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第34話:死後の世界(アフターライフ)の完全民営化と、大公閣下の魂の永劫縛鎖

「……アリス。人間がどれだけ富を築き、どれだけ権力を握ろうと、最後にはすべてを手放して向かわなければならない『究極の逃げ道』が存在しているわ。それが何か、分かるかしら?」


 超巨大・魔導豪華客船『A&Lグランド・リヴァイアサン』。

 天候も、時間も、才能も、未来も、そして並行世界すらも完全に支配し、私たちの魔導商会A&Lが【大宇宙における究極の資本主義の頂点】に君臨しているある日の午後。

 最上階のCEO執務室にて。ルミアは、ヒマ端末から空中に投影された『世界各国の不慮の事故による死亡者数』のデータを見つめながら、氷のように冷徹な、しかしどこか苛立ちを孕んだ声で問いかけた。


「究極の逃げ道? うーん……夜逃げ? それとも出家して僧侶になるとか?」

 私が空間転送で取り寄せた『並行世界エルフの里産・極上マナ・ショートケーキ』を頬張りながら首を傾げると、ルミアは美しい顔で盛大なため息をつき、バインダーで机を叩いた。


「違うわ。『死』よ」


「死……。でも、病気や寿命は私が作った『メディカル・ナノゴーレム』で克服したじゃない。今やA&Lペイで課金さえしていれば、誰も病気じゃ死なないわよ?」


「ええ。寿命や病気という『内因的な死』は完全にハッキングしたわ。でもね、人間は馬車に轢かれたり、魔獣に丸呑みにされたり、崖から落ちたりする『物理的な事故』ではあっけなく死んでしまうのよ」


 ルミアは、空中の死亡者グラフを忌々しげに赤く塗りつぶした。


「いいこと、アリス? 経営学的に見て、消費者が『死ぬ』ということは、我が社に対するすべての支払い義務サブスクリプションが物理的に消滅することを意味するの! どんなに莫大な借金を背負わせても、『死んでしまったので払えません』なんていう無責任な言い逃れが、この世界ではまかり通っているのよ!!」


「あー……。まあ、死人に口なし、死人に借金取りは行けないって言うしね」


「行けないなら、私たちが『死後の世界』まで追いかけて取り立てるのよ」

 ルミアの瞳が、狂気と強欲のゴールドの輝きを放ち始めた。


「そもそも、人間が死んだら魂が天国や地獄に行き、神の裁きを受けて輪廻転生する……なんていう『神の独占事業』を、いつまでも許しておく必要はないわ。命が尽きたあとの魂すらも、我が魔導商会A&Lが完全に管理し、パッケージ化して売り飛ばす! ……名付けて、超次元・魂の強制回収と来世の販売ビジネス……【A&L アフターライフ・プロデュース】計画の始動よ!!」


 ルミアの口から飛び出したのは、宇宙の真理である『死生観』そのものをハッキングし、人々の『来世』すらも課金アイテム(ガチャ)に変えてしまおうという、神をも恐れぬ究極の冒涜計画だった。


「なるほどね……! 死の瞬間に肉体から離れる魂(アストラル体)の魔力波長をキャッチして、神様のところにいく前に『我が社のサーバー』に強制的に吸い上げるのね!」

 技術者としての私の脳髄に、またしても強烈なインスピレーションの電流が走った。

 私はケーキのフォークを置き、白板の前に立ってガリガリと新たな魔法陣と、一つの『巨大なゲート』の計算式を書き殴り始めた。


「いい、ルミア。これを実現するためには、人工月『アストラル・ルナ』の観測システムを応用するわ! ユーザーの心肺が停止した瞬間、あらかじめヒマ端末とリンクさせておいた魂を【超重力・魂縛魔法陣ソウル・キャッチャー】で空間転送し、地下の巨大な魔力結晶サーバーの中に隔離・保存するの!」


「素晴らしいわ! つまり、死んだ人間は天国でも地獄でもなく、我が社のサーバー(仮想空間)に直行するということね!」


「ええ! 名付けて、輪廻転生管理システム……【A&L 転生ゲート】よ!! このサーバーの中では、魂は自我を保ったまま存在できる。そして、彼らに【次の人生(来世)】を選ばせるの!」


