番外編29 IF展開! チビヴァレリアス
サブタイトルの通り、『もしも戦っている途中で邪竜が小さくなってしまったら?』というおふざけif展開になります。
「で、どうするんだよ、これ?」
そう言ってグレイが指差した先には、小型犬ほどの大きさの黒い竜がいた。
先程まで厳しい戦いをしていた彼だが、今の彼の眉間には戦闘中以上に深いシワが刻まれている。
竜のサイズが小さいからと言って油断してはならない。なにせその竜は、先程まで彼らが戦っていた邪竜・ヴァレリアスなのだから。
「ややや! 邪竜がこのような愛らしいフォルムに変身するとは、世の中不思議なこともあるものだなぁ」
「すまない……。私がデタラメに薬を調合したばかりに、こんなことになってしまって。薬品同士が反応して、思わぬ効果をもたらしてしまったようだ」
興味深げにミニ邪竜を観察しているロジェの隣で、責任を感じたユーリマンが項垂れている。
「倒したとは言えないが、これはこれで無力化したことになるんだろうか?」
思わぬ形で邪竜との戦いが幕引きとなり、ラザロスは困惑の表情を浮かべていた。
倒すつもりで彼は戦っていたのに、突然目の前でシュルシュルと音を立てて邪竜が縮んでいったのだ。驚くなという方が無理がある。
だが、そんなラザロスの困惑を遥かに凌ぐほどショックを受けている者がいた。リベラだ。
「いや、オレの同行した意味は……? オレの存在意義は⁉︎ オレが必死に邪竜の倒し方を調べた意味は⁉︎ 倒さなくてもいいなら、オレが着いてくる必要なかったよな?」
「リベラ、申し訳ない」
「道中、宿の手配とか頑張ってくれたじゃないか。それで十分だよ」
「いや、そのくらい君たち自分で出来るよな? 納得いかないぞ!」
悲嘆に暮れるリベラにひたすら謝罪を述べるユーリマンと、なんとかフォローしようとするラザロスだが、リベラは納得がいかなかった。
何日も徹夜して本を読み漁っていたのに、全て無意味だったと考えると、リベラは涙が出そうだった。
「まあまあ、これやるから元気出せって」
「何だ、この石は?」
泣きそうになっているリベラの肩を叩いたのは、グレイだった。彼の差し出した右手には赤い宝石がある。
「邪竜の額に嵌まってた石だよ。ぶんどってやった」
「いや、どうやって?」
「どうやってって普通に手で? こう、ぐいっと? 剥ぎ取ったらあいつ急に大人しくなりやがった」
「なんで疑問形なんだ! それって、取ってはいけないやつじゃ……?」
「まあいいから、受け取れって」
「キャサリン様、これで満足してくれるかな……?」
雑な説明でグレイに竜玉を手渡されたリベラは、王都に残してきたキャサリンを想った。
*****
「それで、リベラ。貴方はいったい何を連れて帰ってきたのかしら?」
帰還して早々、国外移住の話を聞かされて卒倒しかけたリベラの前には、どことなく不機嫌そうなキャサリンがいた。
いや、不機嫌そうと言うよりは妙に距離を取って、何かを恐れている?
そう考えたリベラがキャサリンの視線の先に目をやると、ぷっくりとしたお腹がチャームポイントのミニサイズ化した邪竜と目が合う。
「グルルルルガオー!」
「ぎゃー、君なんでオレばっかり付け狙うんだ!」
唸り声を上げて今にも噛み付いて来そうな邪竜に、リベラは慌てて逃げ出した。
その場をグルグル周回するように走り回るリベラの後ろをチビヴァレリアスが後ろ足二足歩行で追いかけ回す。
およそ脅威ではなくなったものの、存外に愛嬌のある見た目になった邪竜にトドメを刺すにも罪悪感を覚えて連れて帰ることにした結果がこれだ。
何故かはわからないが、帰りの道中も邪竜はリベラばかりを狙っていた。
「お嬢様、助けてください。こいつ、邪竜なんです!」
「うちはペット禁止よ」
「私も飼う気はありませんよ!」
助けを求めるリベラに、キャサリンが的外れなつっこみを入れた。
困った時にリベラが一番頼りにしているラザロスは、イザベラとともに何処かに消えてしまっている。
残るはユーリマンとロジェ、グレイの三人だが、ユーリマンはヴィオレッタと何か話し込んでいる。
「あら、邪竜ってどんな生き物かしらと思っていたけれど、随分と可愛らしいじゃない」
「……最初からあのサイズなら良かったんですけどね」
「見てないで助けて下さい!」
「仕方ないわね」
親鳥と子ガモを見るように微笑ましげにしているジャスミンと遠い目をするグレイに、半ベソのリベラがたまらず助けを求めると、ジャスミンが動いた。
ツカツカとヒールの音を響かせて近寄ったジャスミンがさっとチビ邪竜を両手で抱え上げる。
「その辺にしておいてあげなさい」
「きゅっ?」
子どもに言い聞かせるように話し掛けるジャスミンの声に、ヴァレリアスはこてんと小首を傾げた。
「あら、トカゲみたいだと思っていたけど案外愛嬌があるのね」
「エカテリーナ様! 僕はどうでしょうか?」
エカテリーナが邪竜に興味を示したことで何かしら感化されたらしいのロジェが、ヴァレリアスと同じ角度で首を傾げたが、エカテリーナは面倒くさいとばかりに無視を決め込んだ。
「邪竜がジャスミン様に懐いている……。誰か冗談だと言ってくれ!」
「こうして見ると、やっぱり可愛いわね。キャサリンも触ってみてはどうかしら?」
「私は遠慮しておくわ」
一難去ってまた一難。常識の枠組みの外の出来事を前に、有り得ないとリベラは頭を抱えた。
キャサリンもまた、ジャスミンに邪竜とのふれあいを勧められて、一定の距離を保ちつつ本気で嫌そうな顔をしている。
「おい、愛玩動物のフリなんてしやがって何を企んでやがる?」
「ぐるるる……ガアッ!」
「あら、火が吹けるなんてすごいわね。私、この子を飼うわ」
問い詰めてくるグレイに向けて火を吹いたヴァレリアス。
一瞬にしてグレイが煤けた顔になってしまったが、ジャスミンがそれを気に留めることはなかった。




