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番外編30 幼き日の誓い1(ラザロス編⑦)

本編開始前。

ラザロスとイザベラの幼少期のエピソードです。




 自分は恵まれている。ラザロスは物心ついた時にはそう感じていた。


 侯爵である父は他国にもその名を轟かせるほどの腕利きの騎士で、ラザロスの憧れだった。


 彼が初めて剣を握ったのは六つの時だ。子どもの腕に真剣は重かったが、誕生日の祝いに父から剣を貰った時は嬉しくて、剣を胸に抱いて眠ったほどだ。


 母は美しく控えめな女性だったが、優しかった。父のように立派な騎士になりたいとラザロスが言うと、彼の母はいつも嬉しそうに笑っていた。


 そして幼い彼にとって父と同じか、それ以上に大きな存在だったのは幼馴染のイザベラ・ヴィンス・リリアーヌだった。


 彼女はラザロスの父が騎士として仕えるリリアーヌ公爵の娘で、ラザロスより一つ年下だ。


 父親同士が主従関係にあり、また領地も隣同士であったことから、イザベラとラザロスは赤ん坊の頃から一緒に過ごし、互いが一番身近な存在だった。


 何をするにも一番に自分を頼りにして、後をついてくるイザベラに対して、ラザロスが庇護欲を掻き立てられるのは自然な成り行きだった。


 小さな頃から自立心が強く、我慢強い面のあるイザベラは、困ったことがあっても、悲しいことがあってもギュッと眉根を寄せ、唇を引き結んで一人でじっと堪えていることが多かった。


 いつも傍にいたからこそそんな彼女の感情の変化の機微に敏感になったラザロスは、自然とイザベラの世話焼きをするようになった。


 彼が父親に剣の稽古をつけてもらうようになったのは、それから少ししてからのことだ。


 父親がリリアーヌ公爵に仕えているのと同じように、自分はイザベラに仕えるために生まれてきたのだと彼は信じて疑わなかった。



 そんな彼に転機が訪れたのは彼が七つの時だ。


 剣の稽古をつけてもらう時間になっても約束の場所に現れない父を捜しに公爵邸を歩き回っていたラザロスは偶然、リリアーヌ公爵と父親の会話を聞いてしまったのだ。



「あの子の魔力が発現するまで、あと何年あるんだろうか……。魔力が発現してしまえば、あの子は故郷に帰ることすら叶わず、一生魔塔で過ごすことになる。そうなればあの子が慕っている君の息子とも離れ離れだ。魔術師の家の者として言ってはならない言葉だろうが、いっそ一生イザベラが魔力に目覚めなければいいのにとすら思うよ……」


「心中お察し致します」


「こんな話をしても無意味なことはわかっている。だが、あの子はまだあんなに小さいのに、国を守るために身を捧げろだなんて……。あのアザは、まだ幼い子に背負わせるにはあまりに大きく、残酷じゃないか……」



 公爵の執務室の僅かに開いた扉の隙間から聞こえてきた会話の内容はラザロスにとって衝撃的なものだった。



「父上、今のお話はいったい……?」


「ラザロス! まさか聞いていたのか?」



 たまらず扉を開け放って声を上げたラザロスに、公爵と侯爵が驚いた顔をして振り向いた。



 イザベラと離れ離れになる?


 国に身を捧げるとはいったい?



 いくつもの疑問がラザロスの脳裏に浮かんだが、アザと聞いて彼には思い出すものがあった。


 イザベラの左の手のひらには、生まれつき変わった形のアザがあった。


 何かを示す印や記号のようにも見えるそれを不思議に思っていたラザロスだったが、公爵の話から察するにあのアザはやはり偶然などではなく、何か重大な意味を持っているらしい。


 イザベラが魔力に目覚めたら、魔塔という場所に連れていかれてしまうことと、あのアザが関係している。


 年端も行かぬラザロスに理解出来たのはその程度だったが、ずっと一緒だと思っていたイザベラと離れ離れになるかもしれないという事実に、彼は酷く動揺した。


 最初はイザベラを可愛い妹のように思っていたけれど、この頃にはすでにラザロスは自分の恋心を自覚していたのだ。


 大好きなイザベラがいなくなってしまうかもしれない。


 そんなのは嫌だった。



「いいかい? ここで聞いたことは、誰にも他言してはならない。もちろん、イザベラ様にもだ」


「わかりました」



 父親に言い含められた後、ラザロスは真っ直ぐにイザベラの部屋に向かった。



「イザベラ様、俺です」


「ラザロス……?」



 許可を取って入室すると、カウチに腰掛けていたイザベラに近付き、その手を取った。


 左手だ。手のひらを天井に向けるとその中央に、くっきりとした赤いアザが見えた。



「急にどうしたの?」



 自分の左手を下にして、頬を赤らめる彼女の左手を支え、右手の人差し指でアザをなぞる。



「ラザロス、くすぐったいわ」



 二度、三度と繰り返し指でアザをなぞってみたが、それが消えることはなかった。



 このアザさえなければ。


 こんなアザ、消えてしまえばいいのに。


 そんなラザロスの幼い願いは叶わなかった。



「すみません、何でもありません……」



 愕然としながら、ラザロスは見たくない現実に蓋をするようにイザベラの左手を自分の右手で握ってアザを覆い隠した。




本日12/24(土)の活動報告に、人物紹介のイラストを手掛けて下さったまよねーず氏にいただいた本作品のクリスマスイラストを掲載しております。


主従セットでクリスマスカラーなあのキャラたちの素敵なイラストとなっておりますので、ぜひご覧下さい。


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/262376/blogkey/3090473/

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