「…………ッ!!」

 ルミアの瞳孔が、限界まで拡大し、美しい三日月の形に歪んだ。


「あはははは!! えげつない! えげつなすぎるわアリス!! これぞ究極の錬金術! 来世の定額制サブスクリプション、そして【異世界転生ガチャ】の完成よ!!」


 ルミアは歓喜の声を上げ、猛烈な勢いでヒマ端末にビジネスモデルの構築を始めた。


「いい、アリス! まず死んだ顧客の魂には、我が社からの【来世カタログ】を見せるわ。生前のA&Lペイの残高や、遺族からの課金額に応じて、次の人生のスタートダッシュを決められるのよ!」


「来世カタログ! 例えばどんなのがあるの?」


「【SSR:大帝国の第一王子(無限の魔力とチートスキル付き)】が、百兆ゴールド! 【SR:裕福な商人の息子】が、百億ゴールド! ……そして、お金を払えない貧乏な魂には、無料プランとして【N:名前もないゴブリン】や【N:フンコロガシ】の人生を強制的に割り当てるのよ!!」


「うわぁ……。前世のお金で来世の運命を買うのね……」


「そうよ! しかも、これだけじゃないわ!」

 ルミアは、悪魔そのものの笑顔で断言した。


「我が社に莫大な借金を残したまま死んだ不届き者には、【A&L 転生ローン】を適用するわ! 来世で『スライム』や『ただの雑草』に転生させ、自我を保ったまま、来世の寿命が尽きるまで我が社のために魔力を生み出し続けさせるの! 死んで借金がチャラになる時代は終わった! 魂がすり減るまで、永遠(輪廻)の果てまで搾り取ってやるわ!!」


 死すらも安息にならない。

 富裕層は来世でもチート級の人生を金で買い、貧困層や借金持ちは来世でも虫や草として搾取され続ける。

 もはや神の裁きすらも『資本の論理』という名の狂気に飲み込む、惑星の因果律そのものを人質に取った究極の地獄だった。


「さ、最高ねルミア社長! じゃあ、今すぐこの転生ゲートの試作機を起動して、私が『来世で猫に転生するシミュレーション』のテストを――」


「――私の許可なく、君の『魂』を、輪廻の輪に乗せるなど、許されると思っているのか?」


 ふいに、執務室の空気が物理的に凍りつき、絶対零度の冷気と、極上の威圧感が部屋中を満たした。

 重厚な扉が開く音すらなく、漆黒の軍服に身を包んだ帝国の影の皇帝、ユリウス大公が私の背後に立っていた。


「ゆ、ユリウス様! お疲れ様です! どうですか、私たちの究極の死後支配ビジネス!」


 しかし、ユリウス様のアメジストの瞳は、これまでに見たことがないほど剣呑で、ドロドロとした独占欲と、宇宙の理(死生観)そのものを破壊しかねないほどの殺意に満ちていた。

 彼はスタスタと白板に歩み寄り、私が描いた『転生ゲート』の図面を鋭く睨みつけた。


「アリス。君はこの機械で、人間の魂を来世に送り込むと言ったな。……それはつまり、君の身に万が一のことがあった場合、君の魂が記憶を失い、別の人間や生き物として生まれ変わり、私以外の誰かを『家族』や『恋人』として認識する可能性があるということか?」


「えっ? あ、いや、輪廻転生って基本的にはそういうシステムですし、記憶を引き継ぐオプションは別料金(ルミア設定)ですから……」


「絶対に許さん」


 ドゴォォォォンッ!!

 ユリウス様から放たれた圧倒的な魔力プレッシャーで、執務室の天井が吹き飛び、私の手元にあった試作サーバーのコア(特大水晶)が、一瞬にして素粒子レベルに分解された。


「ゆ、ユリウス様!? 私の徹夜の試作品が!!」

「君の魂は、この大宇宙が始まった瞬間から永遠の果てまで、私だけのものだ。君が私を忘れ、私以外の者に微笑みかける来世など、想像しただけでこの世のすべての神を引きずり下ろして神格を消滅させたくなるほどの殺意が湧く!!」


