階に上ると、ある一部屋に入ってすぐにそれは見つかった。
アナハイドが何の気なしに手に取ったファイル。
そこにはハイネルの世界についていくつかの内容が書かれていた。
パラパラとめくりながら仕事で鍛えた速読法で脳に文字を焼き付けていく。
ハイネルの世界は魔法大国家イネストリアがかつて存在した他国を全て滅ぼした。
故にハイネルにはイネストリアの一国しか存在しない。
異国人は全てイネストリアの奴隷、もしくは魔法研究材料として加工され、魔法技術に利用された。
要は牧羊と同じ。
魔法の素材に利用するために人間を養殖しているという……。
理解しがたい情報にアナハイドは吐き気を押し戻した。
(想像以上の世界じゃないか……。なら俺たちがなんとなく使ってるこの魔法はそんな犠牲の上に成り立った技術だってのか?)
だが別に何かを投与したわけではない。
知識として与えられた物を実行してるだけだ。
人間を体内に吸収したという事実はない、はずだ。
「それに気になるのはここだけじゃない」
人間の養殖もそうだが、そもそものこの国の狙いだ。
なぜイーグレットと同盟を結んだか、魔法を教えたのはなぜか。
その理由も書かれているが——
「!?」
こつこつと靴音が近づいてくることにアナハイドは気づいた。
どうやらこの部屋に向かってきているようだ。
隠れる場所を探すがこの部屋にアナハイドが隠れられる場所はない。
掃除で誤魔化すか? いや、おそらく無理だな。
清掃業者は室内の掃除を時間ごとに区切っている。
今の時間はどうやらこの区画を掃除する時間帯ではないらしく、アナハイドただ一人がこうして部屋に残っている状態だ。
今ここに居たらまず間違いなく疑われる。
「イグニス……」
アナハイドは手に炎を宿らせる。
強行突破か……。
そんな言葉が脳裏をよぎるが——
ピピピピ——
スマホの着信音が扉の向こう側から流れた。
「はいもしもし……。はぁF・E・T・Sですか? はぁ……。なんですって? 学院内にホールが存在するという事実があるんですって!?」
(F・E・T・Sだと? あの死骸の調査の結果が出たのか? ならなぜ俺たちが先ではなくこっちが先に通達された? ポチータか花が何かしたのか? くそ、ここからだと何も分からないな)
「まずい……。受付に連絡を入れてください。すぐに学院へ私が向かうと。F・E・T・Sの現地調査が入るよりも前に先に何とかしておかないと」
外にいる職員の足音が遠ざかっていく。
どうやら難は逃れた、が。
それにしても現地調査よりも先に学院内に入っておく?
いよいよきな臭くなってきたとアナハイドはニッと笑った。
知りたい情報も手に入ったことだし、アナハイドはここからの脱出に動き始める。
脱出はポチータが段取ってくれると言っていたが——
そう考えつつ、アナハイドは清掃業者を装いつつ侵入した部屋に辿り着いた。
壁に穴が開いた場所に立つと——
(結界が消えた?)
どうやらこの部屋に立ったアナハイドをポチータはどこからか観察しているらしい。
ハッキング技術で結界が解かれた隙にアナハイドは外へ脱出するのだった。
***
イーグレット警察署に戻ったアナハイドはいつもの執務室でパソコン作業に勤しむポチータと合流した。
「戻ったぞ。いやー。まじでぎりっぎりの潜入調査だったわ」
「お疲れー。それで目ぼしい情報は手に入ったのかな?」
「まあな。結構ドギツイ内容だが……」
「おっけー。とりあえずここは安全だから話してもらえるかな?」
アナハイドは大使館で見たファイルの内容をポチータに共有した。
向こうの世界ではイネストリアという国家が世界を独占、人間を養殖して魔法技術の素材に転用していること。
そして最後に見た——
「嘘だろう? ハイネルが人間を加工した生命魔導兵器でこの国を知らず知らずのうちに操っていたって……」
そう……すでにハイネル、いやイネストリアはこの国を好きなように操っていたのだ。
魔法技術を伝授し、互いに協力関係を築いていたと認識させられていたが、その実は違う。
この国の大気中に散布された魔導兵器によってイーグレット国民の遺伝子を書き換え、記憶を操作し徐々に異世界ハイネルの思想に染め上げていたらしい。
「思えば、たしかに……。この国の科学技術よりも今は魔法技術の方が多く見られている。それは単に便利だからって考えてたけど……」
「ああ。俺だって同じだ。普通に考えりゃ魔法を学んで力をつけるよりも金で拳銃を買って所持する方が遥かに楽だし、魔法を学ばずとも車で都市間の移動はできる。いつからだ? なんでも魔法でいいって考え始めたのは……」
「まあまだ自動車の使用も見られてる現状、そこまで被害が甚大じゃないのは確かだね。でも、この調子だと国ごと乗っ取られてたかもって考えると……。ゾッとするね」
「違いないな。それと、向こうの職員にF・E・T・Sから連絡が入っていたが——」
アナハイドは脱出する寸前に聞いた職員の電話の内容についてポチータに尋ねてみると——
「ああ。そのことだね。向こうからおいらたちにも連絡があったよ。なんでもあの死骸、カリギュラだったらしくてね。F・E・T・Sはこれから学院内の現地調査に踏み切ることになったらしいんだ」
「どおりで慌ただしくなったわけだ。奴さんその事実を隠蔽しようとしてたぞ」
「その話が聞けて答えが出たね。学院にホールは存在する。しかも隠せるぐらいの小規模の……。そこで何をしてるかは分からないけど——」
問題はもはやダークトリニティという悪の組織に留まらない。
恐らくダークトリニティ自体、ハイネル全体が関わってる巨大な問題の一つに過ぎない。
氷山の一角……だったのだろう。
そうなると——
「異世界ハイネルは敵だ。武力ではなく魔法による侵略って最悪な手段を取ってくる、な」
ポチータは頷く。
そうしてすぐに二人は動き始めた。
ポチータは署長室へ。
アナハイドはハイネリアン魔法学院へ。
事件は国を巻き込んで大きく動き始めた。
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