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第26話:体内侵入型・ナノ魔導ゴーレムと、全世界「健康(いのち)」サブスクリプションの恐怖

「……アリス。ビジネスにおいて、最も避けるべき『究極の損失』とは何だか分かるかしら?」


 超高高度・人工魔導月『アストラル・ルナ』が、夜空から美しくも恐ろしい青紫色のマナ・ウェーブを世界中に降り注いでいる夜。

 超巨大・魔導豪華客船『A&Lグランド・リヴァイアサン』の最上階、CEO執務室にて。ルミアは、世界中から秒単位で流れ込んでくる天文学的な利益のグラフを眺めながら、ふと、冷徹な哲学者のような瞳で私に問いかけた。


「究極の損失? うーん、他国からの理不尽な関税? それとも、魔力サーバーが物理的に破壊されることかしら?」

 私は、特注の巨大なビーズクッションに埋もれながら、最新の魔導回路の設計図を引いていた手を止めて首を傾げた。


「いいえ、違うわ。関税は脅せばなくせるし、サーバーは直せばいい。……経営者にとって最もどうしようもなく、かつ腹立たしい損失。それは『顧客の死』よ」


 ルミアは、ヒマ端末の画面に、とある小国の老王の顔写真を映し出した。


「例えばこの王様。我が社のカジノやガチャに毎月数十億ゴールドを落としてくれる、最高の優良顧客カモだわ。でも、彼はもう御年八十歳。最近は重い病を患っていて、いつお迎えが来てもおかしくない状態なの」

「あー……。まあ、人間だから寿命や病気には勝てないわよね」


「勝てない? 冗談じゃないわ」

 ルミアは、美しい顔に悪魔のような冷笑を浮かべ、バインダーで机を叩きつけた。


「死なれたら、そこで彼からの入金サブスクリプションが永遠にストップしてしまうのよ!? これまで我が社のインフラに依存させて育て上げてきた最高の財布が、ただの『寿命』なんていう非合理的な理由で使えなくなるなんて、経営学的に絶対にあってはならない大損害だわ! 死という概念は、ビジネスにとって最悪のバグよ!!」


 ルミアの強欲さは、ついに自然の摂理(生命の限界)にまで牙を剥き始めていた。

 顧客に長生きしてもらうのは、健康を願う優しさなどではない。「死ぬまで、いや死ぬことすら許さずに、永遠に金を搾り取るため」なのだ。


「そこでよ、アリス。貴女の常識外れの魔法で、人間の『病気』と『寿命』を物理的にハッキングしなさい。世界中の富裕層を、半永久的に生き長らえさせるのよ!」


「病気と寿命のハッキングね……なるほど。前にお披露目した『若返り美容ポーション』はあくまで皮膚の細胞を活性化させるだけの表面的なものだったけど、今回は身体の内側、つまり『内臓』や『免疫系』を根底から作り変える必要があるわね」


 技術者としての私の脳髄に、強烈なインスピレーションの電流が走った。

 私は白板の前に立ち、ガリガリと新たな魔法陣と、ある『極小の生物』の構造式を描き始めた。


「いい、ルミア。病気の原因になる悪性腫瘍やウイルスは、魔法薬を飲んでも身体の隅々までは届きにくいわ。だったら、自らの意思で病巣を探し出して『直接食べる』知能を持った魔法薬を作ればいいのよ!」

「知能を持った魔法薬?」


「ええ! 名付けて、体内侵入型・超微細スライム……【A&L メディカル・ナノゴーレム】よ!!」


 私は得意げに胸を張り、白板をバンバンと叩いた。


「ベースにするのは、私が研究所の掃除用に使っていた『浄化スライム』よ。これを私の空間魔法と質量圧縮魔法で、肉眼では絶対に見えない『細胞レベルの極小サイズ』にまで縮小するの! そして、それらを数億匹カプセルに詰めて、患者に飲ませる!」