 それは、常軌を逸した、魂(輪廻)レベルでの絶対的な独占愛と束縛だった。

 妻が来世で自分を忘れるのが嫌だから、輪廻転生という宇宙のシステムそのものを物理的に破壊すると言い張る男など、全次元を探してもこの魔王パトロンだけだろう。


「大公閣下。いくら貴方でも、理不尽が過ぎますわよ。アリスの転生テストができなければ、この世紀の死後ビジネスが頓挫してしまいますわ!」

 ルミアが呆れたように抗議するが、ユリウス様は氷のような視線で彼女を一瞥しただけだった。


「私の妻の魂の純潔は、全人類の来世よりも重い。……アリス、この『転生ゲート』のマスター権限を、私に渡せ。そして、私の魔力波長でシステムを完全に上書きしろ」

「う、上書き?」


「そうだ。他の有象無象の魂が、虫になろうが皇帝になろうが知ったことか。だが、【アリスの魂】だけは、絶対に輪廻転生のシステムから除外する」


 ユリウス様は、不敵に笑って私を見下ろした。


「万が一、君の肉体が滅びるようなことがあったとしても……君の魂は、天国にも地獄にも、転生ゲートにも行かせない。その瞬間に、私の魂(心臓)の中に直接強制転送ダウンロードし、私と一つの存在として永遠に融合させる。……死すらも、私たちを分かつことはできない」


「ひゃっ……!? ゆ、ユリウス様、それはもう来世への転生じゃなくて、ユリウス様との究極の『魂の強制合体(永遠の同棲)』じゃないですかっ!!?」


 私が顔から火が出るほど真っ赤になって抗議するが、もはや暴走した大公閣下の愛の暴力を止めることは誰にもできない。

 私の純粋な死後革命は、彼の手によって「妻の魂を輪廻の輪から強奪し、自分の心臓の中に永遠に幽閉(愛護)するための絶対防衛システム」へと完全に組み込まれてしまったのである。


「(……ほんと、どこに行ってもこの二人のイチャイチャには頭が痛くなるわ。まあ、大公閣下の魔力がシステムにリンクしたことで、死後の魂を捕獲するゲートの吸引力(引力)が神の領域まで跳ね上がったから、ビジネスとしては最高ね)」

 ルミアは、呆れ顔でヒマ端末を叩きながら、悪びれる様子もなく新たな事業計画書を完成させた。


 ◆◆◆


 それから数日後。

 『アストラル・ルナ』の通信網を通じて、世界中のヒマ端末に【A&L アフターライフ・プロデュース】のサービス開始が通知された。


 世界中の富裕層は、自らの『次の人生』を約束されたものにするため、生前から狂ったようにA&Lペイで【来世ガチャ】を回し始めた。

 彼らは「来世で魔法の天才になる」ためのスキルオプションや、「来世で絶世の美貌を手に入れる」ための容姿オプションに、国家予算レベルの金を湯水のように注ぎ込んだ。


 一方、借金を抱えたまま事故死した者たちの魂は、地下の『転生サーバー』に自動的に吸い込まれ、ルミアの言う通り【スライム】や【発電用のマナ・ラット(魔力ネズミ)】に強制転生させられ、前世の記憶を持ったまま、我が社の地下工場で新たな労働力として組み込まれていった。

 死すらも終わりではない。

 世界中のすべての人間は、自らの『魂』という永遠の財産すらも、魔導商会A&Lのシステムに完全にハッキングされ、死後も吸い上げられ続ける軍門に降ったのである。


 ◆◆◆


 その恐ろしい死後支配の真実を、文字通りの『地獄の底』で支えている者たちがいた。

 グランド・リヴァイアサンの地下最下層、魔力自家発電プラント(懲罰房)。


「ウガァァ……!! ギァァァァ……!!」


 巨大な鉄の回しハムスター・ホイールの中で。

 獣と化し、筋肉の限界を超えて走り続けるギルバート元王子とザイード元王子。

 彼らの目の前に設置された巨大モニターには、現在彼らの電力で稼働している『世界中の魂の回収と転生処理』の映像がリアルタイムで表示されている。


『あらあら、元・殿下たち。死後の世界のサーバーを維持するための天文学的な魔力を、よく生み出しているわね』

 頭上のスピーカーから、ルミアの冷酷な声が響く。


『いいこと? 今日から貴方たちには、何億という魂の行き先を管理するための「超・輪廻転生マナ・サーバー」の電力を賄ってもらうわ。……でも、ただ走らせるだけじゃつまらないわね。特別に、アストラル・ルナが弾き出した、貴方たちの【来世のステータス】をモニターに映してあげるわ』


 ルミアがヒマ端末を操作すると、モニターに一つの『転生カルテ』が映し出された。

 前回の「未来予測」で絶望を叩き込まれ、獣と化していたギルバートの脳に、ルミアは再び【少しの言語理解力】だけを無慈悲に復元させた。


「……あ? はっ……!? お、俺の……来世……?」

 ギルバートの瞳に、絶望の理性が戻る。


 モニターに表示された、彼らの【A&Lカルマ(徳)スコア】は、マイナス九百兆ポイント(※アリスへの婚約破棄、数々の暴言、そしてルミアからの借金利子によるもの)を叩き出していた。