「……えっと、体の中に数億匹のスライムを飼うということ?」


「そう! 体内に入ったナノゴーレムたちは、血液に乗って全身を巡りながら、ウイルスやガン細胞、さらには血管の詰まりや疲労物質を次々と『捕食』して完全に消化・浄化していくの! 臓器が傷んでいれば、スライムの超回復細胞がくっついて疑似的に臓器を修復する! これがあれば、どんな不治の病も一晩で完治し、寿命すらも数百年単位で延ばすことができるわ!!」


「…………ッ!!」

 ルミアの瞳孔が、限界まで拡大し、そして美しい三日月の形に歪んだ。


「あはははは!! 素晴らしい! 素晴らしすぎるわアリス!! これぞ究極の延命治療(不老不死)! 世界中の権力者たちが、全財産を投げ打ってでも欲しがる奇跡の薬よ!!」


「でしょ? でも、スライムだから放っておくと体内で増殖しすぎちゃう危険があるの。だから、人工月『アストラル・ルナ』からのマナ・ウェーブ通信で、スライムたちの行動を常にリモートコントロール(制御)する回路を組み込んでおくわ」


 私が安全装置セーフティの仕組みを解説した瞬間、ルミアの顔が、この世のすべての邪悪を煮詰めたような至高の笑顔に変わった。


「……リモートコントロール。つまり、私たちが月からの通信を『切断』すれば、体内のスライムの治療活動をいつでもストップできるということね?」


「え? あ、まあ、そうなるわね。ストップしたら、元の病気が一気に再発して死んじゃう危険があるけど……」


「完璧よ!!!」

 ルミアは歓喜の声を上げ、私を強く抱きしめた。


「いい、アリス! このナノゴーレム・カプセルは『無料』で世界中の富裕層に配布するわ! どんな病の床にある王族にも、無償で奇跡の完治を与えてあげる! ……ただし!! 彼らが健康を維持するための『月からの制御通信マナ・ウェーブ』の受信料として、毎月一億ゴールドの【命のサブスクリプション契約】を結ばせるのよ!!」


「い、一億ゴールド!?」


「そうよ! 一度健康な肉体の喜びを知った人間は、二度と病の苦しみに戻ることなんてできない! もし支払いを滞納すれば、月からの電波を止め、体内のナノゴーレムを停止させる! その瞬間、彼らは再び病に倒れる! つまりこれは、世界中の権力者の『命のスイッチ』を、我が社が物理的に握るということよ!!」


 永遠の命を与える代わりに、永遠に全財産を搾り取り続ける。

 文字通りの『命を人質に取った完全無欠のサブスク』。私は、親友の恐るべき経営手腕に、畏敬の念すら抱き始めていた。


「さ、最高ねルミア社長! じゃあ、今すぐこのナノゴーレムの第一号カプセルを私が飲んで、体内での稼働テストを――」


「――待て。今、何と言った? アリス」


 ふいに、執務室の空気が物理的に凍りつき、絶対零度の冷気と、極上の威圧感が部屋中を満たした。

 重厚な扉が開く音すらなく、漆黒の軍服に身を包んだ帝国の影の皇帝、ユリウス大公が私の背後に立っていた。


「ゆ、ユリウス様! お疲れ様です! どうですか、私たちの究極の医療計画!」


 しかし、ユリウス様のアメジストの瞳は、これまでに見たことがないほど剣呑で、ドロドロとした怒りと独占欲に満ちていた。

 彼はスタスタと白板に歩み寄り、私が描いた『ナノゴーレム(極小スライム)』の図を鋭く睨みつけた。


「アリス。君は今、この得体の知れないスライムを『数億匹』も、自分の体内に『侵入』させると言ったな?」

「えっ? は、はい。まずは私自身がテスト(治験)をしないと、安全性が証明できませんから……」


「絶対に許さん」


 ドゴォォォォンッ!!

 ユリウス様から放たれた圧倒的な魔力プレッシャーで、執務室の壁にヒビが走り、私の手元にあったナノゴーレムの試作カプセルが、容器ごと一瞬にして消し炭になった。


「ゆ、ユリウス様!? 私の徹夜の試作品が!!」

「いくら極小とはいえ、私以外の何者かが、君の粘膜に触れ、血液に混じり、君の内臓や心臓にまで這い回るなど……想像しただけで、この船ごと世界を吹き飛ばしたくなるほどの殺意が湧く。君の体内すべては私の完全なる所有物だ。一匹の微生物たりとも、君の中に入ることは私が許さない」


 それは、常軌を逸した、細胞レベルの独占欲だった。

 医療用のナノマシンに対して「俺以外のスライムが妻の体内に入るのは浮気だ」と言い張るなど、もはや嫉妬の次元が狂っている。


「大公閣下。いくら貴方でも、理不尽が過ぎますわよ。アリスの体内でテストできなければ、この世紀の医療ビジネスが頓挫してしまいますわ」

 ルミアが呆れたように抗議するが、ユリウス様は氷のような視線で彼女を一瞥しただけだった。


「私の妻を実験台にする必要はない。……アリス、このナノゴーレムの『核』となる制御回路を出せ」

「えっ? は、はい。これですけど……」


 私が予備の制御用魔力チップを渡すと、ユリウス様はそのチップを指先でつまみ、自らの圧倒的な『アメジスト色の魔力』を注ぎ込み始めた。

 ビリビリと空間が震え、チップが元の青色から、ユリウス様と同じ深く妖しい紫色へと変色していく。


「君の体内にスライムが這い回るのが許せないのなら、私がそのスライムの『存在そのもの』を上書きすればいいだけの話だ」


「う、上書き……?」

「このナノゴーレムの全個体に、私の魔力波長と意思を完璧にリンクさせた。これでこのスライムは、単なる医療器具ではなく、私の魔力から生み出された『私の分身ユリウス・ナノガード』だ」


 ユリウス様は、不敵に笑って私を見下ろした。


「これならば、君の体内に入っても何の問題もない。君の心臓も、肺も、血の最後の一滴に至るまで、文字通り『私自身』が君の内側から完璧に守り、癒し、そして抱きしめ続けることができるのだからな。……素晴らしい発明だ、アリス。早速今夜から、この紫色のスライムを君の体内に注ぎ込ませてもらおう」


「ひゃっ……!? ゆ、ユリウス様、それはなんだか別の意味でめちゃくちゃ恥ずかしいというか、背徳感がすごすぎるんですけどっ!!」


 私が顔から火が出るほど真っ赤になって抗議するが、もはや暴走した大公閣下の愛の暴力を止めることは誰にもできない。

 私の純粋な医療革命は、彼の手によって「妻の体内を二十四時間監視し、内側から細胞レベルで愛撫・防衛するための極小ストーカー兵器」へと完璧に改造されてしまったのである。


「(……ほんと、どこに行ってもこの二人のイチャイチャには頭が痛くなるわ。まあ、大公閣下の魔力が加わったことで、ナノゴーレムの治癒能力が百倍に跳ね上がったから、商品価値としては最高ね)」