『来世の予定転生先:【下水処理用・永久浄化スライム】』

『特記事項:知覚と痛覚を完全に残したまま、数万年間、他人の排泄物を食べ続ける人生。寿命が尽きた後は、【灼熱地獄の燃料用薪】に再転生』


「なっ……!!?」

 ギルバートの顔が、恐怖と絶望で完全に蒼白になった。


「嘘だ! 嘘だろ!? 俺の来世が、下水処理のスライム!? しかも痛覚を残したまま数万年!? ふざけるな! 俺は王族だぞ!! 王族の魂は神の御許に行くはずだぁぁぁ!!」


『神? あら、この世界のアフターライフは、もう我が社が買収したわよ。貴方のその莫大な負債を返済するには、スライムとして数万年労働してもらうしかないの。……ああ、でも安心しなさい? もし今、この回し車で【一秒間に一億回転】できれば、特別にガチャチケットを一枚あげるわよ?』


「ひぃぃぃっ!! 悪魔だ!! 死んでも許されないのか!! 来世まで地獄が予約されているというのかぁぁぁ!!」


『当然でしょう? 貴方たちがアリスにした仕打ちを考えれば、魂が消滅するまで搾り取られて当然よ。……さあ、来世の絶望を理解したなら、来世を少しでもマシにするために、今生でもっと死ぬ気でペダルを踏み込みなさい!! 足を止めたら熱板で丸焦げよ!!』


「アリスぅぅぅ……! 俺が悪かった! 頼む、もう来世なんていらない! 魂を……俺の魂を完全に消し去ってくれぇぇぇ!!」


 かつて私を無能と嘲笑い、自らの地位にあぐらをかいていた愚かな男は、現世での労働地獄だけでなく、死後の世界(来世)までもが最悪の地獄として『予約』されたことを悟らされ、究極の絶望の中で一生走り続ける運命にあった。

 彼らの流す絶望の涙は、最強のエンタメ帝国と死後支配を支えるための極上のエネルギーとして、現世から来世に至るまで一滴残らず吸い尽くされていくのであった。


 ◆◆◆


 その日の夜。

 グランド・リヴァイアサンの最上階、ペントハウス。

 世界中を狂乱の来世ガチャで支配した熱狂など一切届かない、絶対不可侵の静寂の中で。


 私は、ペントハウスのバルコニーで、ユリウス様の広い胸の中にすっぽりと収まり、彼の力強い鼓動を聞いていた。


「……アリス。世界中の人間が、あのゲートに魂を縛られ、次の人生の妄想にカネを落としている。……だが、君だけは、どこにも行かせない」


 ユリウス様は、私の銀髪を愛おしそうに撫でながら、極上に甘く、そして狂おしいほど熱い声で囁いた。


「ゆ、ユリウス様……。私、来世がどうなるかとか、全然興味ないです。だって、今ここでユリウス様と一緒にいることが、一番幸せですから。死んだ後のことなんて、ずっと先の話ですし」

 私が顔を上げて彼のアメジストの瞳を見つめると、彼は私の頬を優しく包み込んだ。


「ああ。君のその言葉こそが、私の魂を救う唯一の真理だ。……死すらも、輪廻すらも、私たちを引き離すことはできない。君の魂は私が永遠に保護し、私という存在の中に完全に溶かし込む。……君は、永遠に私だけのものだ」


 帝国最強の影の皇帝からの、死後の世界アフターライフすらも凌駕する、逃げ場のない独占と愛の誓い。

 彼の言葉はどこまでも重く、狂気じみているのに。私はその圧倒的な庇護と熱に、完全に心を奪われ、ただ彼に寄り添うことしかできなかった。


「……はい。私、死んでも、生まれ変わっても……ずっとユリウス様だけの妻でいますから」


 私が彼のアメジストの瞳を見つめ返し、そっと口付けを交わすと、彼は限界まで理性を吹き飛ばされたような瞳で私を抱き上げた。


「ああ。君のすべてを、魂の底の底まで、永遠に愛し尽くしてやろう」


 世界中の人間の死後をビジネスに変えたえげつない計画の裏で。

 私たち二人の、誰にも邪魔されない、そして神の裁きですら引き裂けない甘すぎる愛の時間は、果てしなく深く、永遠に続いていくのだった。


(第34話 終わり)

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