 ルミアは、紫色の光を放つナノゴーレムのデータをヒマ端末に入力しながら、悪びれる様子もなく事業計画書を完成させた。


 ◆◆◆


 それから数日後。

 『アストラル・ルナ』の通信網を通じて、世界中の国家元首や大富豪のもとに、魔導商会A&Lからの『特別な贈り物(無料サンプル)』が空間転送で届けられた。


 北の氷雪地帯を治める、ある王国の王城にて。

 不治の病に侵され、ベッドの上で死の淵を彷徨っていた老王の口に、侍従が震える手で『紫色のカプセル』を含ませた。


「陛下……魔導商会からの奇跡の薬です。どうか、これをお飲みに……」


 ゴクリ。

 老王がカプセルを飲み込んだ、数秒後。


「ごふっ……ぐはぁっ……!!?」

 老王の体がビクン!と大きく跳ね、全身の毛穴から黒黒とした不気味な汗(病原菌と老廃物の死骸)が噴き出した。


「へ、陛下!! やはり帝国からの贈り物は毒だったのか!!」

 侍従たちがパニックになって叫ぶ中。


「……おお……。おおおおおっ……!!」


 老王は、何十年ぶりかに、自らの足でベッドの上にスッと立ち上がった。

 曲がっていた腰は真っ直ぐに伸び、濁っていた瞳には若い頃のような鋭い光が宿っている。長年彼を苦しめていた肺の病も、心臓の痛みも、完全に消え去っていた。

 ユリウス大公の魔力を帯びた『A&L メディカル・ナノゴーレム』が、彼の体内を一瞬にして修復し、数十年分の若さを取り戻させたのだ。


「奇跡だ!! 息が……息が苦しくない! 体が羽のように軽いぞ!! 余は治ったのだ! 魔導商会A&Lの技術は、神の御業か!!」


 老王が狂喜乱舞し、侍従たちが感涙にむせぶ中。

 ベッドの脇に置かれていたヒマ端末が、無機質な電子音を鳴らした。


『ピロロン! 【A&Lライフ・サポート】の無料体験期間(一分間)が終了しました』

『これより先の健康維持をご希望の場合、月額一億ゴールドの【命のサブスクリプション契約】の更新が必要です。同意して支払いますか? 【はい / いいえ】』


「……む? なんだこの画面は。月額一億ゴールドだと? 馬鹿な、そんな大金、我が国の国庫の半分ではないか! 払えるわけがなかろう! すでに病は治ったのだ、【いいえ】だ!」


 老王が、強気な笑みを浮かべて『いいえ』のボタンをタップした、その瞬間。


「がはっ……!! ぐ、あぁぁぁぁぁっ!!?」


 老王は突如として胸をかきむしり、ベッドの上に倒れ込んで激しく血を吐き始めた。

 アストラル・ルナからの通信が切断されたことで、体内のナノゴーレムが強制スリープ状態に移行。押さえ込まれていた病魔が、元の状態に戻ろうと一気に牙を剥いたのだ。


「へ、陛下!! お気を確かに!!」

「い、息が……心臓が止まるぅぅぅ!! は、早く! 早くその端末の……【はい】を押せぇぇぇ!! 払う! いくらでも払うからぁぁぁ!!」


 侍従が慌ててヒマ端末の『はい』をタップし、国庫の権利書を担保にしてA&Lペイの支払いを完了させる。

 その直後、再び月からのマナ・ウェーブが受信され、老王の体内のゴーレムが再起動。彼の苦しみは嘘のように消え去った。


「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……っ。あ、悪魔だ……! 帝国の魔導商会は、神ではない……命を喰らう悪魔だ……っ!!」


 老王は、健康で若々しい肉体を取り戻した歓喜の裏で、自らの命のスイッチが完全にルミアの手中に握られたという絶望に、ガタガタと震えながら涙を流すしかなかった。


 こうして、世界中のすべての権力者たちは、病の恐怖と引き換えに、国家の富を永久に魔導商会に吸い上げられ続ける『恐怖の医療サブスクリプション』の軍門に降ったのである。


 ◆◆◆


 その恐ろしい医療支配の真実を、地獄の底で支えている者たちがいた。

 グランド・リヴァイアサンの地下最下層、魔力自家発電プラント(懲罰房)。


「ぜぇ……はぁ……!! ぎ、ギルバート先輩!! なんですか今日のペダルの異常な重さはぁぁぁ!!」

「知るかぁぁぁ!! 世界中の権力者の体内にいる数兆匹のナノゴーレムに、月を経由して通信を送るための巨大サーバーの電力を、俺たちだけで賄ってるんだぞぉぉぉ!!」


 巨大な鉄の回しハムスター・ホイールの中で。

 ギルバート元王子とザイード元王子は、全身の筋肉を悲鳴を上げさせながら、滝のような汗を流して走り続けていた。


 彼らの目の前に設置された巨大モニターには、現在彼らの電力で命を繋ぎ止められている『世界中のVIP顧客の心電図と支払い状況』がリアルタイムで表示されている。


『あらあら、元・殿下たち。随分と足取りが重いわね』

 頭上のスピーカーから、ルミアの冷酷な声が響く。


『いいこと? 貴方たちが走るのを一秒でもサボってサーバーの出力が落ちれば、ナノゴーレムの制御が乱れて、モニターに映っている数百人の王様や大富豪たちが一斉に心肺停止して死んでしまうわ。……もしそんな事態になれば、彼らの遺族からの【暗殺の損害賠償(数百兆ゴールド)】を、すべて貴方たちの借金に上乗せするからそのつもりでね』


「な、なんだとぉぉぉ!? なんで俺たちが、顔も知らないジジイどもの心臓のペースメーカー代わりにならなきゃいけないんだぁぁぁ!!」

 ギルバートが絶望の血涙を流しながら叫ぶ。


『他人の命を背負うなんて、王族にとって素晴らしい経験じゃない。……さあ、西の国の王様の血圧が下がっているわよ! もっと死ぬ気でペダルを踏み込みなさい!! 足を止めたら熱板で丸焦げよ!!』


「ひぃぃぃっ!! 走る! 走りますぅぅぅ!!」

「ザイード! 止まるな! 俺たちの足が止まったら、数百の国家から命を狙われるぞぉぉぉ!!」


 かつて私を無能と嘲笑い、自らの地位にあぐらをかいていた愚かな男たちは、今や私の創り出した『恐怖の医療システム』を物理的に動かすための「ただの生体バッテリー」として、他人の命の責任まで背負わされながら一生走り続ける運命にあった。


「アリスぅぅぅ……! 俺が悪かった! 健康なんていらないから、せめて五分だけ休ませてくれぇぇぇ!!」


 ギルバートの悲痛な絶叫は、豪華客船の轟音とサーバーの冷却ファンの音にかき消され、誰の耳にも届くことはない。

 彼らの流す絶望の涙は、最強のエンタメ帝国と医療支配を支えるための極上のエネルギーとして、今日も一滴残らず吸い尽くされていくのであった。


 ◆◆◆


 その夜。

 グランド・リヴァイアサンの最上階、ペントハウス。

 世界中を恐怖と健康のサブスクリプションで支配した狂乱など一切届かない、絶対不可侵の静寂の中で。


 私は、ベッドの上でユリウス様の広い胸の中にすっぽりと収まり、彼に後ろから抱きしめられていた。


「……トクン。トクン。……完璧なリズムだ。君の体内の細胞の一つ一つが、私の魔力(分身)に守られ、健やかに息づいているのが手に取るように分かる」


 ユリウス様は、私の胸元にそっと手を当て、私の鼓動を確かめながら、極上に甘く、そして狂おしいほど熱い声で囁いた。

 彼の紫色の魔力が込められたナノゴーレムが私の体内を巡っているせいか、彼が触れると、身体の奥底から甘い電流が走るような不思議な感覚に包まれる。


「ゆ、ユリウス様……。あの、本当に病気も疲れもなくなって、身体はすごく軽いんですけど……。ユリウス様の魔力が身体の中にいると思うと、なんだかずっと、内側から見つめられているみたいで……恥ずかしいです」

 私が顔を真っ赤にして身をよじると、彼は私の耳元に唇を寄せ、甘い吐息を吹きかけた。


「その通りだ。私は君の表面だけでなく、君の血肉のすべて、魂の底の底まで完全に愛し、守り抜いている。……君の鼓動は私のために鳴り、君の命は私の愛によって燃えているのだ」


 帝国最強の影の皇帝からの、細胞レベルでの逃げ場のない独占と愛の誓い。

 彼の言葉はどこまでも重く、狂気じみているのに。私はその圧倒的な庇護と熱に、完全に心を奪われ、ただ彼に寄り添うことしかできなかった。


「……はい。私、ユリウス様の世界で、一番健康で、一番幸せな妻でいますから」


 私が彼のアメジストの瞳を見つめ返し、そっと口付けを交わすと、彼は限界まで理性を吹き飛ばされたような瞳で私をベッドに押し倒した。


「ああ。君のすべてを、今夜も隅々まで愛し尽くしてやろう」


 世界中の権力者の命を握るえげつないビジネスの裏で。

 私たち二人の、誰にも邪魔されない、そして神ですら介入できない甘すぎる夜は、果てしなく深く続いていくのだった。


 魔導商会A&Lの世界支配の覇道と、大公閣下の重すぎる溺愛は、いよいよ世界の根幹を揺るがす最終局面へと向けて、さらに激しく、痛快に加速していくのだった。


(第26話 終わり)

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